第12話 魔導具
4230年10月12日
「「「 誕生日おめでとう!レン! 」」」
俺はこの日7歳の誕生日を迎えた。
霜花亭で、リリアンさん、レイナ、エリック、エリーズさんに祝ってもらっていた。
レイナに助けてもらったあの日の後から、エリックとも話す機会が増え、エリックにも霜花亭を紹介し、たまに一緒に夕食を食べていた。
去年までは、家族に祝われていたが、今年はその顔ぶれはなく……。
だが、悲しむことはない。俺は幸せだ。
こんな俺のことを祝ってくれる人が、家族以外にもいたのだ。
「皆さん、ありがとうございます!」
目の前には、豪華な食事が所狭しと並んでいる。
圧巻だ。何を食べようか悩むなこれは。
そんなことを考えている時、レイナが話しかけてきた。
「あの……これ誕生日プレゼント!」
レイナがそっぽを向きながら、ぶっきらぼうに小さい箱を渡してくる。
「わぁ……ありがとう!」
開けてみると箱の中には、ブレスレットが入っていた。
それは、俺が苦手なリング型ではなく、アルファベットのCの形をしたバングル型であった。
リング型は不安定で、腕の間を動くのが煩わしくて苦手だったため、これは嬉しい。
恐らく、魔石は付いていないが魔導具なのだろう。
「これは?」
「魔導具師さんに、うちが特別に作ってもらったやつで、初級の治癒魔法が付与されてるよ。」
おお!すごい助かる。
高いんじゃないのか?と気になったが、プレゼントの値段を聞くほど野暮じゃない。
だが、それより気になることがある。
「そんな人がいるの?」
「最近、近くに店を出したみたい。冒険者に好評で、最近ギルドではその話題で持ち切りよ。」
リリアンさんが代わりに答えてくれる。
なるほど。そんな店ができたのか。
これは、行かなければ。
レイナにはプレゼントの件と魔導具師の件、2つに感謝しないとな。
「レイナありがとう!すごい嬉しいよ!」
レイナがはにかみ笑う。
その後、エリックが良い材質のナイフ、リリアンさんがポーチをプレゼントしてくれた。
エリーズさんは、この豪華な食事がプレンゼントだ。
前の世界と違い、この世界では誕生日にケーキを食べる文化が無い。
ケーキが無い訳では無いが、甘味料が高価なため平民が憧れる貴族や王族が食べるお菓子として認識されている。
ケーキだけでなく洋菓子全体がそういう認識だ。
そんな事を考えていると、甘い物の舌になってきたため考えるのをやめた。
今は目の前の食事に集中しよう。
4230年12月7日
この1ヶ月俺はお金を貯めていた。
そのお陰で俺の貯金は金貨5枚弱になっていた。
俺が泊まっているこの街で一番安い宿屋が、1泊1食付き銅貨50枚だ。
これで2年程何もしなくても寝泊まりは出来る。
俺が金を貯めたのには、理由がある。
カランカラン
俺は魔導具屋シルバームーンに来ていた。
「いらっしゃいませ。」
見た目10代後半の男性が出迎えてくれた。
俺はその男性に話しかける。
「すみません。」
「はい、何でしょう?」
「このブレスレットの魔導具は貴方が作ったのでしょうか?」
俺はレイナがプレゼントしてくれたブレスレットを指し聞く。
「はい。正確に言うとブレスレットに魔法を付与しただけで、ブレスレット自体は既製品ですが。」
「なるほど。これは誰かに教わったのですか?それとも闇魔法か何かで魔法を付与できるんでしょうか?」
「これは、師匠に教わりました。幼い頃、森で魔獣に襲われ両親を亡くし森で彷徨っていたところを師匠に拾われました。それから10年程修行し、最近やっとこの店を開けることが出来ました。」
「なるほど、魔法ではないと。お兄さんお名前は?僕は冒険者のレンと言います。」
「僕はエドリックです。」
聞きたかったことを全て聞き終え、俺は本題を話し出す。
「エドリックさん。単刀直入に言わせてもらいます。」
「は、はい。」
「あなたの弟子にしてください!」
「……え、えええぇぇぇぇ!?」
そんなに驚くもんかね?
「り、理由を聞いてもいいですか?」
「自分で作りたいものがあるのと、単純に作成方法が気になるからです。」
「う、うーん……。」
「……駄目でしょうか?」
「……いいでしょう。ですが生活費は大丈夫ですか?修行中は給料を出せないのですが……。」
「大丈夫です!そのために金貨5枚程貯金をしましたので。」
「準備は万端ということですね……。分かりました、とことん鍛えてあげます!」
そうして、俺は魔導具師エドリックの弟子になり、魔導具師としての道を歩むことになった。
4230年12月10日
今日、魔導具屋シルバームーンは定休日である。
2人の男が店の奥の工房に居た。
「まず、魔導具の仕組みから教えていくね。魔導具には種類が2種類ある。それは分かるかい?」
「はい。」
「その違いは?」
「攻撃的な魔法を付与してるのが魔石なしの魔導具、日常的な魔法を付与してるのが魔石付きの魔導具……で合ってますか?」
「うん、考え方的には合ってるね。厳密に言うと、6大魔法の火、水、風、土、光、闇の魔法を付与しているのが魔石が付いていない魔導具、応用魔導具。君が持っている初級治癒魔法が付与されているそのブレスレットも応用魔導具だよ。それ以外の魔導具を基本魔導具という。テントを出す魔導具や、自分の周りや前を照らせる魔導具、その他魔石が付いている魔導具のことだ。この呼び方は基本、魔導具師しかしない。分かりくいからね。」
「なるほど。」
俺はメモの魔導具を使いメモをする。
このメモの魔導具も基本魔導具だな。
「基本的に、応用魔導具のほうが作成するのが難しいとされているんだ。6大魔法の制御を組み込まないといけないからね。対して基本魔導具は単純な構造で単一の機能が多いため簡単とされている。でも、基本魔導具は魔石の質によって組み込める魔法が制限されるんだ。簡単に言うと、魔石のマナ量で使用できる魔法が決まる。その魔石のマナ量は魔石の質で決まるんだよ。応用魔導具では装着者自身のマナを使うため、極端なことを言えばどんな魔法を付与しても作成できて、その魔法を使える分のマナさえあれば使用出来る。魔導具の仕組みはだいたいこんな感じかな。」
「分かりました!」
なるほどな〜。
なかなかに面白いじゃないか。
「次は、魔法の付与方法を教えるね。魔法を付与するには、この魔法陣の上で制御を書かなければならない。この制御のことを魔導具師はコードという。応用魔導具になるとこのコードが複数あり、そのコード群のことをプログラムと呼んでいる。ここまで大丈夫かい?」
まさかの単語の連発で俺は唖然としていた。
この世界で、コードやプログラムと言った単語を聞くとは……。
これ俺にとっては天職か?
「大丈夫です!」
「それじゃあ、続きを話すね。そのコードの書き方なんだけど、コードは順序通り書かないとちゃんと魔法を使えなかったり、上手く動作しなかったりするんだ。その順序のことをアルゴリズムと呼ぶんだけど、これが初めての人には難しくて魔導具師は何年も修行しないといけないんだ。」
やっぱりありますよね〜。
アルゴリズムがあるのはいいね〜。
俺材料さえあれば何でも作れるんじゃないか?
ウヘヘ。
「アルゴリズムの例えなんだけど、応用魔導具で火魔法を風魔法で威力を高めるというプログラムを組み込むとする。それは
『装着者のマナを吸い込む→火魔法を前に出す→装着者のマナを吸い込む→風魔法を前に出す』
としなければ魔導具は正常に動かないんだ。他のパターンだと威力が弱まるか、マナが足りなくなるか、完全に動かなくなる。」
「なるほどなるほど。」
マナはその魔法分を魔法を使用する直前に入力しないといけないんだな。
魔法使用が出力か。
「アルゴリズムには3つの処理方法があるんだ。1つが、さっき例に出したプログラムで"順次処理"。そのままの意味で、書かれた順にコードを処理していく構造だよ。もう1つが"分岐処理"。これも例を出した方が分かりやすいね。」
「基本魔導具でボタンを押すと灯りが付くものを作るとする。そのアルゴリズムは、
『灯りが付いていなくてボタンがオン→魔石からマナを吸い込む→灯りを付ける
灯りが付いていてボタンがオフ→灯りを消す』
こんな感じで処理が分岐しているのが分岐処理の特徴だよ。文章で説明するなら、◯が◯◯なら1の処理、✕が✕✕なら2の処理って感じかな。分かるかな?まぁ、最初は難しいだろうからやりながら覚えていったらいいよ。」
ん〜見事に前の世界のアルゴリズムと一緒だ。
なら最後のも一緒なんだろうな。
「最後が"反復処理"。これも例を出そうか。
基本魔導具でタイマーを作るとする。
『タイマーを設定する例えば60秒→次の処理を設定した秒数回繰り返す、ここでは60回次の処理を繰り返す→タイマーから1秒減らす→秒数が0になったら音を出す』
って感じかな。◯◯の処理を◯回繰り返す処理だね。これこそ説明より実際に触ってみないと分からない処理だから安心してね。」
やっぱり、前の世界と全く一緒だ。
こんなの1ヶ月で何でも作れるようになれそうなんだけど。
「じゃあ今から実際にやってみよっか!」
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