焼き芋になりたかった芋のはなし

あめだま

第1話

僕は平凡な芋。

農家のおじいさん、おばあさんに大切に育てられてきた。

僕には、夢がある。

それは、焼き芋になること。

その夢のために、今まで長い間、土の中で成長してきた。

そしてついに今日、僕は出荷される。


一緒に育ってきた仲間たちと一緒にカゴに入れられた僕に、おじいさんは「行ってらっしゃい」と優しく声をかけてくれた。


そのままトラックに乗せられた僕は、ある店のバックヤードに入れられた。


僕はうつらうつらしながら、焼き芋になるその時を待った。


そこで僕らは1日くらい待った。


ガタン、という揺れで目が覚めた。

どうやらカゴごと移動させられたらしい。

そこは調理室。

僕たちのカゴより少し上に、鉄板が見える。

そこからは、僕の仲間たちがこんがりと焼かれている音が聞こえる。

つまり、僕は焼き芋になれる!

僕は、わくわくしながら自分の出番を待った。


ついに僕を、調理師が手に取った。

はやく、はやく鉄板に乗せて、焼き芋にしてください。

そう願っていたのだけれども、

その調理師は、なぜか僕の体の真ん中あたりに、十字に切れ込みを入れた。

そしてその間に、なにかを入れてから、丁寧に僕を鉄板にのせた。


ふと、

僕は本当に焼き芋になれるのだろうか?

という疑問が浮かんだが、鉄板で焼かれているという事実があるじゃないか。だから、僕は絶対焼き芋になれる。と、ひたすらに念じた。念じ続けた。


十字の切れ込みの間に入れられたものがじわりと溶けてきた辺りで、僕はお皿にのせられた。

そのお皿を、別の人が持って、調理室を出た。

扉の外には机と椅子がたくさん置いてあって、窓からは明るい光が差し込んでいた。


その机の間を、僕ののったお皿を持っている人は歩いてゆく。


少し歩いた先で、その人はぴたりと止まり、ある1つの机にぼくを置いて、こう言った。


「お待たせいたしました。

じゃがバターでございます。」

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焼き芋になりたかった芋のはなし あめだま @yokumoeruaitu

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