おやすみ

 プリンセス、プリンセス。 海の色がよく似合う。つやつやの髪を風が羨んだ。 彼女はどこまでも美しい。愛しい人に呼ばれて輝く瞳。ひらりとワンピースが踊る。傷の無い両手で彼を抱きしめる。心臓の音に安堵して、彼女は今日も生きている。一緒に絶望もしているのだけど、それはまた別のお話。彼の両手が冷たくて、そっと手を繋ぐ。温かい紅茶が飲みたいな。お気に入りのブランケットにくるまって。彼のマグカップにミルクを入れた。寒くないよ。昨夜は雨だった。 フレンチトーストにアイスを乗せよう。神話みたいに自由だ。怖い夢を見た?大丈夫、私はここにいる。アンカーのイヤホンは音質が良い。長い長い時空の共有。浅瀬に沈んだ線路を歩いた。墓標はこの先にあって、花束は波に散っていく。彼はふわりと欠伸する。哲学の欠如。一面の緑の中で眠ろう。ここに君を傷つけるものはなにもないから。穢れを知らない、綺麗な空だ。はるか遠くで月が目を閉じた。また彼と手を繋いで、世界を歩いて帰る。水面がさざめいて、郵便ポストに小鳥の巣。彼女はイヤリングをそっとサイダーに溶かして飲み干す。そしてぽろぽろ泣き出すと、彼は悲しげに笑んで彼女の頭を撫でてやった。ここはどこより静かな場所。瓶はもういっぱいで、どんな毒でも作れそうだ。雪色のバスタブで、 化学式がしとやかに香っていた。どこへもいかないで。どこへもいかないさ。瞬き、ひとひら。触れるだけのくちづけを。羽根の折れる音がして、彼は満ち足りたぬくもりの中にいた。脳が壊れてしまうほどの。濡れた指輪は彼を捕えて離さない。 真っ赤な林檎と、遠くへ逃げてゆく星。じきに夜が来るのだろう。朽ちかけた本を終わりから読む。喉を炊くようなチョコレート。苦い、と彼女は微笑んで、もはやここに天使はいなかった。アンティークの烏龍。一輪の花だけが憂いていた。空っぽのバスケットにマドレーヌを詰める。ソファの上が、二人の世界。彼女の髪を梳いてやりながら、彼は明日の思い出を編んでいる。寂しくないように、哀しくないように。迎撃された流れ星。痛くないように、辛くないように。波に飲まれた白い炎。 ふわふわのタオルでくるんでしまおう。私だけを見て。彼女の視界は射干玉。私だけを聴いて。 優しい歌が響く闇。広い広い彼の世界で、ずっとずっと幸せでいて。 彼が安心して肺呼吸できるように。 昨夜は雨だった?どこかの海で、泡がいくつか弾けて消える。どこまでも澄んだ眼が綴じた。おやすみ、そして良い夢を。

 彼を愛したプリンセス。深海の色がよく似合う。

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君と歩む アレン @Alen0526

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