第5話 長い事浮かれていたワタシ

胸がキュッとなる、甘くなったり苦くなったりする、ときめきや苦しみが好きだった。

好きになるのは、絵になる場面を作って行けるひと。ことば、仕草、態度なんでも良い、私の琴線に触れるモノを与えてくれる人。

出来れば若い方がいい。

つい数年前まで、目に見えない憧れを追って、

浮かれていた。

加齢とともに太り始め、自分に自信を無くしてからは、夢物語を追うことはなくなった。

夢物語という舞台にヒロインとしてたつのにふさわしくない身の上になったからだ。

こんなに太ってしまっては、可憐なヒロインを演じることは出来ない。

現在は異性に対する興味もすっかり無くなり、おじいちゃんからアプローチを受けても、そういう対象で見られることが気持ち悪いだけである。

生活して行くための事しか考えていない。

30年以上前の夫との輝く出会いのストーリーを胸に抱きしめて満足する日々である。

男性として、一番魅力がある人はずっと夫だった。

なのに何故ときめきを求め続けたのか。

結局のところ、女という見た目の花が腐りきるまでの間を、自分だけが惜しんで、

身勝手に価値を付与して浮かれていただけである。

「枯れ」てしまったけれど不幸ではない。

夫が単身赴任で2年間離れて暮らすことが辛くてたまらない。胸がキュッと苦しくなる切なさ。

昔は少し辛い、悲しいだけで滝のように涙を流せたのに、最近辛い時悲しい時も涙が出なくなった。

ひと月に1度帰ってきてすぐに赴任先に戻る。

いなくなるとひどく寂しくて辛い。

なのに涙が流せない。

単身赴任の留守中を守るために自分を捨て、

仕事のエグいパワハラにも挫けず、

傷ついた事実を右から左に流し心を無にして辛くとも出勤を続け、稼ぐための仕事を続け、

家を守り続けていたら、

悲しいことを悲しいと嘆くことが出来なくなって、

泣けなくなった。

夫は口下手だし私のこともぞんざいに扱うので、

「ママを長年に渡り苦労させた。」として、

夫は子供たちにかなり評判が悪い。

私はいつも自分の感情どおりワガママに生きてきた

気がしているので苦労をしたとは思っていない。

夫は誠実であるし、誰よりも情が深い人だ。

家族を守るためにあらゆるものを我慢し続けた

半生であっただろう。

その事に思い至れたのは、

還暦を過ぎ、単身赴任の留守を守っている

今なのである。歳を重ねてやっと思い至れた。











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探しもの ゆみか @yumi5544

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