第2話 都市伝説と忠告

俺は千尋と話しながら足を進める。 

「そういえば知ってる?この街で化け物を見たって話。」

「知らねぇ。」

俺はそんな話を聞いたことはなかった。

化け物とか幽霊とかよくある都市伝説だ。

そういうのが気になる辺り女子高生だなと思いながら話を続ける。

「なんでも黒くて羽が生えた化け物なんだってさ。」

黒くて羽が生えた化け物。

どこまでもありふれていて都市伝説チックだなと小馬鹿にする。

「カラスか何かの見間違いじゃねぇの?それか変質者か。」

「そんな変質者いたら本当の化け物だよ~」

「そりゃそうだ。」

俺と千尋はそんな風に笑いながら学校へと向かう。


「ギリギリ間に合ったね~」

千尋は安心した顔で荷物を机に置きながら呟く。

「ちーちゃん夫婦揃って重役出勤か!?」

クラスメイトの楓が千尋に抱きつきながら俺達を茶化す。

「夫婦じゃないって~ただの友達! 」

千尋は顔を赤くし、楓を振り払う。

「家が隣同士で親は二人ともあまり家にいない。何も起きないはずないよね?」

「本当に何にもないってば。それに仁にはお姉さんがいるから!」

「そうだったわこのシスコン!」

「誰かシスコンだ誰が。」

こんな風に楽しく会話して一日は過ぎていく。

まさに平和だ。

そんな平和が意図も容易く崩れさるとは俺には思っても見なかった。


俺は5限の授業の中、睡魔という化け物に襲われていた。

羽が生えた黒い化け物よりよっぽど怖い。

月曜の5限は数学という眠たくなる授業で満腹中枢も働いている眠くなる条件は全て揃っている。

現に俺以外の何人かもその睡魔に耐えられず意識を手放している。

先生に気づかれたら怒られるのにだ。

分かっていても止められない。

これの方がよっぽどホラーだ。

先生に気づかれて起こされるか千尋に起こされるか今日はどっちかと思いながら俺は目蓋を落とす。

「やぁ、また会ったね仁。こんなに早く会えるとは思っていなかったよ。」

俺が夢の世界へと意識を落とすと今朝見た手だけの存在が俺に手を振っている。

おんなじ夢を続けてみるとはどうやらよっぽど気になっていたらしい。

「あぁ、俺もだよ。あんたは...なんて呼べばいい?」

俺はこの存在について名前すらも知らないことを思い出す。

「自己紹介がまだだったね。そうだな...アダムとでも読んでくれ。」

アダム...旧約聖書に出てくる人間の祖だったか。

「もしかしてあんた俺のご先祖様だったりする? 」

ご先祖様が夢に現れ忠告する。

よく時代劇なんかで聞く話だ。

「ご先祖様...まぁ似たような物かな?まぁ、そう思ってくれても構わないよ。」

「じゃあご先祖様は何を忠告しに来てくれたんだ?」

俺は馬鹿馬鹿しいと思いながらそうふざける。

ご先祖様が現れて何か教えてくれるそんなのは創作の中だけだ。俺はどうやら夢に出てくるまでに創作物を読みふけっていたらしい注意しようと思った。 

「そうだね...黒翼には注意したまえ。彼は君達を狙っている。」

「黒翼...それって!」

今朝千尋が話していた都市伝説か?

本当だったのか?

それとも俺の心は思ったより恐怖していたのか。

それを確かめようとしたところ、その手は光に包まれて消えていく。

「もう時間か、別れは早いものだね。また会おう罪の証。」

罪の証?

手の主はよく分からない言葉を残し消えていった。

そして俺も闇が身体を纒い消えていく。


「待ってくれ!」

「どうしたの?急に、分からないなら後から教えてあげるからき・な・さ・い♥️」

俺は目が覚め、数学担当の厳島先生にからかわれていた。

「大丈夫?起こした方がよかった?随分気持ちよく寝てたから。」

千尋が俺の突然のおかしな行動に心配しているようだった。

「大丈夫だ心配かけてごめん。」

俺は小さな声で千尋に謝る。

さっきの夢はなんだったのか。

俺にはよく分からない。

だが妙な不安を俺は感じていた。

黒翼...俺は思ったより千尋の話に怖がっていたのか?


「ケケケ!もういいかい?」

私はあいつから逃げ、ロッカーの中に隠れている。

いつまで隠れていられるか恐怖で身体が震える。

あいつに遊ばれている。

やつからしたら俺は玩具その物だろう。

遊び終わったらどうなるか...私の身体から汗が溢れ滴る。

ピチャッ

「そこかなぁー?」

あいつはロッカーを端から開け始めた。

直感なのか汗の音が聞こえたのかどちらにしてもピンチだ。

私は息を隠そうと口に手を当てる。

「外れか。」

あいつは一つ一つロッカーを開けていく。

ここにたどり着くまでもう少しだ。

心臓の鼓動がまた早くなる。

そしてやつの声がすぐ近くに来た。

「最後か...いるかなぁ?」

やつはロッカーをゆっくり開けていく。

どうやら最後まで俺で遊ぶ気らしい。

私の心臓がいままでにないほど鼓動しているなか、

ガチャン!

という何かが割れた物音がした。

「そっちか!」

やつは扉から手を離し、その音がする方へと向かっていく。

なにがあったのか分からんが幸運だ。

今のうちに隠れ場所を変えなければ!

私は急ぎロッカー開ける。

 

「見つけたー」

最後に私がみた物はあいつの邪悪な笑い顔だった。


「いやー楽しかったなぁーでも少し油のりすぎかな。やっぱり若い祝福持ちが一番だな。 」

黒い翼の存在は肉を食べながらそう批評する。

「この町の祝福持ちは狩り尽くしちゃたかなーやっぱりあいつは逃がして熟成すべきだったかなぁ。」

黒翼は頭を書きながら自分の計画性のなさに嘆く。

「でも後悔しても仕方ないか。悪魔は後悔するもんじゃなくてさせるもんだもんなー」

悪魔と名乗った黒翼は笑い転げながら次を考える。

「次の町に行くか、もう少しここでゲームを楽しむか...神様どっちがいいかなぁー」

神を小馬鹿にしてまた笑い転げる。

「どっちにしても今は動きたくない。この余韻を楽しみたぁい!」

悪魔はそのまま眠りにつく、赤い血を口から滴しながら。




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約束を守るために 猫カイト @Neko822

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