第6話 別れ

4230年4月4日早朝


大きい街についたようだ。

ここはどこだろうか……?


どこかの領の小都市か大都市なのはわかるが、それ以上は何もわからない。


「……フロストヘイブン。」


「フロストヘイブン?」


ミリアが呟いたことを、聞き返す。


「レインフィールド領の小都市。ここ来たことある……。」


レインフィールド領か。

俺が住んでいた村があるドラモンディ領の隣の領と聞いたことある。

ここでまた子供を乗せるのか?


少し経つと馬車が止まった。

外を見てみると酒場の前だった。


「おい、お前ら。降りろ。」

ここが目的地なのか……?

酒場から男性が出てきた。


「よぉ、マルコ。商品の質はどうだ〜?……おいおいおい。マルコ〜、あまり商品に傷を付けるなよ〜」

酒場から出てきた男は、俺を見ながら御者の男、マルコに話しかける。


俺の顔や体には、青あざや切り傷がたくさんついていた。

あの出来事があった翌日から、休憩や野営の度、憂さ晴らしのように俺をサンドバッグのように殴り蹴った。


泣き叫んでも、やめるよう乞うても意味はない。

我慢する他無かった。

時間が経てばどうにかなるだろう。

そう信じていた。


「いや……、それが……商品が魔獣に殺されてしまってな……」


「なんだと!?マルコ!何をしているんだ!?それじゃあ赤字じゃないか!」


「すまねぇヴィクトリア……」


「すまねぇで済むかバカ野郎!早く商品を入荷してこい!」


マルコは、気を落としながら馬車に乗り街を出ていく。

俺の前を馬車が通る時、マルコに睨まれた気がした。



「お前ら、店に入れ。」




4230年5月6日


やはり俺は奴隷商に売られていた。

レインフィールド領小都市フロストヘイブンの酒場の下に店がある。


限られた人しか入られないようだが、ターゲットは金持ちの平民や貴族だろう。

客足はぼちぼちである。

1ヶ月間客を見てきたが、転生前世界でいうヲタクみたいな貴族や成金の利用が多かった。

たまに、善人面の小綺麗な人も来るが、前者も後者も女の子を買う事が多かった。


店は、牢のように鉄格子が付いてある大部屋が4部屋あり、その中に異性、同性関係なく入れられる。

入荷した順に部屋に入れられるようで、一緒に来たダミアン、ミリア、レオナと同部屋であった。

その部屋をウィンドウショッピング形式で客が買い物する。


同部屋で一緒に入荷されたとういう事もあり、3人とは他の子供達よりも話すようになっていた。

というより、皆他の子供と話す余裕や気力、生気はなく、動く植物人間というべきか、というだけだった。


3人も他に倣い、買い手をただ待ち、生きていると言っても過言ではなかった。


「ミリアとレオナ、大丈夫か……?」

レオナが頷く。


「うん……。レンとダミアンも大丈夫……?」


「俺は大丈夫だ。」


「あぁ。俺も。」


俺、続いてダミアンが答える。


女の子は週1〜2回、多い場合は3回ほども店の人に呼び出される。

ミリアとレオナも例外ではない。

初めて呼び出されたとき、何が行われているか分からなかったが、帰ってきた女の子ほとんどが泣いていた。

それは、呼び出された回数が少ない女の子ほど泣いている子が多かった。

逆に、回数を積むほどに顔から生気が消えていってるように見えた。

何をされたのか聞くのも憚れる……。


所詮、奴隷なのだ。犯されているのだろう。



また、男の子も例外になく呼び出される。

この場合、1人の場合もあるが複数人の場合もある。

初めては1人だった。入荷されて3日目だった。

店の人に付いていくとそこにはマルコがいた。


「久しぶりだなっ!」


ボコッ!


腹を思い切り殴られ俺は、体をくの字に曲げ唾液を吐き出した。

そのまま、地面に這い胃液が逆流してきた。

マルコは容赦がなかった。あの時の腹いせだろう。

四つん這いの俺の顔を、サッカーボールキックしてきた。

相手はマルコだけではなかった。

他の店の奴も続いて顔や腹を蹴り、また立たせ顔や腹を殴る。


我慢はしたが、堪らず涙が出る。

だが、決して泣き叫ぶことはしなかった。

それをしてしまうと壊れてしまうと確信したからだ。


これに関してはほぼ毎日である。

この仕事は、ストレスが貯まるのだろうか。

というような無駄な考えをしていないと耐えられない……。

生に縋らず心を壊したらどれだけ楽になるか……。


生気を失うのもよく分かる。


だが、死ぬときは死ぬ。

その時までは生に縋り、どうにかなるだろうと希望を持っていたい。

最初から諦めていては、助かるものも助からない。

せめて、一緒に入荷された3人には生気を保ってもらいたいと思い、毎日俺は話しかけている。


俺のエゴであることは分かっているが……。




4230年5月23日


この部屋には、時計も無ければ窓も無い。

感覚的に今は、夜だろう。

陽の光に当たりたい。

太陽光に当たらないと自律神経に悪いと聞いたことがある。

ここは、心を壊しに来てるとしか思えないような環境が揃っている。



――今日は、レオナが買われた。



一緒に入荷された3人の中で、初めて買われた人が出た。

レオナとは年齢が一緒で、勝手に親近感を覚えていた。


この頃、レオナはますます生気がなくなっていた。

俺はできるだけ話しかけた。

会って2週間は声を聞いたこと無かったが、最近では少しだが自分のことを話したりと心を許してくれたのではないかと思う。


レオナは、この国のハートウッド領で生まれ家族と幸せに暮らしていたが、ある日誘拐されたそうだ。

そこから、色んな人に売られ、買われ、今に至るのだそうだ。


連れて行かれる直前俺はレオナに言った。


「レオナ、生きてまた会おう。絶対に。」


レオナは、頷き言った。

「……うん。レン君……また会おうね。」



レオナはそのまま振り返らずに外に出ていった。


また会える日が来るのだろうか。

会えなくても生きてくれさえしたら嬉しく思う。



昼間のことを思い返している時、違う部屋から叫び声や発狂している声が聞こえた。

今日はミリアが呼び出されている。

何かあったのだろうか……?


バンッ!


扉が勢いよく開きミリアがこちらの部屋へ走ってきた。


「あああああああああああああああ!もういやぁーーーー!殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して!ねぇ私を殺してよーーーーーー!」


そう叫ぶミリアの後ろから男が追ってきてミリアを斬り伏せた。

一瞬の出来事で理解が追いつかない。

部屋の皆も理解が追いついてないらしく、固まっていた。


数秒後、何かの物音がなった。

それを合図とするかのように周りの子供達が悲鳴をあげだした。

俺も冷静ではなかった。狼狽しているのが自分で分かる。

冷静でいようと思うほど、冷製でいれなくなる。

皆の心が壊れかけている。いや壊れたか……?


「おい、ガキ共!黙れっ!!!黙らないとぶち殺すぞ!!」


両刃の剣を持っている男が叫ぶ。

それでも、悲鳴は止まなかった。


男は向かいの部屋に入っていき、発狂している男の子を斬り殺した。


「ガキ共!!黙れと言っているだろ!!!」




――この日、13人の子供たちが殺された。

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