第13話 商人
4231年3月7日
俺は魔導具を、師匠のエドリックと同等の質まで作成することが出来るようになった。
そのため、エドリックの店シルバームーンの店員として働き、それを修行としていた。
今日はシルバームーンの定休日。
俺は宿でダラダラしていた。
給料を貰っていたがそこまで多くない、が俺には2年程遊んで暮らせる程の貯金があった。
奴隷から開放された後から、生きるために毎日お金を稼ぎ強くなろうとした。
最近は、その疲れを癒やすかのように休日は何もせず、たまに外に行き散歩やウィンドウショッピングをしていた。
去年は、怒涛の一年であった。
親に売られ、奴隷として生き、冒険者に買われ、荷物持ちとして働き、冒険者になり、魔導具師にもなった。
少しくらい休憩するのもいいだろう。
俺はふと思った。
また俺は、目的を見て見ぬふりして怠惰を貪っているのではないか?
今お金はあるが、いつかは失くなる。
その時に俺は、またお金を稼ごうと動けるのか?
前の世界で俺が死ぬ前のように、やろうと思っているのにやる気になれない状態になったらどうする?
俺は怖くなった。
最近休む度にこの考えが頭から離れない。
じゃあ休みの日に、冒険者として依頼を受けお金を稼ごう。
そう思ったこともあった。
だが、もう体は動かなかった。
今日は雨だから、次の休みの日からにしよう。
今日は起きるのが遅くなったから、次にしよう。
今日は疲れているから、次にしよう。
理由は何でも良かった。
これを2ヶ月弱続けていた。
前の世界と違うのは、まだシルバームーンで働いているだけマシということだけだった。
それも、作りたいものがあるために弟子になったのに、俺はその計画も進める事が出来なかった。
ただ、店で働いていただけだったのだ。
俺は、転生しても変わらないのか。
また自分の自己管理能力の無さに辟易しないといけないのか。
こんな事をずっと考えていてもキリがない。
俺は、気分を変えるために外へ出る。
平日のお昼過ぎだからだろうか、人もまばらで時間がゆったりしている。
食欲もないし、あてもなく歩く。
ガンッ!
後頭部に痛みを感じたがそれが最後の記憶だった。
ここは何処だ?
見覚えのない牢の中のようだ……。
周りにも同じように牢がいくつかあり、同じように人が入っていた。
向かいには同年代の子供が1人入っていたが、他の牢には大人もいた。
人攫いに捕まったか?
まずはここを出ないとな……。
「ここはどこ?」
俺は向かいの牢の子供に聞いてみた。
「……知らない。」
知らないかぁ……。
他の大人たちも、我関せず焉としている。
どうしようか……。
そこで気が付いた。
俺のポーチと魔導具が全て盗られていた。
テントのリング型魔導具、周りを明るくするリング型魔導具、初級治癒魔法のリング型魔導具、メモのイヤーカフ型魔導具、そしてギルド証のリング型魔導具の5つを盗られていた。
カツン……カツン……カツン……。
誰かがこちらに近づいてくる音が響く。
松明の明かりでゆらゆら動いている人影が、こちらに近づいてくる。
カツン……カツン……カツン……。
俺の牢の前で人影の動きが止まる。
「久しぶりだな。」
その人影の正体はマルコだった。
「フロストヘイブンで1人でいるお前を見かけた時は驚いたよ。お前を買っていった冒険者たちは死んだのか?」
気付かぬ内に見つかっていたか。
マルコが牢の鍵を開け、入ってくる。
ボコッ!
「魔導具屋の手伝いをして生活してたみたいじゃないか。」
ボゴッ!
バギャッ!
またこれか。
俺は殴られ蹴られたが無抵抗を貫いていた。
ぶち殺してやろうかと思ったが我慢した。
今騒ぎを起こしても警備が強化される恐れがある。
俺には魔法がある。
いつでも殺せるんだ。
「お前はこのオルミアで売ってやる。あの街で売るとお前の知り合いに邪魔されるかもしれないからな。しかも、ここは奴隷がよく売れるんだ。」
言いたいことを言い終えると殴るのをやめ、牢から出ていった。
さてこれからどうしようか……。
オルミアねぇ……。
母のアンナにこの世界の国について聞きメモしたことがある。
俺が生まれたグランメア村があるヴェルディア王国は、アルデンティア大陸の南にあった。
アルデンティア大陸には7つの国がある。
俺がこの間まで住んでいたヴェルディア王国。
今俺がいる商業国家オルミア共和国。
傭兵国家サンガルディア共和国。
鉱山国家ベレスタン王国。
水の都アクアリア。
芸術大国ノヴェリア公国。
宗教国家エンシャリア聖教国。
この7つがある。
アルデンティア大陸の西にヴェルミリア帝国大陸という、名前の通りヴェルミリア帝国がある大陸があるらしい。
アンナもジョンもヴェルディア王国以外の国に行ったことが無いため名前しか知らないらしい。
それに加え、この世界の地図は大変高価である。
地図を買おうと思ったこともあるが、まず売ってなかった。
俺はオルミア共和国の何処かの街に奴隷として入荷されたんだな……。
出ようと思えば簡単に出れるだろう。
だが、出た後どうするかなんだよな……。
今のところオルミアにいるっていうことしか分からない。
フロストヘイブンに戻ってもまたあの堕落した日々を繰り返し、あの思考が頭にこびりついて離れないのは予想がつく。
ここは一旦環境を変えて、生活をしてみよう。
幸い、マルコは俺が冒険者だという事を知らないようだった。
皆は心配するだろうが、俺にとってはいい機会だ。
いつか戻って無事を知らせよう。
貯金もギルドの銀行に預けているため、当面金に困ることはない。
考えは纏まった。
よし。出るか。
俺は、右掌を伸ばしそこから水魔法を高圧で70cm程出して剣のようにした。
俺はジェットブレードと名付けたそれは、魔法を研究している時に習得した。
高圧の水は硬いものを切れる。
だが、魔法は遠距離で使ってなんぼ。
ジェットブレードを使う機会は殆どなかった。
俺はジェットブレードで牢の檻を切り外に出た。
まずは、俺の魔導具を取り返さないとな。
この部屋には奴隷の入っている牢と、上に上がる階段しかなかった。
奴隷は何人か居たが、皆生気はなく俺が外に出ても無反応だった。
ラノベやアニメの異世界転生者は、ここで奴隷を助けるんだろう。
だが、俺は助けないぞ。
助けるのには責任がいると思っている。
俺には自己管理能力が無い。
自分の行動すら責任を持てないただの6歳である。
前の馬車で子供達を助けた件は、ギルドや教会に丸投げしたしマルコへの仕返しのおまけだ。
俺はこういう事が起きた場合は、人を安易に助けないと決めている。
友達や恩がある人達は別だ。
その場合は、何があっても誰であっても許さない。
俺は人に見つからないように階段を上がる。
階段にはまだ続きがある。
牢がある部屋は地下1階だったようで、ここは窓があり外が見える。
外は明るく昼間のようだ。
1階にはフロストヘイブン同様酒場になっているようだが、昼間のため人は居ない。
結局1階には無いようだった。
俺の魔導具は何処にあるんだ?
上も探してみるか……。
階段を上がるとそこには部屋が2つあった。
どっちかにあればいいんだけど……。
皆がくれたプレゼントだ。
売られていたら許せないな……。
左右に部屋があるが俺は右を選ぶ。
前の世界の日本では、左右どちらかを選択する際に右を選ぶ理論を狂信している者は多い。
俺もそれだ。
中が見えないため俺は警戒して右の部屋の扉を開ける。
中に人は居なかった。
この部屋は倉庫になっているようだ。
ここにありそうだな。
探すついでに他のものも品定めして、良い物があれば頂戴させて頂こう。
ん〜どれも微妙だな〜。
どれも俺が作れるような物ばかりだ。
お、俺の物が纏めて置いてある。
よかった〜。
なんか他にないかな?
お、変身魔法のリング型の魔導具!
これ欲しかったんだよな〜。
これは想像した人に変身できる魔導具だ。
体格や声帯までも変えてしまうためバレにくく、汎用性もあるため本当はすごく高価だ。
それに加え、これは闇魔法の応用魔導具である。
闇魔法を付与する場合は、基本的に自分が使用できなければ付与できない。
その為もあってか、闇魔法の魔導具の相場は高くなっている。
ラッキー!掘り出し物すぎる!
よし、変身してから外に出るか。
あ、どんな人に変身するか決めてなかったな……。
どうしようかな……。
あ、いいこと考えた。
よし、変身できた。
カランコロンカランッ
俺はオルミア共和国首都エメリアンの商業ギルドに来ていた。
登録するためだ。
「すみません。商業ギルドに登録したいんですけど手続きに際し必要な物などありますか?」
「必要な物は登録料金貨1枚だけでございます。あとは書類に貴方の情報を書いて頂くだけでございます。」
「そうですか。それでは登録お願いします。これ金貨1枚です。」
第13話 奴隷
「は、はい。分かりました。それでは、この書類に貴方の名前、性別、生年月日、屋号をお書きください。」
名前 : エリナ
性別 : 女
生年月日 : 4215年7月10日 15歳
屋号 : カワカミ
「承りました。少々お待ちください………………。これにて登録は完了いたしました。この魔導具をお受け取りください。こちらを見せることで殆どの国に入国することができます。ですが、ギルドのルールを破ればギルドの敵になります。商業ギルド証はリングの魔導具になってます。それで商業ギルド証の表示やギルドのルールが確認できます。」
冒険者ギルドと全く一緒やな。
俺、もとい私エリナは商人になった。
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