第9話 冒険者

4230年9月19日


――俺とラズロパーティーは、山の中腹に来ていた。


そこには、洞窟の風貌をしたダンジョンがあった。

両脇には2本の石柱が建っており、内1本には"難易度Ⅱ"と書かれている。


ここが目的地である。

「よし行くぞ。」



洞窟のダンジョンということもあり、内部は暗い。

他の3人は、自分の周りが明るくなるリングの魔導具を使用している。

俺の分は無いため松明を渡された。


道は狭く、近接戦闘が難しい。

それに加え、ダンジョンは迷路のようになっている。

前回のダンジョンの遺跡は、道の両端に明かりがあったため、それを片方だけ消して進んでいくとその道を通ったか分かった。


だが今回は、ダンジョン全体が暗闇な上に、遺跡のような人工物ではなく自然のものだ。

整備されているはずもないため方向感覚がおかしくなる。




探索を開始してから28時間が経った。

半分以上は進んだと思いたい。

1日以上を、細心の注意を払って歩いているのだ。

6歳で荷物持ちの俺はもちろん、戦闘を行っているラズロパーティーの3人は疲弊していた。

今日は安置で2時間ほど、食事と睡眠を取る。

安置は、モンスターが入ってこられない安全地帯のことである。



「おい、起きろ。」

グレタに腹を軽く蹴られて起こされた。

思ったより疲労が溜まっていたのか、出発直前まで寝ていたようだ。

ラズロパーティーは既に準備が完了していた。


「やっぱり難易度2は、敵は強いし道も複雑だね〜。間に合うかな〜?」


「やるしか無いだろ……。これで失敗したら馬鹿にされるぞ。黙って音を聞きながら進め。」


「はい……。」


モートンはラズロに注意され、気を落としながら前に進む。



先を進んでいると、またブラッドバットが3匹飛んできた。

この魔獣は、コウモリ型で普通のコウモリより二回りほど大きく、3〜5匹の群れで襲ってくる。


「まーたブラッドバットか……。」


「皆、耳塞げ。ふぅ……。」


ラズロがそう言い皆が耳をふさいだ後。


「わぁああ!!!!」


急に叫ぶ。

ブラッドバットは、コウモリと同じく目が見えず超音波で敵の居場所を把握する。

そのため大きい音に弱く、大きい音を聞くと一瞬だが怯む。

その間に、前衛のグレタが剣で3匹を斬り伏せていく。


1日以上ダンジョン内で戦闘しているため、ここの魔獣との戦闘も慣れてきたのだろう。

戦闘時間が短くなっている。




――40時間が経過した。


だいぶ奥まで進んできたからか、魔獣が増えてきた。

そのため、安置が見つかる度に休憩をしていた。


「だいぶ奥まで来た。早めにボス部屋を見つけて休息を取ろう。行くぞ。」


残り8時間ということもあり、皆焦っていた。



5分ほど歩いただろうか、道の右側に部屋がある。

こういうところには、アイテムや装備、お金などが入ってる宝箱が置いてあることがある。

もちろん敵がいるかも知れないが、無視するのは勿体ない。

細心の注意を払い、部屋に入る。

俺は部屋の出口付近で、いつも通り待つ。

部屋には何のためか、木箱や本棚などの家具が置かれていた。


「ふーっ、敵はいないな。よし、宝箱開けるぞー!」


グレタが浮かれた様子で言いながら、何の警戒もせず宝箱を開ける。


「お、おい!まt」


ギャアアッ!


ラズロが言い終わる前に、木箱や家具の物陰からゴブリンの上位の魔獣であるヴァルゴブリンが4体飛び出し、グレタとその近くにいたモートンに飛びかかる。


「おい!やm」


ズシャッ!


「あああぁぁぁああ!」


バキャッ!


ボキッ!バキッ!ドビャッ!


血が顔に付きハッとする。

逃げなければ殺られる!


「おい、お前!時間を稼げっ!」


ラズロはそう叫びながら部屋を出ようとこちらに向かってくる。

その前に出口に近い俺が部屋を出る。


そこには、2体の気色悪い笑みを浮かべたヴァルゴブリンが立っていた。

面食らってしまい、動きが止まってしまった。

その間に、後ろにラズロが迫っていた。


「どぉけぇぇええ!」


ラズロは俺の前にいるヴァルゴブリンに気づかず、突っ込んでいく。

次の瞬間、ラズロの体にヴァルゴブリン2体が飛びつく。


ズシャッ!


今しかない、今逃げるんだ。

走って安置に逃げ込むしか助かる道はない。


俺は走った。

後ろから聞こえる悲鳴と、ヴァルゴブリンの鳴き声を聞きながら。





いつの間にか、安置で倒れていた。

助かったのか……?

腕輪を見ると46時間と30分が経過していた。


あと1時間半経てば帰れる……。

よかった……。


だが、帰った後はどうする……?

宿に泊まる金すら持っていない。


お金を稼ぐために、冒険者になったとしても武器や防具を買うお金すら無い。

それと、街で奴隷商の奴らに一人のところを見られたらどうなるか分からない。


まぁ、なんとかなるか。




シュンッ



「おかえりなさいませ。ダンジョン探索は、あら……。ラズロパーティーの奴隷の方ですね。ダンジョン探索は失敗でよろしいでしょうか?」


「はい。」


「承知いたしました。それと、奴隷は所有者が死ぬと所有権が放棄されるので、あなたはもう自由です。では。」


「あ、ちょっと待ってください。僕って冒険者になれますか?」


「はい。なれますよ。冒険者登録を行いますか?」


「あ、じゃあお願いします。」


「承知いたしました。」


「あ、お金ってかかります?」


「冒険者登録にお金はかかりません。それでは、こちらの書類に記入をお願いします。文字が書けないなら代筆しますが、どうされますか?」


「自分で書けるので大丈夫です。」


書類には名前、年齢、生年月日、魔法適性を書く欄があった。


「あの、僕魔法適性わからないんですが……。」


「そこは空欄で大丈夫です。この後、魔法適性を調べるのですが、その前に一応で書いてもらうものですので。」


「あ、そうなんですね。」


そう言い俺は他の空欄を埋める。


魔法適性を調べるのか。

俺って魔法使えるのか……?


使えるなら自衛できるから嬉しいんだけどな……。



書類を書き終えるとすぐに、受付の人が魔法適性を調べるための道具を持ってきた。


「これは、魔法適性を調べるための魔導具です。これの上に手を置くだけで、魔法適性を調べることができます。お願いします。」


俺は、水晶玉みたいな見た目の魔導具の上に手を置く。

すると魔導具が光りだし文字が表れた。


「あなたの魔法適性は、水、風、闇魔法ですね。これで冒険者登録完了です。あなたは、全世界で冒険者として扱われ、冒険者証を見せることで殆どの国に入国することができます。ですが、ギルドのルールを破ればギルドの敵になります。冒険者証はリングの魔導具になってます。それで冒険者証の表示やギルドのルールが確認できます。」


「わかりました。ところで、魔法の使い方ってどこで教われますか?」


「大抵は、親や冒険者の方に教わるのですが……。幼いし奴隷だったわけですし、お金もないですよね……。魔法職だった職員に事情を話してお願いしてみます。座ってお待ち下さい。」


「ありがとうございます!よろしくお願いします。」



15分ほど待った頃、受付の人が1人のおばあさんを連れてきた。


「あんたがレンかい?」


「はい、そうです。」


「そうかい。私はマーガレット。着いてきな。」




俺はマーガレットさんに連れられ、街を出てすぐの開けた草原に来た。


「今からあんたに魔法の使い方を教える。魔法適性は水、風、闇だったね?」


「はい。」


「そうかい。まずはマナを感じることからだ。マナは魔法適性がある人なら誰でも、体中を流れている。それを感じるんだ。今は魔法のことなど考えずに、無心で体の中に巡っているものを感じるんだ。」


「体の中を流れているもの……。」


まずは、容易に感じられる血を感じよう。

うん、手や足に流れているのを感じる。

次はマナだ。


……確かに、前の世界にいたときには感じられなかったものがある気がする。


「感じたようだね。次は、手を出しな。掌にマナを集めるイメージをしてみな。」


俺は目を瞑り掌を出してイメージしてみた。

この体に流れている変なものを……掌に……。


「ほう。器用だねあんた。すぐにマナを発現させるとは。ここからが本番だよ。まずは水魔法からやるかね。掌にマナを集めてそれを水に変えるようイメージしてみな。」


マナを集めて……、水に変える……。


んー……。


ジョボジョボジョボ……。


「わぁあ!」

気付けば掌から水が溢れていたが、驚いたと同時に水は止まった。


「あんたすごいね。こんなスムーズに進むとは思わなかったよ。次は難しいが風魔法だよ。さっきの要領で、掌の上で小さい竜巻を起こしてみな。」


小さい竜巻か……。


まずは掌にマナを集めて……、それを風に変える……。

それを下から上に回すイメージで……。



ヒューーー!


「おお!」


さっきは消えたが今度は維持してみる。


「んーー……。」


維持しているとどんどん竜巻が大きくなっていく。

それを小さくすると今度は、どんどん勢いがなくなっていく。


制御が難しいな。

なかなかにこれは面白い。


「ハハハッ!制御はまだ難しいかね。これを制御できるように頑張るんだね。魔法は自由だ。どんな形にも変えられるんだ。水魔法はどこからでも水を出せるし、制御が出来れば出力を自由自在に変えられ、硬いものでも切れるようになる。風魔法は、風や空気を自由自在に操ることが出来る。これも自由度が高い魔法だね。十人十色の使い方がある。あんたなりの使い方を探してみな。そして派生魔法というものがある。あんたで言うと水と風の派生魔法、雷魔法がある。私は使えないから教えることはできんが、あんたならすぐ出来るだろうよ。掌で水魔法と風魔法で雷を作る過程をイメージするだけだよ。やってみな。」


雷を作るイメージか……。


まず掌に水を作る……、それを風魔法で、水があるところだけ空気を抜いて圧縮する……。

すると水が沸騰する……、もっと圧縮してどんどん温度を上げる……。

その上に冷やした空気を置いて……、蒸気をそこに送り急速に冷やすと……、雲ができた。

これで暫く待つと、上に上がる氷と下に下る氷がぶつかって……、静電気が起きて……。


バチッ!


「はあ……はあ……難しい……。」


「できたじゃないか。上出来だよ。慣れれば過程をすっ飛ばして感覚で雷を出せるようになるよ。後は闇魔法だね。闇魔法は特殊でね、これこそ十人十色なんだよ。闇魔法は皆違う魔法、ユニーク魔法になるからね。これは、自分の中で使い方を知る時が来る。としか言えないね〜。まぁ、頑張ってみな。」


「はい!ありがとうございました!」

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