消滅は一瞬で
三鹿ショート
消滅は一瞬で
何気なく夜空を眺めていると、流星のようなものが見えた。
だが、次の瞬間には近くの山で煙が立ち上ったため、何かが落下したのだと思い、私は現場へと向かった。
私以外にもそれを目撃した人間は多かったらしく、現場には両手足の指では足りないほどの野次馬が集まっていた。
立ち上る煙は、見たこともない物体から出ているらしい。
密かに開発されていた乗り物なのだろうかと眺めていると、中から奇妙な衣服を着用した存在が姿を現した。
身体の輪郭が明確と化してしまうような衣服で、寒さを感じないのだろうかと心配になってしまうほどの薄さに見える。
集まっている人々を目にすると、その存在は乗り物の中に声をかけた。
やがて、その乗り物には入りきらないであろう数の存在が次々と姿を現しては、集まっている人々に向かって近付いて行く。
不思議なことに、男性に対しては女性と思しき存在が、女性に対しては男性と思しき存在が接触している。
言葉を発することはないが、友好的であることは間違いないらしく、それぞれの存在は人々に抱きついた。
幾ら待ったとしても離れようとしないため、人々は仕方なく、それぞれの存在を連れて帰ることになった。
私もまた自宅に連れて帰り、改めて相手を観察する。
彼女は、いわゆる宇宙人であるらしい。
頭部から触角のようなものが顔を出し、落ちていた紙を満足そうに食べている姿を見れば、それ以外の感想を抱くことは無いだろう。
言葉を発しないために、どのように関わっていくべきかは不明だが、愛玩動物として考えれば、それほどの苦労は無かった。
しかし、やはりこの地球の常識が通用しないのだと再認識する出来事が起こった。
それは、彼女と肉体関係を持ってわずか三日で、その腹部が大きく膨らんだためである。
近くの病院へ向かうと、私と同じような目的で訪れた人間で一杯だった。
驚くべきことに、彼女は一週間で子どもを同時に三人も産んだ。
それは他の宇宙人も同様であるらしく、また、宇宙人が男性であった場合、その子どもを宿した女性もまた、三つ子を産んでいたのである。
わずか一週間で、子どもの数は一気に増えた。
何の準備も無く一度に三人もの子どもの父親と化したため、困惑し続けながら育児に励んだ。
幸いにも子どもたちは大人しかったため、夜泣きなどで悩まされることはなかった。
***
彼女たちの功績か、子どもの数が減っていたことで悩んでいた世界は、すっかり落ち着いた。
今やこの世界の子どものほとんどは彼女たち宇宙人の子孫ということになるが、それほど大きな問題が起きることはなかった。
やがてこの世界の人間たちと宇宙人の立場が入れ替わるのだろうと考えていた中で、事件は起きた。
彼女との生活が始まって十年が経過した頃、彼女が突然、老女と化したのである。
昨日の夜は変わらぬ姿であったにも関わらず、一晩で何が起きたというのだろうか。
問うたところで、言葉が通じないために、答えが明らかになることはない。
これは私の想像だが、普通の人間では考えられないほどに早く妊娠し、出産したことは、それだけ成長する速度が地球の人間とは異なるということではないだろうか。
だが、どのような理由を考えたとしても、愛した相手がこの世から消えようとしていることに変わりは無い。
私や子どもたちが悲しむ中、彼女は旅立った。
医師の言葉を耳にすると同時に、子どもたちがその場に倒れてしまった。
母親が死亡したことによる衝撃だろうと考えていたが、その思考は間違っていたらしい。
倒れた子どもたちもまた、その生命活動を終えていたのである。
私は医師の言葉を即座に理解することができなかった。
これでは、まるで母親に連れて行かれたようではないか。
一瞬にして家族を失ったことで、私もまた、その場に倒れそうになった。
しかし、これは私だけに起きた問題ではなかった。
彼女と同じように、他の宇宙人もまた、同じ時間に生命活動を終えていたのである。
そして、連鎖するかのように、子どもたちもまた、旅立ったのだ。
宇宙人とその子どもたちによって支えられていた世界が崩壊を迎えるまで、それほどの時間を要することはないだろう。
急ぐということも奇妙な表現だが、人間同士で子どもを作れば良いのではないかと考えたものの、人々は宇宙人の身体に耽溺していた影響か、人間同士で興奮を覚えることが無くなってしまったのだ。
つまり、数少なくなってしまった子どもたちを補充するかのように出現した宇宙人たちは、我々に未来をもたらしたのではなく、未来を消し去ったということになる。
責めようにも、その相手は揃って生存していない。
一体、彼女たちは何の目的でこの惑星にやってきたというのだろうか。
たとえ答えを出すことができたとしても、我々に未来が訪れることはないことは、誰もが理解していることだった。
消滅は一瞬で 三鹿ショート @mijikashort
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