第29話 第二十四条 前条第三項(各項省略)の登録は、講習会を行おうとする者の申請により行う

 この世は大警備員時代である。警備員は人である。警備業の中でも機械警備と言われる分野があるが、それでも尚、最終的には人が執り行う。これから先の未来に於いて、喩え技術が発展しようとも根本は変わらないだろう。しかし、今のこの業界に於いて、技術の発展を以ってしてもその時流に乗り遅れる要因しかないのは事実である。ひとえに能力が足りていない者達の巣窟だから……と言える。



「国王、先ずはこれを試飲してもらえますか?」


「サフィアス、なんだそれは?見た感じがモンスターの力の結晶に思えるのだが?」


「確かにコレは、モンスターから排出される力の結晶です。そしてそれを飲んでみて頂けますか?毒性などその他一切合切は無いと証明されています。これが証明書です……って、いいから飲めッ!」


「サフィアス……なんかキャラが変わっておるぞ?それに、国王に対してタメ口とか、イカンと思わんのか?それに目が据わっておるが?」


とくとくとくッ

 しゅわわわわぁ


「な……なんだ、その黄金色に輝く液体は?そして上に乗る、空に浮かぶ雲を彷彿とさせるそれはまさか……泡か?」

くぴッ

「ッ!?なんだ、この芳醇な泡はッ!」

ごくッ

「ッ?!苦い……が、後から来る濃厚なコクとスッキリした喉越し。こんな物は今まで飲んだ事がないッ!」


「これは“びぃる”と呼ばれる“酒”との事です」


「この独特の“味”は、確かに酒に違い無い。が、酒はこの国や周辺国では高級品……。そのような物がモンスターから排出されるとは……。しかし、その事を近隣の国が知れば、戦争になり兼ねんッ!それに冒険者達が押し寄せる可能性だってある」


「国王……この“びぃる”を排出するモンスターは、今は一つの迷宮ダンジョンのみなのです」


「それは、まさか、つい先日報告にあった、この街に発生した迷宮ダンジョンの事か?」


「えぇ。ですが街中まちなかにあったとしてもそこからモンスターが溢れ出す可能性は無い為に、安全と言えるでしょう。そして、その迷宮ダンジョンには“持ち主”がおりますので、冒険者達であっても直ぐに手出しは出来ない筈です」


「サフィアスよ……何が言いたい?」


「この“びぃる”を輸出の商品とする新たな産業を起こすつもりでいます。そして、これまでに提案した二つと併せ、三つの産業が上手く行った暁には……」


「暁には?」


「王女殿下を嫁に出して欲しいのです!」


「サフィアス……お主が貰ってくれるのか?だが、タリアリスはこの国の正式な女王の後継……流石に嫁に出すのは厳しい。せめて、サフィアスが婿に入ってくれるのであれば……」


「いえ、相手は私ではありません」


「それであれば、ならんッ!どこのけだものの骨とも知らん者を王族として迎え入れる事は出来んッ!」


「(婿入りして先代女王と結婚した者が何を言うか……)ですが国王よ、少し考えて欲しいのです。今のこの国の困窮を救う方法は新たな三つの産業に賭けるしかないのは事実。それは国王が分かっている事でしょう?」


「ぐぬぬ……確かにそれには一理ある……が、タリアリスとて、どこのけだものの骨とも知らん者との結婚を望む筈もあるまいッ!それ以前に今まで、散々婚約を断って来ておるのだぞ?結婚する気があるかも怪しいではないかッ!」


かつんかつんかつん

「お父様?その言葉、聞き捨てなりません」


「た……タリアリス?いつからそこに?」


「サフィアス閣下に連れて来られ、そこで話しの一部始終を聞いているように言われたのです。登場の場面は一任されていましたので、今が最適と考えて出て来ました」


「サフィアス……お主、タリアリスまで丸め込んだのか?」


「丸め込むも何も、わたくしが閣下にお願いしたのです。わたくし、結婚したい相手が出来ましたから」


「国王よ、そう言う事です。丸め込まれたのは、私の方。タリアリス王女殿下に私が協力しているだけなのです」


「はぁ……分かった。ならば問おう!タリアリス……その者は、お前の本性も熟知した上で、お前と結婚しよう……と?」


「はて?わたくしの本性とやらが、わたくしには分かりません。閣下はご存知ですか?」


「タリアリス王女殿下、私には皆目見当も付きませんが……」


「余をたばかるつもりかッ!タリアリスの中にる“暴虐”の事を言っておるのだッ!その衝動に駆られれば……」


「駆られればどうなるのですか、お父様?」


「……お前はポンコツになる」


「それのどこに問題があると?」


「無いな……だ、だがッ!そんなポンコツ王女を娶りたいとは思うまいッ!」


「トリィ様はわたくしが王女である事を知らず、わたくしを一人の女として見て下さっています。お父様、全ては愛があればこそなのです」


「愛……だと?!認めんッ!王族が愛を求めてなんになるッ!そんなものはだッ」


「(お母様との大恋愛の末に婿入りしたと聞いてますけど……?)お父様は、何故そこまで反対なのですか?」


「この国の王女であるお前は、相手が婿入りする事が前提になる。相手が貴族であれば礼儀作法のみならず、領地の運営や防衛に至るまで才覚があろう。その者はそれがあるのか?」


「国王、それらの才覚は持っている者に任せれば良いと存じます。しかしながら、タリアリス王女殿下はそれら全てを持っております。故に如何なる“無能”であっても問題はないでしょう」


「ぐぬぬ……だが余は認めんッ!断じて認めんぞッ!」


「この国に於いて、殊更ことさら必要な才覚は、私が持っていなかった物。ペルセポネス家に産まれながら、持ち得なかった私の責……。王女殿下との婚約に爵位が必要ならば、新たな産業が成功し功績となった際に、我がペルセポネス家に迎え入れれば何も問題はありますまい?」


「ぐぬぬぬぬぬ……余は余は……」




「タリアリス王女殿下、これで良かったのですか?」


「えぇ、閣下のお陰で助かりました。本当にありがとうございます」


「私もトリィの事は気に入っているのでね、王女殿下と結ばれるのであれば、私としては何も問題はありません」


「わたくしは……本当は……いえ、なんでもありません」


「タリアリス王女殿下、私は過去にこの国の騎士になる事を選びました。だからこそ、王女殿下の想いに応える事は出来ません。拠って、二人が誰にも阻害される事無く無事に結ばれる事を祈っております」


「閣下……」

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モノ言うKB-in 〜異世界でおっさんがモンスターと警備業始めたら大変なコトになった〜 酸化酸素 @skryth @skryth

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