欠伸をひとつ、明け方の光。何故か手放せないスマホ。つけっぱなしのテレビから流れる声。温かいはずのブランケット。ゴミ箱に放り込んだ野菜ジュースの空き缶。埃を被った六法全書。死ぬほどつまらないトーク履歴。治まらない吐き気。もう聴かないCD。効果の分からないサプリメント。風邪でもないのにつけるマスク。抱きしめ方を忘れたテディベア。逆回りしてくれない時計。閉じそうになる瞼。背の日焼けした青い鳥文庫。賞味期限の切れたキャンディ。綺麗とは言えないシンク。使ったことの無いティッシュボックス。何の賞だったか覚えていないトロフィー。途中で追うのをやめた漫画。コンビニスイーツが二つ入ったきりの冷蔵庫。放り投げられたパーカー。誰かにあげたかったシャーペン。捨てられないけど使い道も無い紙切れ。色が合わなくて使わなくなったアイシャドウパレット。メンテナンスの終わらないソシャゲ。クッキーの缶にしまい込んだビーズのネックレス。用途を忘れた目薬。梳かしてないままの髪。出し忘れた懸賞ハガキ。飾られているだけのラジオ。使いすぎで表紙がボロボロのゲーム攻略本。お財布を膨らませるだけのレシート。もう暫く記帳がされていない通帳。長く電源を入れていないPC。色の出が薄くなったピンクのマーカー。投げ捨てられた水道の料金表。別に病んでるつもりのないツイート。いつだって十三㌔しか表示しない体重計。誰かに貰ったらしいエッフェル塔の置物。使いもしないスヌーピーのシール。萎れた名前も知らない花。一回だけ使ってしまったままのホットプレート。気づいたら進んでいる時間。一本だけある高級ブランドの香水。縁の欠けたてんとう虫のマグカップ。どこかに埋もれているはずのゲーム機。インクの切れた判子。殆ど揺れることの無いカーテン。いつも接続不良でエラーが出るCDプレーヤー。巫山戯たユーザーネームの裏垢。とうに鳴らなくなった固定電話。可愛いだけで使い勝手の悪いお菓子の箱。五十円引きにしかならないドーナツ屋さんのクーポン。大して面白くもないピン芸人。何度目か数え忘れたため息。汚れた灰色のスニーカー。一日中着ているパジャマ。折れ曲がった紙製の金メダル。足の欠けた蜘蛛の死骸。視界の隅で揺れるてるてる坊主。寝ても寝てもやってくる眠気。叔母から貰って一度も読んでいない百科事典。しまい場所を忘れたシルバニアファミリーの人形が一体。何故か残したままの元彼の連絡先。起こらない食欲。ケースから迷子になった絆創膏。文字を打つのをやめられない指。