第7話 出会い
4230年7月1日
――生まれてから7度目の夏である。
前の家を出てから、3ヶ月とは思えないほど時間が長く感じた。
それは、時計や窓がなく時間感覚がおかしくなったからなのか、辛くて苦しくて狂ってしまいそうだからなのか……。
3ヶ月弱もあれば、この店の商品も様変わりする。
俺は同じ部屋の中では、古参の部類に入るくらい売れ残っていた。
2週間ほど前、ダミアンも売れた。
残ったのは俺だけになった。
レオナとミリアと別れてからも、ダミアンには毎日話しかけていた。
個人的な話から他愛もない話まで。
日が進むに連れて、ダミアンは話すより俺の話を聞くことが多くなっていった。
それでも誰とも話さないよりかはマシだと信じ、話しかけた。
ダミアンは、冒険者に買われた。
男の子の奴隷を買う人は、力仕事を任せたい人や、荷物持ちや捨て駒として冒険者が買うことが多い。
個人的見解ではあるが、冒険者が奴隷を買う場合の目的は大抵がろくでもないことで、ろくでもない冒険者であると思っている。
その上、あいつらは反抗されてもすぐ殺せるようにと、大人の奴隷ではなく子供の奴隷を買った。
ダミアンには生きてほしい。
いつか死ぬことは分かっているが、捨て駒として死ぬというつまらない死に方だけはしてほしくない。
こんな事を考えている間にも同じ部屋の商品が売れていく。
俺はなぜ売れない?
俺の何がいけないんだ?
これは偶然なのか?
話し相手もいない上に、夏の地下のこの部屋の暑さが尋常ではない。
換気はしているようだが、窓がないため風は来ないのでずっと蒸し暑い。
換気が間に合ってないのか、空気がこもっている感じがする。
夜になるともっとひどい。
寝ようと思おうにも寝苦しさが勝り全く眠れない。
早くここから出してくれ……。
4230年7月10日
俺は、心に余裕がなくなってきていた。
暑さで寝不足になり、呼び出しで物理的に傷つき、精神的にもネガティブになってきていた。
もう限界かもしれない。
でも、この夏を超えればなんとかなるかもしれない。
その希望は捨てきれない。
そう考えるしかなかった。
そこに、3人組の冒険者が奴隷を買いに来た。
荷物持ちに使うのか、捨て駒に使うのか、それとも両方か。
もっと違う理由で買いに来たかもしれないが、個人的見解もあるし今はネガティブな事しか考えることができなかった。
ん?よく見るとこいつら見たことある気がする。
「ん〜……どれがいいんだろうな〜?」
「アイツとかどうだ?しぶとそうじゃねぇか?ハハ!」
「僕は女の子が欲しいな〜。どう?」
「女なんていらねぇだろ。愛玩具を3人で買ってどうするんだ?3人で遊んだらすぐ壊れるだろ〜。」
「俺等は、この前ここで買ったヤツが死んだから補充しに来たんだろ?ちゃんといいやつ探せよモートン。」
「わかったよ……。」
そうだ!
こいつらダミアンを買っていったやつだ!
え……?
この前ここで買ったやつが死んだから補充しに来た?
家を出てから人の死に慣れてしまうほどに、人の死に触れている。
なんなんだこの世界は?
前の世界の日本が以上に治安が良かったのか?
これが普通なのか?
何にしてもやはり、奴隷を買う冒険者はクソだ。
許すことができない。
奴隷制度自体がいけないんだ。
前の世界では、既に廃止されていて実際に触れることは無かった。
この世界に来て、まさか奴隷側になり触れることになるとは思わなかった。
俺は奴隷制度に関わる全員を許さない。
「おい、そこの店員。おすすめの奴隷はいないのか?」
「おすすめでございますか?この奴隷はどうでしょうか?こいつは我慢強いですよ〜。いくら殴っても蹴っても叫ばないので、おとりや捨て駒として奴隷を買うならどうでしょうか?」
店員が嫌な笑みを浮かべながら、俺を冒険者達に勧める。
「ほう。お前らどう思う?」
「いいんじゃないか?捨てた時に叫ばれて、他の魔獣を呼ばれる危険もないってことだろ?」
「僕もいいと思う。こいつ顔もかわいいじゃないか。」
どうも好印象なようだ。
俺はここから出れるならなんでもいい。
外に出ることさえ出来ればなんとかなる気がする。
「それじゃあこいつを買うか。異論はないな?」
他の2人が頷く。
トントン拍子で俺が買われることになった。
「お買い上げありがとうございました。また補充が必要になりましたら、ぜひこの店をご利用くださいませ。」
入荷されて3ヶ月。
俺はこの牢獄から出ることができた。
4230年7月16日
「おい!これも持て!」
俺は無言で荷物を受け取り、リュックに入れる。
今、冒険者3人組と森に来ている。
依頼をこなしに来たのだ。
俺は、荷物持ち兼捨て駒をしている。
荷物持ち用の大きいリュックを背負わされ、ハイペースで森を進む。
こいつらはDランクの冒険者パーティーらしい。
冒険者には6段階のランクが付いており、下はEランクからAランク、その上にSランクがある。
依頼にも冒険者ランクに合わせたランクが付けらている。
依頼は、自分の冒険者ランクの1つ上のランクまで受けることが出来る。
今はCランクの依頼を受けている。
この依頼を無事こなすことが出来れば、冒険者ランクがCランクに上がるらしい。
依頼内容は、森に増えたオオカミ型の魔獣を20体狩るというものだ。
昨日から森に入り依頼を遂行している。
今のところ俺は、荷物持ちだけしている。
捨て駒の仕事をするときは基本的に死ぬときだから、その機会が来ないでほしいところではある。
「今夜はここで野営だな。」
リーダーのラズロが言う。
チンピラみたいな風貌のグレタと、スケルトンと見間違えるほどにガリガリでメガネを掛けているモートンが野営の準備を始める。
「おい、お前。飯だ。」
ラズロからパン1つが投げ渡される。
今日の魔獣の討伐数は7匹。昨日も同数討伐した。
残り6体だ。明日中には終わるだろう。
野営中は何もやることはないし寝よう。
ちなみに、あいつらはテントのような寝床を出すことが出来る、リングの魔導具を全員持っている。
俺はカチカチの地べたで寝る。
4230年7月17日
あいつらは早く終わらせて帰りたいらしく、朝早くから行動することになった。
「おい!見つけたぞ!」
とグレタが小声で報告する。
このパーティーの基本戦術は、グレタが近接職で前を張り、モートンが魔法職で後衛、近接も弓での遠隔攻撃も出来るラズロがその中間に入るフォーメーションだ。
ギリギリ気づかれないところまで近づき、魔法と弓で先制攻撃をする。
このオオカミ型の魔獣は攻撃されても逃げずにこちらに向かってくる。
そこを、グレタが近接で牽制、その間にまた魔法と弓で攻撃する。
隙ができたらグレタも近接で攻撃。
これを繰り返し討伐する。
「よし、始めるぞ。」
全員が位置についたことを確認しラズロが小声で攻撃開始の宣言をする。
シュッ!
ヒュン!ヒュン!ヒュン!
ラズロの弓とモートンの風魔法が命中する。
それと同時にグレタが飛び出す。
魔獣の体からは血が出ている。
「モートンのウインドカッターがいいところに入ったみたいだな。」
あの魔法はウインドカッターと言うのか。
魔法は基本無詠唱らしく、初めてこの魔法の名前を聞いた。
しばらくして、いとも簡単にオオカミ型の魔獣を1体討伐した。
あの時、アイザックとエレンを殺した魔獣をあんなに簡単に……。
――真昼時。
俺たちは無事に依頼の魔獣20体討伐を完了させ、冒険者ギルドにやってきていた。
「依頼完了の報告をしに来たラズロだ。」
「ラズロ様のパーティーですね。少々お待ちください…………。お待たせいたしました。こちらのストームハウンド20体討伐の依頼ですね。確認のためストームハウンドの素材を提出お願いします。」
俺はオオカミ型の魔獣、ストームハウンドの素材を受付に全て提出すると、受付は確認を始めた。
「お待たせいたしました。確認が取れましたのでこれにて依頼完了となります。こちらが報酬の金貨3枚になります。そして、この依頼完了をもちましてラズロ様パーティーの冒険者ランクがCランクに上がりました。おめでとうございます。」
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