絞殺魔

 ある街に絞殺魔が住んでいた。凶器はさまざまな色や柄や素材のリボンで、ことが済むと家に持ち帰り、ちょうちょ結びにして額縁に入れ、壁に飾る。リボンは街の手芸屋で手に入れる。大きくない店だが、国内外のリボンを仕入れてくれ、店主は優しく誠実で、珍しいリボンが入荷すると、店の常連である絞殺魔に嬉しそうに教えてくれる。店は絞殺魔の活動を支えてくれる大切な存在であり、店主の首だけは絞めないでいようといつも思う。

 そんなある日、手芸屋が閉店することになった。絞殺魔は悲しんだ。店主に、店がとても好きだったことといままでの感謝を伝えた。店主も、苦労して仕入れたきれいなリボンを見て幸せそうにする絞殺魔の様子が支えになっていたと答えた。絞殺魔は閉店セールで色とりどりのリボンを買いこみ、店頭の見本として置かれていた、店主の作品である編みぐるみのクマも思い出として購入した。

 手芸屋の閉店からしばらくして、絞殺魔の犯行はぱったりと途絶えた。

 絞殺魔の家の壁に、ひときわ美しいリボンが飾られている。店主が最終日に、「とても珍しいものなんだ」と言って譲ってくれたものだ。まだ使っていない。絞殺魔は、それをいつかのいちばん大切な犯行に取っておこうと思っている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

スケッチブック 庭一 @ut_281

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ