第11話 虫

4230年10月2日


さわやかな秋晴れの続く今日此頃、俺は相変わらず森に来ていた。


ブーンッ!


俺は、全長50cm程の黒いスズメバチ型の魔獣に追われていた。

この魔物、シャドウホーネットを討伐する依頼を受けた。


だが、無理だ。



キモすぎる!!!

前の世界の頃から虫は苦手だった。

こっちの世界に転生してきて、あまり虫を見てないからか勘違いしていた。

それに加え、魔獣だしデカいし切ればいいやん笑、と思っていた。

違った。デカいほうがきめぇ!

しかもめっちゃしつこい。

まじで泣きそう。

使い所は違うけど、これこそ泣きっ面に蜂やん。



絶望しながら、全力で逃げていると前の方に小さい人影が見えた。

まずい……今方向を変えるとなると、減速しなければならない。

絶対に追いつかれる……無理だ……止まれない……誰か助けて………………。


そう思いながら、方向を変えられずそのまま走っていった。

ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……。


「わぁっ!」


ボッ!


バーンッ!


「レン君じゃん!どうしたの?」

そこにはこの前俺が助け、冒険者になったレイナがいた。


「シャドウホーネットが向かってきてるんだ!レイナも逃げて!」


「シャドウホーネット?もう燃やしたよ?」


「え、あ……、ありがとう。助かったよ。」


気付かないうちに火魔法で燃やしてたらしい。

レイナが言うには爆発音が鳴っていたようだが、逃げるのに必死で全く聞こえなかった。


「レン君大丈夫?すごい汗かいてるけど。」


「あぁ、うん、大丈夫大丈夫。レイナは何してるの?依頼?」


「そうだよ!シャドウホーネット討伐の依頼!最後の1匹を探してたんだけど、レン君が連れてきてくれたから助かっちゃった〜!」


すごい。


俺はまだ1匹も討伐できていない。

これは……恥を忍んで手伝って頂けないか頼むしか……。


「そ、そうなんだー。奇遇だねー。僕もシャドウホーネット討伐の依頼なんだー。お願いがあるんだけどさー……。ふぅー……。手伝って頂けないでしょうか……?」


「シャドウホーネット討伐を手伝えばいいの?いいけど……なんで?」


「え……っと、虫が……苦手だから……です。」


「ああ〜〜。そうなんだ〜。手伝ってほしいんだ〜?」

レイナがニヤニヤしながら言ってくる。

しょうがない、ここは頼むしか無いんだ……。


「はい……お願いします……。」


「どうしよっかな〜。」


「……。」


「うそうそ!手伝ってあげる。」


「本当にいいの?」


「いいよー!うち火魔法の適正あって簡単に倒せるし!」


「ああ!ありがとうございます!この御恩は忘れません!」


「やめてよ!今私がこうして冒険者できるのもレン君のおかげなんだしさ。大した事じゃないけど恩返しくらいさせてよ。」


「いえ!大したことです!」


レイナを助けていてよかった。

善い行いは、巡り巡って自分に帰ってくるとはこの事かと初めて実感する……。




ブーンッ!


「レン君!こっち!」


俺はまたもや泣きっ面に蜂状態で走っていた。


ボッ!


バーンッ!


「よし、最後の1体倒せたよー!」


「なんで、俺ばかり毎回追いかけられるの……。」


シャドウホーネットと接敵すると、攻撃する間も無く猛スピードでこちらに突進してくる。

そこで、散開して追いかけられている方が囮になり、もう一方が倒すという作戦を立てていたのだが、毎回俺の方を追いかけてくる。


「まぁまぁ。無事に依頼完了したんだからいいんじゃないの?」


レイナは苦笑しながら言う。


「まぁ、そうだな。レイナ本当にありがとう。ギルドに戻ろうか。」


気が付けば、西日が差していた。

暗くなるのも早くなり秋の到来を感じる。




カラン、コロン!



「レン君、随分遅かったわね。何かあった?」


「いや、何も……。これが、シャドウホーネットの素材です。」


「そう?元気がないように見えるけど……大丈夫?とりあえず素材の確認するわね………………。確認取れたわ。これが今回の報酬よ。お疲れ様。」


今回の報酬は銀貨1枚銅貨10枚だった。

少なすぎる。

ゴブリンの依頼とあまり変わらないじゃないか。

もう絶対にこの依頼は受けない。


「いえ、大丈夫です……。ありがとうございました……。」


宿屋に帰ろうとギルドを出ると、前にレイナの後ろ姿が見えた。


「レイナ!」


「あ、レン君。どうしたの?」


「今から帰りか?よかったら、今日のお礼にご飯でも食べに行かない?」


「気にしなくていいのに〜。というか、レン君って本当に6歳?誘い方が30代みたいだよ。」

レイナは笑いながら言ってるが、核心を突かれた俺は内心すごく焦っていた。


「い、いややめてよ〜。ピッチピチの6歳だよ。で、どうする?」


「いいよ!行こう〜!」




チリンチリン


ギルドのとは違い、甲高い音が鳴る名前の分からない物。


「いらっしゃいませ〜!ああ、レン君。今日は2人?」


「はい。」


「あら、可愛い娘を連れてるじゃないか。彼女かい?最近の子はませてるね〜。」


それを聞いてレイナが黙って下を向いた。

明らかに困っている。


「そんなわけないでしょう。レイナが困ってるじゃないですかエリーズさん。」


そう言うと、レイナは俺を睨んできた。


「はぁ、あんた分かってないね……。レイナちゃんいらっしゃい!あたしはエリーズ。この霜花亭そうかていの店主だよ。よろしくね。」


「はぁ……。エリーズさんよろしくお願いします!」



俺等は、席に案内されおすすめを注文した。

この霜花亭は安い割に美味い。

前の世界では、食事が趣味の1つと言っても過言ではないほど食事が好きであった。


ここは、俺が冒険者になったばかりの時に、リリアンさんが紹介してくれた食堂だ。

数年まともな食事を取っていないため痩せ細っていた俺を、心配してのことだった。

リリアンさんは、俺がここに来る前に話をしていたらしく、エリーズさんは栄養満点でボリュームのある食事を出してくれた。

俺は、村が凶作になってからお腹いっぱいご飯を食べることが出来なかった。

3年ぶりになるだろうか、味が濃く感じたのと腹が膨れたのに感動し涙が流れていた。

食は偉大だ。

生きるために必要なのはもちろんだが、食事中や食事後に感じる様々な感覚も重要だと思っている。

食でしか得られない感覚もあるし、美味しいと感じると脳内麻薬と呼ばれる物質や、抗不安作用や鎮静作用のある脳内物質を放出する。

三大欲求に数えられるのも納得である。


それから、俺はほぼ毎日ここに通っている。

エリーズさんも良くしてくれてありがたい。

この世界にも、優しい人はいるんだなと安堵した。



俺はレイナと、レイナが冒険者になってからの話を聞いていた。

レイナは、火、風、闇の魔法適性があった。

俺と同じくマーガレットさんに魔法を教わったらしいが、少し時間がかかったらしい。

だが、今は魔獣討伐の依頼を遂行できるほどには使えるようになっている。


それに加え、レイナは闇魔法を使うことが出来る。


レイナの闇魔法は"シャドウウォーク"と呼ぶことにしたらしい。

ユニーク魔法なので、自分で名前を付けてもいいし、付けなくてもいい。

レイナは付けたようだが、なかなかネーミングセンスがあるようだ。


して、その能力は簡潔に言うと影の中に潜むことが出来る、だ。

汎用性が高く、単純に強い。

ぜひ、斥候としてパーティーに加わってほしい。

冒険者ランクを上げたら、パーティーに誘う第一候補だな。


しかし、制限もある。

影が途切れていると移動することが出来ない。

だから朝から昼までと、満月の日が使いにくい。

逆に、新月の日は無敵だ。



そんな話をしていると、エリーズさんが料理を運んできた。

今日の料理も、多いしすごい美味そうだ。


「「いただきます!」」


俺の闇魔法はどんな魔法なんだろうか……。



そんな事を考えながら、食事に舌鼓を打つ。

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