第8話 ダンジョン

4230年9月18日


この日俺とラズロパーティーは、初めてのBランク依頼を受けることになった。


ラズロのパーティーの運用方法は、極めて慎重であり、作戦もフォーメーションも出発前に決め依頼に向かう。

依頼もそうだ。Cランクに上がった後も、Cランクの依頼を10回クリアし、資金を集め武器防具の買い替えなどを行い戦力を増強してきた。

やり方はどうかと思うが、俺みたいな子供の奴隷を買い荷物持ちの役割を与え、万が一の時の捨て駒として置いてある。



そして今日、ある程度の戦力増強が見込めたため、Bランク依頼を遂行するため森の奥地に来た。


そこには、ダンジョンがあった。

Bランク依頼以上は、それ以下のランクの依頼を遥かに上回る難易度が期待されている。

ダンジョンはそれに含まれている。

Cランク以下の依頼にダンジョン探索の依頼はない。


今回は、最近発見されたダンジョンの調査だ。

どんなモンスターがいて、どんな罠があったか。

ボスと言われるモンスターはいるのか、それはどんなモンスターか。


報酬は、そのダンジョンで手に入れた物全てだ。

Cランク以上の冒険者はこれを主な収入源にしているし、冒険者になるものはこれに憧れている。


この世界のダンジョンの仕組みは、1回でもボスを討伐してしまいダンジョンを出ると、そのダンジョンが消滅する。

そしてまた違う場所でダンジョンが発生するようになっている。

このままだと早いもの勝ちになってしまうので、新しいダンジョンが発見されるとギルドが管理し、ギルドが依頼として挑戦できる権利を与える。

この権利の猶予時間はダンジョンの難易度によって違う。

この世界では、数字とは通常アラビア数字を表す。

だが、ダンジョンの外にはギリシャ数字が古代文字の数字として書かれており、それが難易度の表示になっている。

難易度は下から1、上は10まであり、難易度1なら1日、難易度3なら3日、難易度10なら10日と難易度に応じて制限時間が決まっている。

それを超えると依頼失敗扱いになり、ギルドに強制ワープする。

これは使い捨ての魔導具で、ギルドから人数分支給されている。

ボスを討伐すると、世界に1つしか無いメダルを落とす。

それをギルドに提出することでダンジョンクリアを証明できる。


ダンジョン挑戦資格のない人間が、ダンジョンに入るとそこからは誰も責任が取れない。

冒険者が入り、それがギルドに知られた場合、冒険者の称号を剥奪される。

厳しいルールが有るため、滅多なことがない限り他の冒険者が入って来ることはないし、漁夫の利を得られることがない。

ダンジョンに入れば、他の冒険者の危険はないがそれ以上に危険なことがダンジョン内で待っている。


これはCランクに上がった冒険者全員に、ギルドの者が説明することである。

俺もCランクに上がった時、同行して一緒に聞いていたためすかさずメモをした。



――俺とラズロパーティーはダンジョンの奥。大扉の前にいた。


ここまで20時間ほど掛かった。

ギルドから支給された、強制ワープの魔法が付与された腕輪の魔導具には、ダンジョンに入ってからの経過時間がデジタルで示されている。

このダンジョンは、遺跡のような風貌で魔獣もスケルトンのようなアンデッド系やゴーレムなどの処理が面倒くさいものが多かった。

それに加え、ところどころ安全地帯がありそこで休憩をしたため時間がかかった。

ダンジョンは、難易度1でもかなりの難しさだということが分かる。


油断していては、非戦闘員の俺でも死にかねない。


「ボスがどんなやつか分からないが、細心の注意を払って挑むぞ。」


ラズロがそう言い、皆が頷く。


そして、大扉を開くのだった。



そこには、ダンジョン内に出てきたゴーレムよりも一回り大きく色違いのゴーレムが鎮座していた。


「ゆっくり近づくぞ。」


ラズロはそう言い3人は進んだが、俺は後ろの攻撃の当たらないだろう場所まで避難した。


ゴゴゴゴッ!


大きな音を立てゴーレムが立ち上がった。

立つと、その大きさがまた際立つ。


「行くぞ!」


ゴーレムを倒す際の手順は決まっていた。

ゴーレムは胸の核を壊すことで倒せるが、外殻が固いため時間がかかる。

近接のグレタが注意を引く。グレタの近接攻撃では外殻は壊れないためタゲを取り、速度が遅い攻撃を躱していく。

その間に、モートンとラズロが外殻に有効な遠隔攻撃を胸に行う。

モートンは、風魔法の空気の球を打つ。

ラズロは、矢を様々な特殊矢に変える魔法を持ってるようでゴーレムに対しては爆発する矢を打っていた。



――あれから2時間半が経った。


ラズロパーティーは未だに、ボスのゴーレムと対峙していた。

残り1時間半ほどしか時間は残っていない。


いつもの手順は有効だった。

攻撃速度が遅いためグレタは簡単に避けながら注意をひくことができた。

だが、胸の外殻は少しヒビが入ったほどでまだ壊れる気配がない。


3人は焦った様子だった。


ラズロにタゲが向いたため、グレタが胸に1発剣でで攻撃した、そのときだった。

外殻のヒビに剣が刺さったまま、グレタの手から離れたのだ。


それを見たラズロが叫ぶ。


「そのままにしておけ!俺とモートンは、あの剣を押してそのまま核を壊す!」


そういうと刺さった剣めがけて、空気の球と爆弾矢を放つ。



パリンッ!


30分後何かが割れる音が聞こえた。

すると、ゴーレムが崩れだし跡形もなく消えていった。

ダンジョン内で魔獣を倒しても素材などは何も落とさない。


無事に制限時間内にクリアできたようだ。


部屋の中央に宝箱が出現した。

ラズロパーティーの3人が中を漁る。


「おお!流石にすごいな!1,2,3,4……金貨10枚も入ってるぞ!」


「ネックレス型の魔導具にピアス型の魔導具、おい!オリハルコンの剣があるぞ!グレタ、よかったな!」


「それにしても、クリアできてよかったね〜。僕、間に合わないかと思ったよ。」




シュンッ


俺とラズロパーティーは、ギルドが支給した腕輪型の魔導具でギルドにワープした。

制限時間が迫っていたので歩いて帰るよりワープして帰ったほうが早いと考え、制限時間を待った。



「おかえりなさいませ。ダンジョン探索はどうでしたか?」


「おい、メダルを出せ。」


俺は受付にメダルを提出した。


「少々お待ちください………………。確認が取れました。クリアおめでとうございます。」

ギルドにはメダルが新しいものか確認する魔導具がある。

提出されたメダルをその魔導具にセットすると、新しいものか既存のものか確認され、それが新しいものと判断されるとそれをデータベースに登録する。

Cランクになった際の説明で、そういう感じのことを言っていた。


「おいおい、ラズロ遅かったじゃねえか〜。そんなに難易度1が難しかったのか〜?」

報告を見ていた他の冒険者達が、ワープで帰ってきたのを見て煽ってくる。


「なんだと!?初めてのダンジョンだから慎重に攻略していただけだ!」


ラズロは相変わらず煽りに弱い。

何回かこのような状況があったが、ギルドから出るとその腹いせか、俺を殴り蹴った。


「へ〜。そうなのか〜。じゃあ今回で慣れただろう。次は難易度2のダンジョンに挑戦しないか?」

他の冒険者が更に煽る。


「なっ……そ、そうだな!次は難易度2に挑戦してやる!」


ラズロはそう言い足早にギルドを出て行こうとする。


「おいおい、逃げるのか?もうここでダンジョンの依頼受けて行けよ〜。制限時間はダンジョン内に入ってからスタートするんだからよ〜。」


「チッ!わかったよ……。」


他の冒険者の言う通りにラズロは難易度2のダンジョンの依頼を受けギルドを出た。



ラズロはギルドに出てすぐの路地裏に入る。

俺もついていく。ここはあいつの憂さ晴らしスポットだ。

ここで俺はいつも殴られている。


ボコッ!バコッ!バキッ!


あまり長いと音で騒がれるので毎回5分程しかやらないが、冒険者なだけあり奴隷商の奴らより威力が高い。


「宿屋に戻るぞ……。」



俺は、宿屋で1人部屋を取ってもらえている。

その代わり、他に金銭などの報酬は何もない。

食事はこの宿屋についている1食かラズロに貰うパンだけだ。




4320年9月19日


難易度2ダンジョンの依頼を受けた翌日。

俺とラズロパーティーは、ダンジョンがある山へ向かっていた。

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