第10話 依頼
4230年9月23日
ヒュンヒュンヒュン!
ギャアッ!
「うーん、モートンが使ってたウインドカッターってやつ、使ってみたけど微妙だな……。やっぱり敵の周りの酸素を抜いたほうが楽に倒せるな……。」
俺は魔法を教わった後、ギルドでEランクの依頼を2件受けた。
Dランクまではソロで安全に行える依頼が多い。
Cランクからはパーティー推奨の依頼がほとんどだ。
俺は所謂、おつかいクエストをこなして宿代を稼ぎ、その日をしのいだ。
次の日からも、魔法の鍛錬と薬草採取などの依頼をこなしたが、今の所持金は0に近い。
装備や魔導具に浪費してしまった。
だが、これは必要なもので……。
冒険者ランクが上がればこの貧困問題は解決されるだろうと安易に考えている。
今の冒険者ランクはEランクだが、1つ上のランクの依頼を受ける事ができるので、俺はDランク依頼のオオカミの魔獣、ストームハウンド5体の討伐を行っている。
あの時、アイザックとエミリを殺した魔獣。
最初は、恐怖で足がすくみ魔法も上手く使えず焦った。
だが、俺はラズロ達の戦い方を見て学んだ。
あいつらの戦術を真似て、遠くからウインドカッターを打ちまくり倒すことができた。
魔獣討伐の報酬はおつかいクエストよりも多く、魔法の鍛錬兼実験も出来るため最近はいろんな魔獣を討伐している。
今日も普通のゴブリンを10体討伐する依頼を受け、森にやってきている。
ここは、今俺が拠点にしているレインフィールド領の小都市フロストヘイブンと、ドラモンディ領の小都市シルバーリッジを繋ぐ道路がある森である。
ドラモンディ領は、半年程前俺が住んでいた村がある領で、もう1つの小都市ミストウッドには行ったことがある。
ここヴェルディア王国には4人の侯爵がおり、その侯爵がそれぞれ治めている領地がある。
領地には、公爵が治める大都市と2人の公爵がそれぞれ治める小都市2つがある。
フェリックス・ドラモンディが治めるドラモンディ領、小都市ミストウッドとシルバーリッジ。
エレアノール・レインフィールドが治めるレインフィールド領、小都市フロストヘイブンとミスティウィンド。
ヴィクトリア・ハートウッドが治めるハートウッド領。
オリバー・シルバーレイクが治めるシルバーレイク領。
ハートウッド領とシルバーレイク領の小都市については、特に聞いていない。
これはこの前、冒険者登録を担当してくれた受付のリリアンさんが教えてくれた。
リリアンさんはあれから俺のことを気にかけてくれて、ほぼ俺の担当受付になっている。
この依頼もリリアンさんが勧めてくれた依頼で、注意点も詳しく教えてくれた。
ゴブリンは群れでいることが多く、最近このフロストヘイブンとシルバーリッジを繋ぐ道路でよく商人の馬車や、移動している人を襲っているらしい。
そのことから、近くにゴブリンの村があるかもしれないと予想していた。
村を見つけたら、ゴブリンに見つからないようにその場を離れるよう口を酸っぱくして言っていた。
さっきもゴブリンが3体道路の近くにいたのでウインドカッターで首を落としたところだった。
魔法の使い方の研究に夢中で、最近は魔獣に怖がることを忘れた。
だが、俺は慢心をしない。
俺の目の前で5人も、人が魔獣に殺されるところを見ている。
魔獣の怖さ、強さは知っているつもりだ。
新しい魔物を討伐する際は、その魔物の特徴や戦い方を調べ安全マージンを取るようにしている。
ましてや、今はソロだ。
細心の注意を払って討伐しているつもりである。
歩いていると、遠くにゴブリン5体が見えた。
本当にゴブリンの村があるとしか思えない程の遭遇率だ。
5体は多いので俺は簡単な範囲攻撃をすることにした。
それは風魔法で敵の回りの酸素を失くす作戦だ。
俺はこの前、掌の上で雷を作った時、水の回りの空気を抜いた。
あの時は、雷を作る過程以外のことを考える暇はなかったので作業的にやっていたが改めて考えると、この風魔法の使い方は強い。
ゴーレムやスケルトンなどの無機質モンスターやアンデッドには効かないが、生物なら何でも、それこそ人間にも効く。
これの対処は、風魔法を使い自分の周りに酸素を発生させるくらいしか、今は思いつかない。
だが、この魔法の使い方を知っていない限り、咄嗟に回避することは不可能だろう。
とりあえずの自衛方法を見つけて安心している。
ちなみにまだ奴隷商には見つかっていないと思う。
同じ街にはいるため、街にいる時は常に警戒している。
あまり目立たないために、冒険ランクも今はあげていない。
俺は後2体のゴブリンを討伐するため、森を散策していた。
歩いていると獣道のような、草を掻き分けられた道が出来ていた。
ゴブリンがいると思い、俺はその道の横の草むらに隠れながら進んでいく。
その道の先にあったのは、ゴブリンの村であった。
木を建材にした家が10軒前後見える。
俺の出身の村と同じくらいの規模である。
これは脅威だ。
ギルドに報告するため俺は情報を集める。
家にいたり外に出てる分は分からないが、だいたい50体ほど、家や外にいる分を考慮すると100体前後と考えていいだろう。
この村の中に一際目立つ大きいゴブリンが数体いた。
それを俺は最近見たことがあった。
ヴァルゴブリンだ。
ここまで情報を取れたなら十分だろう。
帰ろう。
チリンチリン!
ギャア!ギャアギャ!
ちょっと……やってしまった……。
頭良すぎるだろ……。
脅威すぎる。
俺はすぐにその場から逃げた。
多分俺はゴブリンの中で指名手配されているだろう。
顔は見られていないはずだが、ゴブリンが道路の捜索に来たらまずいな……。
あと2体殺さないといけないし道路で待つか……。
うわ、やっぱり来た……。
バレてから20分程経った頃、俺は道路の脇の草むらに隠れていた。
そこに、ゴブリンが7体ほど現れ何かを探しているようだった。
それは、俺なんだろうけど。
うわ、ちょうど馬車も来た……。
タイミングわるぅ〜……。
襲われる前に倒すか〜……。
てか、マルコやん……。
だるぅ〜……。
厄介事に巻き込まれすぎて、冷静さを欠いていた。
マルコがゴブリンに気付いて馬車を止めたな。
とりあえずゴブリンをバレないように殺すか。
俺は風魔法でゴブリン7体の周りの酸素を抜いた。
アギャ!ギャ……ギャア……。
バタ!
バタバタ!
急にゴブリンがもがき苦しみだしたかと思えば倒れ、動かなくなったためマルコが驚いている。
マルコが馬車を引いてフロストヘイブンに向かっているということは後ろの荷車に子供がいるな……。
あいつには借りがあるし助けるか。
俺はマルコの周りの酸素を抜く。
「なん……だ、こ……」
マルコは首を押さえながらもがいた後、倒れた。
殺すことはやめておくか。
目立ちすぎる気がする。
俺は酸素を元に戻した。
死んではないはずだ。
俺はマルコに近寄り、脈を確認した。
死んではない。
荷車を確認するとやはり子供達が7人いた。
「君たち、逃げな。御者は気絶させておいたからもう自由だよ。」
皆驚き、動揺している。
急に自由になり、何をどうすればいいのか分からないのだろう。
普通そうなるよな。馬車に乗っていただけで、自分の家までの道など分かるはずがない。
ここから、家まで帰ったとしても親は困るだろう。
奴隷商が来て、金を返せと言われるかもしれない。
子供が家に帰らなくても来るかもしれないが。
にしても、どうしよう……。
子供達が困っている。
早くしなければマルコが起きてしまう……。
とりあえず街まで連れて帰るか。
「皆、近くに街があるからそこに行こうか。着いてくる人は着いてきて。ここに残ってもいいけど、辛いことしか待ってないよ。」
少し考えた後、5人が俺に着いてきた。
2人は、親に見放されたことがショックなのか、考えることを放棄しているように見えた。
「皆は何歳?僕は6歳。」
「……その前に、お前は誰だ?なんで助けたんだ?」
子供達の中で一番歳上であろう、男の子が聞いてきた。
「僕はレン。冒険者をやってるんだ。僕は半年前、あの御者に連れられてそこの街の店で奴隷として売られていたんだ。色々あって今は奴隷じゃないけど。殴られたり蹴られたりして借りがあったから気絶させた。君たちを助けたのはついでだよ。僕は街に連れて行く以上のことはしないし、できない。ただの6歳だし、今は自分が生きていくのに精一杯だから。」
「そうか……。やっぱり奴隷商に売られたんだな……。俺はエリック。11歳だ。」
そんな事を聞いているうちに町の入口まで着いた。
大体が俺より歳上だったが、一人リアムという男の子だけ同じ6歳だった。
「街についたよ。僕はここからは何も出来ないよ。あいつが来るかもしれないから、とりあえず早くここから移動したほうがいいけど。僕みたいに冒険者になってもいいし、教会に行ったら保護してくれるんじゃないかな?冒険者ギルドに行くなら僕に着いてきて。教会に行くならあっちね。」
厳しいかもしれないが、俺は何も出来ない。
ここで一人で何も出来ないやつは、これから先死ぬだけだ。
この世界は、死が身近にありすぎる。
選択肢は与えたし、俺は優しい方だと思う。
そう思おう。
最終的に、年長者のエリックと、女の子で9歳のレイナがギルドに行くようで俺に着いてきた。
他の3人は教会に行くようだ。
カラン、コロン!
ギルドの扉が開き名前の分からない物の音が鳴る。
俺だけでも毎回注目されるのに、今回は子供が3人も入ってきたためか、周りがザワザワしている。
遠くから「ここは託児所じゃないんだぞ!」と大笑いしている奴らがいるが無視だ。
「リリアンさん、この子達冒険者になりたいみたいだから案内してあげて。あと大事な話があるんだけど。」
「おかえり、レン君。う、うん。分かったわ。あなた達こっちに来なさい。」
リリアンさんが2人を連れて違う受付に案内してこちらに戻ってきた。
「ところで、大事な話っていうのは?」
「とりあえず、これ今回の依頼のゴブリン達の素材ね。5体くらい多いけど。」
「あ、うん。分かったわ、ちょっと待ってね………………。はい、確認が取れたわ。これが今回の報酬よ、お疲れ様。」
俺は銀貨1枚を受け取りながら話す。
「それで本題なんだけど、森にゴブリンの村があったよ。多分100体前後いるんじゃないかな。あと何体かヴァルゴブリンもいたし、あれは危ないよ。」
「本当に!?やっぱりあったのね……。あの森は確か道路もあるわよね……。支部長に報告してくるわ、ありがとう。」
「レン、今日は助けてくれてありがとう。これから自分で頑張ってみるよ。」
「うちも、レン君みたいに冒険者になって自分で生活できるように頑張るね!」
エリックとレイナが俺に感謝する。
「いえいえ、特に何もしてないよ。この世界は人がすぐ死ぬから気を付けてね。」
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