第14話 店
4231年3月8日
昨日、私エリナは商業ギルドに登録した。
なぜ変身したかと言うと、15歳以上じゃないと登録できないからである。
性別は、男でも良かったのだが女の子のほうが色々便利だと考えたからで、決して女の子になってみたからではない。
他にも、冒険者だと思われないようにか弱そうな女の子になった。
これで馬鹿な大人たちが強硬手段で屈強な男たちを送ってきたとしても、私は簡単に退けることが出来る。
顔もそこそこ可愛く整え、服装もそれなりに高いものを買い着替えた。
人は第一印象が大事だ。
ブサイクでも清潔感があればなんとかなるが、清潔感がなければ顔が良くても印象は悪くなる。
そんなこんなで、15歳の女の子エリナになりきっている。
この商業国家オルミア共和国は、商業国家というだけあり様々な店の本店がある。
前の世界でいうハイブランドが立ち並んでいる通りもあれば、様々な商人がテナントを借り魔導具や日用品、武器や防具まで売っている。
商業ギルドに登録していれば、担保にもよるが簡単に融資を受けたりテナントを借りる際の保証人代わりにもなる。
商人をやるのなら商業ギルドに登録しないのは、損でしか無いのだ。
そして、この世界には会社のようなものが存在しておりその中でも3大グループと言われ各業界で1番のシェアを誇っている企業が3社ある。
レストランや食品関係に強いヴァルモントグループ、魔導具や武器防具に強いクロウグループ、総合商社のイシュタール商会がある。
この3大グループ全て、このエメリアンに本社があり他の国の貴族と同様かそれ以上に権力がある。
そのため他の国の王族や貴族とのパイプがある。
これが昨日この街を調べて分かったことだ。
商業ギルドが便利で登録するべきなのは、すぐに理解したため私は女装し登録した。
私は今情報収集も兼ね、様々な店をウィンドウショッピングしている。
主に魔導具屋を中心に見ており、市場調査をしている。
正直言うと、フロストヘイブンのシルバームーンとあんまり変わらない。
ちょっと珍しい物も置いてたりするけど、それも材料さえあれば私でも作れる。
その肝心な材料を仕入れるルートやコネが無いため私は困っている。
シルバームーンでは、材料関係はエドリックの店なだけあってエドリック自身が全て仕入れ、私は魔導具を機械のように作っていただけであった。
こんな事であれば、仕入れ方を教わったり仕入先を紹介して貰えばよかった。
イシュタール商会から仕入れているのは知っていたが、ここまで大企業だとは思っていなかった……。
武器や防具も店の数が多く、様々な職人の武器や防具が見れて面白い。
だがあまり見ただけじゃ良し悪しが分からないんだよな〜……。
クロウグループの魔導具や武器防具は安定した品質の生産ラインを所有しているため、店舗に鍛冶屋がいるのではなく自社で作りそれを仕入れ売るという形態を取っている。
前の世界で言うフランチャイズ形態で、他の街にも支店を出しシェアを拡げていった。
前の世界で、アニメやラノベで異世界に触れてきた私としては、店にこだわりのある鍛冶職人や魔導具師が居たほうがロマンがある。
これだけ様々な工房があるなら今度良い職人が居ないか探すのもいいな。
オーダメイドで作ってもらいたいものとかもあるし……。
よし、今度は食料品関係を見てみよう。
これは重要である。
この世界には食品衛生法のような法律がないため簡単に飲食店を出店できる。
ここで、前の世界で皆が好きな食べ物を作るために必要な食材が、安ければそれを作り商売にすることだって出来る。
やっぱり、甘味料が高いな……。
簡単に手に入れることが出来ればスイーツ作ってボロ儲け出来るんだけどな。
この世界の主食なだけあって小麦がバカほど安いな。
この世界での小麦の食べ方は、パンにするかパスタにするかお菓子にするかだ。
この世界に来て小麦を育てたこともあった。
ずっと思っていたが、関西の粉もんが食べたすぎる。
よし、この世界の皆もパンとパスタは飽きただろうし、関西の粉もん屋さんをこの世界で流行らせたる。
そうなったら、まずは小麦粉を大量に仕入れるのと、お好みソース、マヨネーズの準備やな。
小麦粉は初め、どこか安い店で買っておいて安定して集客ができるようになってからイシュタール商会から仕入れるようにしよう。
マヨネーズの材料も同じ方法しようかな。
問題は、お好みソースの作り方やな。
材料は、前の世界でソースの原材料名見たことあるからだいたい分かるけどあんまりどう作ったら良いかわからんな。
とりあえずトマトの酸味と、スパイスと、果物の甘味が必要なのは知ってるんや……。
ここは、試行錯誤で頑張って作ってみるか……?
お好み焼きやたこ焼きが食べられるんやったら全然頑張れる気がするわ。
関西の血が騒いできた。
よっしゃ、やったろやないかい。
4231年3月27日
私は、屋台形式でお好み焼き屋を始めることが出来た。
お好みソースも試作品3号が良い出来で、これでお好み焼きを食べた時思わず涙が出てしまった。
屋台には削り出しの鉄板を工房の職人さんにお願いして作ってもらい、それに火魔法で鉄板を温める魔法を付与し、魔石で応用魔導具を作ってみた。
応用魔導具は基本的に魔石を付けないが、やってみたら魔石を付けて作成することが出来た。
普通の火をつけるだけの応用魔導具は、組んである木に火をつけるだけである為魔石を付けると勿体ない。
これと同じように、応用魔導具は基本的に一瞬しか使わなく、基本魔導具のように継続してマナを送ることが無いため元来魔石を使わない。
だが、今回は継続的に鉄板を温める火魔法を付与するのに魔石を付けないと、使用者のマナが枯渇してしまう魔導具が出来るのだ。
試してみたら出来ちゃった鉄板を付けて私の粉もん屋台が出来た。
メニューはキャベツ焼き銅貨30枚と豚玉銅貨50枚と焼きそば銅貨40枚。
値段設定も安めにして、おやつとしても食事としても食べられるリーズナブルな価格にしてみた。
私の屋台は、最初は聞いたことのない食べ物を売る屋台で皆座ろうとはしなかった。
そこに怖いもの見たさで、若い男性が座った。
男にメニューの説明をすると、男性はお好み焼きと焼きそばを注文した。
私が焼きそばを焼き始めると、周りに豚肉の油の匂いとお好みソースのなんとも言い難い酸味と甘味の調和が取れた匂いが漂っていた。
座っていた男はもちろん、近くを通った人たちが後ろを振り向き遠くから覗いてくるのが見えた。
お好み焼きも焼き始めると、当然始めてみたため興味津々に近づいてきた。
先に焼きそばが出来たため男に焼きそばを提供する。
「どうぞ、焼きそばです。こちらはこのマヨネーズをお好みでお掛けしてお召し上がりください。私は初めはそのまま食べて後でマヨネーズを掛けてお召し上がるのをおすすめします。」
私はそう言いお好み焼きを焼くのに意識を移す。
焼きそばを前に男は恐る恐るフォークを使い麺をすくい上げる。
フォークで麺を口に入れると、男は目を見開いた。
目の前で漂っていたソースの酸味と甘味の匂いが口の中で広がり鼻まで通る。
ソースの野菜や果物の甘味、少しのトマトの酸味、遠くで感じるスパイスのアクセントが絶妙である。
男はフォークで麺をすくい一心不乱に麺をすする。
「これは……美味い……!」
男は口に麺を含みながら感想を言う。
「試しにこのマヨネーズを掛けてみてください。更に美味しくなりますよ。」
男はフォークで麺をすくう手を止め、マヨネーズに手を伸ばした。
初めての調味料、少しだけ掛けて口に麺を運ぶ。
次の瞬間、その調味料を焼きそばにめいいっぱい掛け始め口いっぱいに頬張る。
一瞬にして焼きそばの皿は空になった。
それと同時にお好み焼きが焼き上がる。
「こちら、豚玉お好み焼きになります。こちらもお好みでマヨネーズをおかけになってお召し上がりください。」
焼きそばは、この世界にもパスタがあるため男はあまり迷うこと無く食べることが出来た。
だが、このお好み焼きは正真正銘初めて見る食べ物である。
どうやって食べるかすら分からない。
フォークで綺麗に切り分け、初めは出されたままソースが掛かったお好み焼きを食べてみる。
口の中にはふわふわの小麦粉の生地に、キャベツのシャキシャキ、焼かれた豚の脂の旨味にカリカリの食感。
そして、先程の焼きそばと同じソースの甘味と酸味の心地の良いハーモニー。
男は食感と味と風味を楽しみながら熱さも忘れハフハフしながら頬張る。
ここで男はマヨネーズに気付く。
男は、笑みを浮かべながらマヨネーズを手に取り、お好み焼きに白い線を描く。
頭の中で味がもう想像できたのだろう。
マヨネーズが掛かったお好み焼きを食べ、いい顔をする男性を見て私は幸せになった。
程なくして男は食べ終わると満足げにお金を払い去って行った。
この若い男性は後に常連となった。
男が去った後、ソースの匂いに釣られ男性の食いっぷりに興味を持った人が座り、見事にソースとマヨネーズの虜になっていった。
ある男は、「このソースとマヨネーズの作り方を教えてほしい、お金は払うから。」と言われたが断った。
やっぱりお好みソースとマヨネーズは何処の世界でも皆好きなんだな。
私は、この世界の人に粉もんを食べてもらえてすごい満足だし嬉しい。
もっと流行らせたい、もっと好きになってもらいたいと思った。
店を大きくしてメニューを増やしたらモダン焼きや大阪のふわふわの熱々のたこ焼きも出してみよう。
転生したけどこの世界って自己管理能力ってスキル取得できる? 乙浜 涙 @39pon
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