君と歩む

アレン

寂しい人へ

君が月を壊してしまって、暗い夜道を二人で歩いた。悴んだ手を繋いだところであたたまりなどしないから、大人しくコンビニで地平線を買う。じきに赤く燃えるだろう。甘いだけのキスをしよう。その命の始まりを、誰にも祝福されなかった君だから。子猫が震えて鳴いていて、君の後には黒い煤が舞っていた。静かな夜だ。遠い邦で星が弾けて、これでシールは十枚目。ワイヤレスイヤホンは嫌い?そっか。不意に星々は目を閉じて、君はその昔口にした、羊水の味を覚えている。それとはまったく無関係に、花占いは「嫌い」で終わった。茎だけの花を花瓶に挿して、死んだ誰かに押しつける。砕いたチョコをくゆらせて、花嫁は誰のものにもならない。君は蕩々と語っている、不存在の証明について。私たちの間に未完成の神話が流れていく。はちみつ色のそれは、それはひどく、美しかった。時折君が歌うように教えてくれる、君自身の物語。思い出したように買い物メモが開いて、そうだ、君の命日にケーキを。眠らない君が、安らかな夢を見られますように。蝋燭の火はただひそやかに呼吸をして、やがて雨に溶けていった。焼け焦げたType-Cのアダプタが、君と私をかすかに繋ぐ。微動だにしない時空の果てで、遙かに青い旅に出ようか。諦観をトランクにつめて、空いた片手をそっと包んで。だって君は何にも基づかないもの。どこまでも鮮やかな傷口を、君は子供みたいに笑っている。やがて時代が冷たい涙を思い出すとき、君はそれを綺麗だと言うことが出来た。水晶は嵐を内に閉じ込めて、ソナタの輝きを放つ。いつかの夢が君のなかで熱を帯びるだろう。ユウロピウムが指先で融け落ちて、ミルクティーを艶めかせた。深い深い森の中に一条のさえずりが見えて、生まれたばかりの君を導く。静脈血のリボンを薬指に結んで。それだけが君を君と出会わせる。だからそんな悲しいことを言わないで。かの眼差しは紛い物みたいで、そして十字架がまたひとつ。ため息なんて珍しいね。けれど伏せられた眼は確かに輝いていた。栞を抜かれた英雄譚が、どこかの暖炉で燃えている。不意に、濡れた翅から真珠のように、あたたかな記憶が滴ってゆく。あるはずの心臓がきっとざわめいていた。それは図らずも本物で、君の痛みも真実だった。そのやわらかな呪いをLove Linerで縁取って、明けない夜の下で踊ろう。楽園の茨に怯える君ではないから。おぞましい幸福さえも飲み干して、ひび割れたグラスが海風に吹かれた。壊れた二重螺旋の花束を抱いて、いつかあの子を殺せると良いね。

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