転生屋さん、はじめました!!

もち巾着

第1話 異世界転生、しませんか?

夏休み。


友人と海でスイカ割りをしたり、祖母の家でスイカを食べたり、はたまた恋人とスイカジュースを飲んだり、1人で部屋に引きこもってクーラーの効いた部屋でスイカバーを食べたり...


そんなことはなく、私はなぜかは1人、極寒の地で氷を掘り続けていた。


「...え、夏休みは?私の夏はどこに行ったの!?彼氏は?花火は?スイカは!?私だって夏を感じたいのにーー!!!」


そんな私の叫びも虚しく、逆に喉が凍ってしまいそうだ。


なぜ氷を掘っているのかと言うと、第5751194人目の転生者の転生先がマグマ地帯だかららしい。


氷ごときで解決できると思っているのか?うちの会社はバカなのか?


そのバカでクソなブラック会社であるトランスファーアシストカンパニー(株)、通称TACは、その名の通り多くの転生希望者の転生を補助している。


顧客層は人間、特にニホンという場所からの転生が最も多いらしい。


そもそも転生っていうのはそのまま生まれ変わるって意味ね


転生先は多種多様で、同じ種族である人間に転生するのが一般的だが、最近ではモンスターや異種族への転生も増えている。


理由は分からない...人気?らしい


そして補助とは具体的に何をするのか!

まあ私がやっている事がその一例なんだけど...これは例外ってことで!


ざっくり説明すると転生後の人生で詰まないようにいろいろ準備とかをしておいてあげるっていうのが主な業務内容。ほかにも重要な仕事がある


私はまだまだ新人だから、こういう訳のわかんない雑務させられてるけど、出世すれば転生者選抜?とか実際の転生にも関われるらしい。


そう!私は転生に直接関わりたいのだ!!


誰だって人生で1度くらいは生まれ変わりたいと願うでしょう...?


でも私は転生ができない。だからTACに入社したのに!


あぁ...早く帰りたいよ、


掘り始めてから約4時間。やっとノルマを達成した。


この特製アツアツ強力ツルハシっていう脳筋みたいな名前の道具がなかったらあきらめてたね。


さてと、会社に戻りますか〜


私は会社に電話をして運搬用のロボットを呼び出そうとした。


「あ、もしもしー、氷掘り終わりましたんで運搬してくださいー」

「は?氷なんて頼んだっけ?」


電話口から聞こえてきたのはなぜか事務係の機械音声ではなくイラッとくる上司の声だった。


「え?なんでアスター先輩...?ああ、まあ、今朝会社の誰かからメールが来て、氷掘れって...」

「ふーん。何に使うん?」

「本日の転生者の方がマグマ地帯行きだからだそうです」

「ん?いや今日の人はエルフの里近くの森だったはずだけど?てか氷で解決しようとしてんのバカすぎwww」


ガチこいつムカつくな


「はぁ?ちょっとメール確認してみます...」


私は少しイラつきながらかじかんだ手でなんとか今朝届いたメールを確認する。


「『本日の転生者の転生先がマグマの高熱地帯である為、至急氷を調達してきてください。』...やっぱり届いてる。...あれ、でもこのメアドなんか少し違うような?」


私はとりあえずアスター先輩にメールのスクショを送り、再び電話を掛けた。


「あ、今送ったメールの写真、見ましたか?」

「...なあ、お前これさ、ちょっとマズイかも。」

「え、まずいってどういう?」

「おい!氷はどうしてる?」

「どうしてるも何も、まだすぐそこに」


私は氷を置いていた場所をチラリと見ると、何故か氷は消えていた。


「...無い。ないですよ先輩!!!!そんな...朝からこんな寒い中頑張って掘ったのに...!」

「あぁ、、やっぱり。やばいかもしれない」

「だからさっきからなんなんですか!?やばいとかマズイとか...」

「話は会社に戻ってからにしよう」

「はぁ、?まあ、分かりました...」


電話が一方的に切られてしまった


私はとりあえずテレポート装置に乗り込み会社への転送ボタンを押した。


《転送を開始します。乗員はベルトとゴーグル、扉のロックの確認をして下さい》


音声案内に従いゴーグルとベルトをすると、目の前の光景が一瞬で変化した。


そして私は繁忙期に引けを取らないほど慌ただしい社内の光景を目の当たりにした。


私はそのおかしな様子に戸惑いつつもアスター先輩を探し出した。


「あ!アスター先輩!!!」

「...ウリカ、お前やらかしたかもしれないぞ」

「え?」

「お前の掘った氷のせいで、転生予定だった世界でもうすぐ世界大戦始まるって」

「世界、大戦...?」


世界は無数に存在する。


私達TACの人間はその世界を行き来する方法を開発し、その技術を駆使して転生を行っている。


そもそも転生というのは世界の秩序を保つために行われるもので、転生者の大半が強力な力を持っているのは世界の安定を彼らにしてもらうためである。


「そ、それなら早く転生させれば...!」

「難しいだろうな。今から転生させても転生者の育成に間に合わないだろう」

「ほ、補助でなんとかならないんですか!?」

「強力な道具を与えたとしても本人のレベルが上がるのには時間がかかるからな、それこそ既に高レベルの人間を送るとかしない限り...」

「...わ、私じゃだめでしょうか」

「は」

「私が転生は出来ないのでしょうか!」

「知っているだろ、俺たちは転生できない」


私と先輩の間に気まずい沈黙が流れる。


このままでは責任を取らされて私はクビになってしまうかもしれない。

冷や汗が背筋を流れたとき、先輩が口を開いた。


「そうだな、転生者の補助係としてなら同行出来るかもしれない。」

「それは、どういう...?」

「転生者の教育係みたいなものだ。よくある案内人的なやつだな。だが同行する場合、転生者が死ぬと同時にお前は強制的に戻される。そして、お前自身も死ぬ可能性がある」

「な、なるほど。やれます!!!!」

「はぁ...分かってるのか?俺たちの死は、」

「分かってます」

「...そうか、なら大戦を終わらせる条件は3つ。

1.転生者が死なせずにレベルを上げさせる

2.氷を取り戻す

3.お前が死なない

ま、最悪お前は死んでもいいけどな。」

「え、ひど」

「冗談だ」


こんな状況でも冗談を言える彼の神経を疑うわ


「それと1番大事なことだが、」


それは私にでも分かる。この会社に来て、生まれて、一番最初に教わること。


「「自分たちの手で世界の運命を変えないこと」」


「ふん、分かってるならいい。じゃあ早速転生を始めよう」



こうして私は、思いもよらぬ形で望んでいた転生に直接関わる仕事をすることになったのだった。

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転生屋さん、はじめました!! もち巾着 @kintyaku

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