お隣さんで可愛い幼馴染に好きな相手を誤解されたので窓越しに告白してみた

久野真一

お隣さんで可愛い幼馴染に好きな相手を誤解されたので窓越しに告白してみた

はるちゃんのことを好きなの?か、ゆめも鈍いんだから……」


 ぽつり、ぽつり。ぴちゃん、ぴちゃん。

 窓を開けて、梅雨の夜に相応しい雨模様の中、俺は一人ごちる。


 俺、柳川直幸やながわなおゆきがいるのは郊外にある一軒家の二階にある個室。

 『素直すなおで皆をしあわせにする』

 子に育って欲しいという願いでつけたと母さんは言ってた。


「想いに素直になれれば楽なんだけどなあ」


 今朝の出来事を思い出して、自嘲のため息をついてしまう。

 想い人に告白する勇気を持てない自分に対して。


◆◆◆◆


 窓の外に小雨がぱらつく朝の教室にて。


なお君は、はるちゃんのこと好きなん?」


 夢こと草木夢くさきゆめが唐突に言った。


「……いきなり何だよ。夢」


 予想外の方向からの言葉に困ってしまう。


「なんとなく。春ちゃんのこと好きなんかなって」


 春こと二条春子にじょうはるこ

 高校に入ってから仲良くなった女子だ。

 清楚な美人で、物静かなところが好きな男子も多いとか。


「好き、ね……。春子のことは別にそういう目では見てないぞ」


 心がズキりと痛むのを感じながら、なんとかそう返す。


「ホンマに?」

「ホンマやって」

「直君の関西弁は似合わへんよ」

「慣れないことはするもんじゃないな」


 色々な意味で。


「ま、ええけどね。春ちゃんのこと好きなら相談に乗るからね」

「そういうんじゃないんだけど……厚意は受け取っとくよ」


 厚意とわかっていても心がやっぱり痛い。

 夢にとって俺は「仲の良い友達」なんだって痛感してしまうから。


◇◇◇◇


「空見上げて、何たそがれてるん?」


 気が付けば、人差し指を闇空に向けながら、夢が俺と同じように窓から身を乗り出して語りかけてきていた。


「……びっくりした。気配殺すなよ」


 ほんとにもう。


「悩んでるみたいやったから。邪魔するのも悪いかなって」

「気遣いありがとな」


 夢は細かいところにきがつく、可愛い女の子だ。

 男子ども曰く「二条さんは高嶺の花だけど、草木さんは手が届きそう」だそうな。

 

「やっぱり、春ちゃんのことなん?」


 心配そうにそれだけを聞いてくる。


「朝も言った通り、春子とはなんでもないって。それより」


 と区切って、


「どうして急に気にしだしたんだよ」


 思えば疑問だった。確かに女友達では仲のいい方だと思う。

 でも、夢が疑問に思うようなことがあっただろうか。


「んー……でも、最近、二人だけで話しとること多いやん」

「あー。まあ、そういえばそうだけど」


 まさか、そこで誤解される羽目になるとは。


「珍しく歯切れ悪いやん。ほんとになんかあった?」


 無理に聞こうとは思わんけど、と。

 いつも隣にいてくれたは親友はどこか悲しそうに見つめてきた。

 友達想いの彼女だから力になれないのが悔しいんだろう。


「……そうだな。俺らしくないな。でも、聞いて驚くなよ」


 好きな人を悲しませたくない。

 その一心で俺は真相を白状することに決めた。

 目の前の彼女だからこそ、結果がどうあれ気持ちを受け取ってくれるだろうから。


「うん。大丈夫やから」


 気が楽になったのだろうか。

 たったそれだけで顔をほころばせる夢。


「昔々、関東の地方都市に、ある男の子が暮らしていましたとさ」


 目の前の彼女と出会った日のことを思い出しながら語る。


「……直君やね」

「男の子の両親はいつも仕事で忙しかったので、どこか寂しさを感じていました」

「出会う前のことは初めて聞いたけど。そうやったんやね」

「そんなところに、関西から活発な女の子が転校してきましたとさ」

「ウチ?」


 まさか、急に自分が出てくるとは思わなかったんだろう。

 目を白黒させている。

 ぽつり、ぽつりと落ちる雨露が不思議と心を落ち着けてくれる。


「活発な女の子は、男の子の家の隣に引っ越してきて、すぐに仲良くなりました」

「懐かしい話やね」


 あの頃を思い出しているのだろうか。夢は目を細めて懐かしそうだった。


「女の子……伏せても仕方がないか。俺と夢はそれ以来仲良くしてきたわけだ」

「ほんとに今日の直君は持って回っとるよね」

「正直さ。夢には救われたんだよ。うち、昔から両親は仕事で忙しかったし」


 一人で誰もいないがらんどうの家に帰る日々が賑やかなものに変わった。

 お隣の彼女はよく遊びに来てくれた。


「別にウチも同じやけどね。転校してきたばかりで、心細かったんよ」

「へぇ。最初から元気いっぱいって感じだと思ってたけど」


 でも、まあ。強がってはいてもガキなんてそんなもんか。


「私の方こそ直君には救われたんよ。いつ遊びに行っても迷惑がらんかったし」

「お互い、寂しがり屋同士だったってわけだ」


 だから、俺は彼女に惹かれたのかもしれないな。


「で、その……小六くらいの頃だったかな」


 わかってはいても、いざその話を切り出そうとすると緊張するな。


「夢が遊びに来ると、なんとなく落ち着かなくなったんだよな」

「言われてみると。直君、時々ぎこちなかったかも?」

「で、よくわからなくて色々考えたんだ。心の病気の本も読んで」


 今思えば何をしてたんだという感じだけど。


「「俺、鬱かもしれない」とか言っとったような?」

「心の病気と言えばそうなんだけど」


 恋愛ってのがそういうものだなんて、わかるわけがないよなあ。

 

「……ようやく納得がいったわ。直幸の名が泣くよ?」


 俺が言おうとしてることに気が付いたらしい。

 どこか上機嫌での軽口。


「今日のも勇気出したんだぞ」


 失敗すれば友達ですらいられなくなるかもしれない。

 軽々しく告白なんてできるわけがなかったのだ。


「でも、春ちゃんとよく話してたんは……?」

「ここまで来たら気づけよ。夢のことだよ」

「ウ、ウチ!?てっきり、春ちゃんのこと好きになったもんやと」

「夢にどうやってアプローチすればいいか、相談に乗ってもらってたんだよ」


 と言っても、ある日、彼女の方から

 「夢さんのこと好きなんでしょ?」

 突然言われたわけで、俺にしても突然だったのだけど。


「そやったんや……。ほっとしたわ。ウチも直君のこと好きやったから」


 心なしか、頬を少し赤らめて……と言っても暗いから勘違いかもしれないけど。 

 嬉しそうな声で言う幼馴染。


「……ちなみに、いつ?」

「ん-。高校に上がった頃くらい?ほら、最初の方からかわれたやん」

「あーそういえば。夢と付き合ってるのかとかよく言われたっけ」


 と言っても、たった二か月くらい前の出来事だ。


「中学の頃は皆、同小連中やったやん?初めて周りから指摘されて考えたんよね」

「そういえば。中学の頃はそういうの無かったよな」


 小学校の頃の延長線上と思えば、そういうものかもしれないけど。


「ウチは直君のこと好きなんかな、とか家でぼーっとよく考えたり」

「乙女してるなあ」

「直君のことで悩んでたんやけどね。でも、結論はいつも一緒やったよ」

「そこまで好いてくれてたんなら、夢だって言ってくれればよかっただろ」

「簡単に言えるわけないやん。振られたら気まずいやろ」

「言えてる。俺も同じことで悩んでたわけだしな」


 ふと、言葉が途切れる。

 気がつけば雨は上がっていて、月明かりが俺たちを照らしていた。


「晴れたな」

「晴れたね」


 お互い、目を見合わせてくすっと笑いあう。


「でも、これで恋人同士言うても、あんましピンと来んよね」

「もっと激的なものだと思ってたけど、普通だな」

「ウチら変なとこで似たもの同士やね」

「まあ、こういうものかもしれないな」


 少しだけ物足りないけど。

 目の前の少女とこれからも一緒にいられるならそれでよし。

 

「……明日、久しぶりに一緒に登校せぇへん?」 

「高校になってから、なんとなく避けてたよな」


 お互い、クラスでからかわれるのが居心地が悪かったのかもしれない。


「そうそう。これで心おきなく直君の家に入り浸れるわー」

「嬉しいけど、男としてはドキっとするな」


 夢はきっと、何の気なしに言ったんだろうけど。


「ドキっと……あ。う、うん。考えてみれば直君も男の子やし」

「お前な。恋人になった女子と家に二人きりとか、そりゃ意識するぞ」


 高学年になっても男子とつるむことが多かったせいか。

 夢は男子の欲望というものに無頓着なきらいがある。


「うーん……手を繋ぐとかキスとか普通、付き合ってどれくらいなんやろね」


 おまけに、こういう風に大真面目に考え込んだり。


「俺に聞かれてもな。夢はどうしたいんだ?」

「ウチはその……恋人になった後のことは全然」

「それでよく恋愛相談に乗ったりできるな」


 親しみやすい性格のせいだろうか。

 彼女が恋愛相談に乗っているのはよく見る。


「人のことやったらわかっても、自分のことは別なの!」

「はいはい。ま、諸々含めて二人で考えていこうぜ」


 幸い、俺たちはまだ高校生になって数か月。

 時間はたっぷりある。


「寂しがりなウチやけど。これからもよろしくな。直君♪」

「こちらこそ改めてよろしくな。夢」


 昔馴染みから恋人同士になった俺たちは。

 コツンと拳同士をぶつけあう、恒例の儀式で友情を誓い合ったのだった。


「そいえば、恋人同士だとどういう意味になるんやろね?」


 拳を見て考え込み出す、可愛らしい恋人。


「ぷっ。そこ、考えるところかよ」

「ウチにとっては重要なことなんやけど?」


 結局、恋人同士になっても相変わらずな俺たちは。

 日が変わるまで窓越しに語り合い続けたのだった。



☆☆☆☆あとがき☆☆☆☆

可能な限りシンプルに。

二人の間柄が伝わるように余計なものを省いた短編にしてみました。


楽しんでいただけたら、★レビューや応援コメントいただけると嬉しいです。

☆☆☆☆☆☆☆☆

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