第17話 最終章
それ以降、穂香の姿を見た人は誰もいない。そして、それと同時に、信二の姿も誰にも目撃されなかった。ただ、二年後に、身元不明の白骨死体が、穂香の住んでいたマンションの庭から発見された。
それはちょうど穂香の姿を誰も見なくなってからちょうど二年後だった。
捜査は坂田刑事の手によって行われた。ある程度まで分かってきて、身元も判明したのだが、坂田刑事が理沙に辿り着くこともなかった。
坂田刑事はなぜか弥生をずっと気にしていた。弥生が自殺した時に捜査したのも坂田刑事だった。弥生の元に現れたが、その時は刺激することなく、その場を離れたのも、弥生を事件に巻き込みたくないという思いがあったからだ。
刑事らしくない刑事だが、白骨死体には外傷はないことで、殺人ではなく、死体遺棄で捜査を始めた。ただ、身元が判明した時には、穂香も、三枝もこの世にはいなかったのだ。
穂香の犯行であることは明らかで、被疑者死亡ということで、書類送検されただけで事件は終わった。
弥生は、穂香がいなくなって、すぐにすっかり記憶を取り戻した。
理沙は完全に記憶を失っていたわけではなく、何とか生活ができるだけの記憶は戻ってきたのだが、その後のことは、弥生が引き受けることになった。
「穂香がいなくなった後なので、助かったわ」
と、ママが言っていたが、ママにも理沙がどれほどのショックを受けて記憶を失ったのか分かる気がしていた。
理沙も弥生と同じように、子供の頃から感じてきた自分へのイメージから、記憶を失いやすいようになっていたのかも知れない。
理沙も弥生も、もう自殺を試みようとは思わないはずだ。死ぬことなど、何度も考えることはできないだろうからである。
そういう意味では、穂香と三枝は、お互いに気持ちが最後にが通じ合ったのだろう。二人は、誰に知られるともなく、この世を去っていた。
そのことは誰も知らないのだろうが、穂香という女性の存在を、ママも弥生も忘れることはない。
「人間、一人では生きていくことはできないというけど、死ぬ時も一緒なのかも知れないわね」
弥生もママも、そう言いたい言葉をグッと堪え、顔には笑みを浮かべながら、相手が何か言いたいのをお互いに感じているのだった。
――すべてが未遂に終わっていれば、一体、私たちはどうなっていたのだろう?
と過ぎてしまった過去をいかに思い返していいのか、弥生は堂々巡りを繰り返しながら考え続けるに違いない……。
( 完 )
心中未遂 森本 晃次 @kakku
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます