約束を守るために
猫カイト
第1話 夢
「死なないでよ!約束したじゃない!...返事してよ...」
誰かが叫んでいる。
約束...その言葉が俺の心に何故か引っ掛かる。
「起きろよ糞やろう!!勝ち逃げか!?」
何かを掴んでいる男が身体がいまにも砕けそうで痛々しい様子でそう叫ぶ。
この光景は一体なんなんだ。
どこかで見たことがあるような既視感がおれの身体を襲う。
どこで見たのか思い出そうとしても思い出せない...
思い出そうとすればするほど意識は薄れていく。
あぁ意識が...消えて...
消えていく意識の中、謎の手が俺を掴む。
「起きたまえ。まだ火を消すには早いだろう?」
手の元からそんな声が聞こえる。
その声はどこか安らぎ、知っているような声だった。
「もう眠りたいんだ。」
俺は消えゆく意識の中、手の主に向かって何とか告げる。
このまま意識を手放し、光の中へと消えたいと。
「光?闇の間違いだろう?この先は何もない暗闇だ。それに君はまだ約束を果たしていない。」
約束?
突然鎖のような物が俺の身体を包み込む。
「そうだ約束だ。大事な約束を忘れては行けないよ。」
声を発していた手の主の腕が光となって消えていく。
「どうやら私の役目はここまでらしい残りはこの鎖が助けてくれる。なに心配いらないさ、また会える。 」
その声は消える最後まで優しく、暖かい声だった。
鎖が俺を光から暗闇へと連れていく。
でもなぜか闇へ行く恐怖はない。
手の主がこちらへ向かえと言ったからか。
よく分からない。
その闇に近づくに連れてまた俺の意識は消えていく。
だがさっきとは違いどこか暖かさを感じる。
あぁ...まるで...たい...
「起きなさい遅れるわよ!!」
姉の声で意識がゆっくりと戻ってくる。
「夢か...? 変な夢だったな。」
俺は身体を伸ばし先ほど見た夢を思い出す。
どこか悲しいようで不思議な夢だった。
「起きてるなら降りてきなさーい!」
「分かったよ!姉さん!」
俺は姉の起こす声に返事をする。
やれやれ姉さんはいつも元気だ。
もう少し落ち着いたらいい人も見つかるだろうに。
そんな姉には絶対には言えないことを思いながら階段を降りる。
「やっと起きた!もう私行くからねご飯はいつもの場所に置いてあるから!」
姉は靴を履きながらパンをくわえ仕事へと向かう。
どこの少女漫画の主人公だと思いながら俺も時間がないことを思い出し、急ぎ朝食があるキッチンへと向かう。
「今日はご飯か...」
朝は納豆に味噌汁、そしてご飯。
いつもの朝食だ。
「いただきます。」
俺は朝から味噌汁を用意してくれた姉に感謝をしながらご飯に手を伸ばす。
「行ってきます。」
俺は母と父の遺影に手を合わせ出掛ける。
これはいくら遅れていようと止められない日課だ。
「遅いよ仁!まったく私まで遅刻しちゃうじゃん!はやくはやく。」
家の前で待っていた幼なじみの千尋が怒りながら俺の背中を押す。
自分の遅刻が嫌なら待たなければいいのにと思わないでもなかった。
「あっ、仁!遅刻しそうなら待つなよって思ってたでしょ?これはおばさんから頼まれたことなんだからしっかりやらなきゃ!」
「分かってるよ次から気をつけるよ。」
エスパーのように心を読む幼なじみの千尋に俺は勝てねぇなぁと思いながら足を進める。
「やっと見つけた。」
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