愛だの恋だの 1


 最近よく夢を見る。なんの夢なのか、悪夢なのか縁起のいい夢なのか、朝食が終わる頃には忘れてしまう。「夢を見た」という自覚だけが脳裏に焼き付いて離れない。それが不快なのかも、しっかりと断言できないのが不気味だ。いい事をした後のような、自分は悪くないのに喧嘩両成敗にされた時のような、うずうずした気持ちが離れない。

 それが、一ヶ月に一回、一週間に一回、三日に一回、と日に日に増えていく。ここまで来たらもう不快だ。せめて「何を見たのか」それを知れたら幾分かマシだろうに。



「誰かの結婚式でも見てんじゃない」

「ケッコンシキィ…」

 結婚式…

シミが目立ちそうな白い男と、同じ色を身に纏った女の誓いの場。俺は人生で一度だけそれを間近で見たが、もうほとんど覚えていない。新郎の元へゆったりと移動する長いスカートを、踏もうとして怒られたっけ。

「ゆいちゃんの結婚式とか、複雑な気持ちになるって断言できるよ」

ゆいちゃん…確かに…って少し頷く。

ゆいちゃん、男しかいない兄妹の紅一点的存在の末っ子ちゃんだ。

俺たち双子の兄であるかずまると父親が同じらしく、この2人はずば抜けて顔が整ってる。

ここ十年と数年、一緒に暮らしてきたんだ。そんな子が急に結婚式なんてやれば、この気持ちになるのも理解できた。


 でも、心臓の奥を掴まれたような、不快と断言はできないあれは、未だ続いている。厄介だ。

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