82.最高のふたり

「ええっ!? 計子ちゃん、またその水着着て来たの~??」


 琴音は計子の水着姿を見て驚きの声をあげた。

 それは水泳大会で男子生徒中の視線を浴びたいわば禁断の水着。優斗の為に計子がその柔肌やお尻など至る所を露出させた、ある意味羞恥プレイをも我慢して着た『サイズ違いのスクール水着』である。計子が言う。



「こ、琴音さんだって、優斗さんが好きな『スク水』着ているでしょ……」


 そう言う琴音もやはり紺色をベースとしたまさに『スク水』型の水着。露出は控えめだが巨乳でスタイルの良い琴音が着ると、その恥じらう姿と相まってこの上なくいやらしい。琴音が恥ずかしそうに答える。



「だ、だって、水着なんてあんまり持っていないし……」


 まったくの嘘。他にも可愛い水着はあるのだが、やはり優斗の為にこの水着一択でやって来ている。ルリが言う。



「う~、寒いね~! 早く入ろ、~!!」


 優愛達は卒業式の後、卒業旅行として山奥にある温泉地に来ていた。

 まだまだ雪も残る冷たい風が吹く深い山。そんな山中にできたリゾート型温泉旅館。純日本風の棟がいくつも並び、自慢は男女混浴となる温泉プール。広い敷地に日本庭園のような景観と温泉が一体化した山中の極上施設である。



「うひゃ~、あったかい~!!」


 温泉に入ったルリが歓喜の声をあげる。ピンク色の髪はお団子上で頭上で巻かれ、やはりルリのカラーであるピンクのビキニは彼女によく似合う。ルリが言う。



「優愛も早くおいでよ~!!」


 その声に応じるように建物から黒髪をポニーテールにまとめた優愛が現れる。



(優愛ちゃん、やっぱり綺麗……)


 すらっとした細い足。均整の取れたスタイル。なのに意外としっかりと出た胸。周りに積もる雪のような白い肌に、文句なしの美少女。白いビキニが清楚さをも醸し出す。黙っていれば。



「ちょ、ちょっと! 寒すぎるわよ!! どうにかしてよ!!!」


 少し離れた場所にいる他のお客が優愛の大きな声に驚いてこちらを見つめる。計子がため息をつきながら言う。


「だったら早くお湯に入りなさいよ。水着なんだから寒いに決まっているでしょ」


「わ、分かっているわよ! それくらい……」


 そう言って優愛もお湯に入る。



「はあ~、あったかい。生き返るわ~」


 至福の湯に包まれた優愛が計子の着ている水着を見て言う。



「あなた、またその変態水着着て来たのね。やはり変態なんでしょ?」


 計子がお尻や胸に食い込んだ水着を直しながら答える。


「ち、違います!! これはとても大切な水着で、しっかりと計算して……」



「あ、優斗さん来た!!」


 そんなふたりの耳に嬉しそうな琴音の声が響く。くだらない言い争いをしているふたりをよそに、琴音はお湯から上がり小走りで優斗の元へと向かう。



「優斗さん! こっちですよ!!」


 競泳で使うスパッツ型の水着を着た優斗。上半身はもちろん裸でしなるような筋肉がまぶしい。琴音は遠慮なしに優斗の腕に絡みつき皆に元へと連れて行く。



「ちょ、ちょっと、琴音!?」


 薄い水着。琴音の胸にある大きな膨らみが直に優斗の腕に伝わる。優愛が立ち上がって大声で言う。



「琴音!! 何やってるのよ!!!」


 小走りで移動する琴音の胸が上下に大きく揺れる。その度に優斗の腕にその柔らかい膨らみが強く当たり否が応でもそちらに優斗の視線が移る。計子が呆れた顔で言う。


「優斗さんもやっぱり男の人なんですよね……」


 皆の冷たい視線に気付いた優斗が琴音から離れて言う。



「き、綺麗な温泉だな……」


 なんとも間の抜けたセリフ。優愛が優斗を指差して言う。



「あ、あなた!! それは浮気よ! 浮気って言うのよ!!」


「優愛、ちょっと待て!! これは琴音が……」



「は~い、優愛ちゃん~、今日はみんなで楽しもうね~!!」


 そう言ってひとり怒る優愛を無理やり温泉の中へ引きずり込むルリ。



「ふがっ!? ぶがぶごごごおっ……」


 湯の中に沈んだ優愛を見て皆が笑い出す。琴音が優斗の手を握って笑顔で言う。



「さ、優斗さんもどうぞ」


「おう、ありがと。琴音!」


 少しだけ小雪が舞う中、優斗が温泉プールへと体を沈める。



「あ~、いい気持ち。最高だな……」


「本当に最高ですね」


 それに計子が笑顔で答える。琴音が言う。



「優斗さん、四月からも時々みんなで会いましょうね」


「ああ、いいね。女子大生になったみんなと会ってみたい」


「何それ~? なんだか言い方がいやらしいです。優斗さん」


 そう言いながらもまんざらじゃない琴音。優斗が暗い空を見上げながら言う。



「ほんと、ありがとな。みんな」


 お湯から顔を出した優愛。みんなが空を見つめている状況に同じく空を見つめる。

 卒業旅行はそんなみんなの気持ちを更に深め、かけがえのない思い出となってそれぞれの胸に刻み込まれた。






「優斗くーん!! 早く早くっ!!」


 春休み。温かな春の訪れを感じさせる三月下旬。優愛は電車から降りた優斗に大きな声をかけた。

 ふたりが向かうのは予備校。特段必要がないと思っていた優斗だっだが、優愛の父親が絶対に行けと言った為ふたりで通うことにした。今日は先日行った学力テストの結果をもとに初めての面談が行われる日である。



「そんなに急がなくても予備校は逃げないから」


 優斗が苦笑して答える。背が高く銀髪で爽やかな優斗。電車に乗った瞬間に乗り合わせた女性の目を引く。優愛が優斗の腕にしっかりと絡みつきそんな視線を吹き飛ばすように言う。


「さ、行くわよ」


「ああ」


 優愛はまさ『私が彼女』と言うオーラを発しながら優斗と共に歩き出す。





「さあ、学力テストはどうだったのかな~?」


 久しぶりにやって来た予備校。駅近くにあるその大きな建物を見上げながら優斗が言う。


「全然楽勝だったんでしょ??」


「んー、まあ、難しくはなかったかな」


 ふたりが一緒に建物へと入る。




「神崎優愛さーん」


「はい!」


 建物の教室で待っていた優斗達。他にも今日面談予定の同い年ぐらいの人がたくさん座っている。優愛が優斗に言う。


「じゃあ、先に行ってくるわね」


「ああ」


 そう言って軽く手を叩き合って優愛を送る。優斗はそんな彼女の背中を見送り、優愛は別室へとひとり入る。




「神崎優愛さんですね?」


「はい」


 面接官が書類に目を通しながら言う。



「素晴らしい成績です。ほぼ満点と言うか、これで大学はどこにも受からなかったんですか?」


 ちょっと不思議がる面接官を前に優愛が答える。



「いいえ、M大に合格しました」


「え?」


 面接官は第一志望のM大と言う文字を見て再度尋ね直す。



「ええっと、M大に合格したのに、来年M大希望ってことですか?」


「はい」


 まったく意味が分からない面接官。優愛が言う。



「色々事情がありまして」


 彼女の学歴は進学校である宮西。そこで生徒会長を務め試験も学年二位と文句ない成績である。だが面接官はそれ以上の詮索を止め優愛に言う。



「分かりました。神崎さんは『特進クラス』で頑張って貰います」


「はい」


「それからこの成績なら『学費免除学生』に推薦できます。希望しますか?」


 優愛が尋ね返す。



「それはここの学費が無料になるってことですか?」


「ええ。毎年成績優秀者二名を選んでいます。その代わりうちの学校の広告媒体などメディアのへの露出もお願いしていますけどね」


「分かりました。大丈夫です」


 優斗のマンションで暮らし、学費が無料となるとなれば父親は喜ぶだろう。一応マンション代の半分は優愛が出すことになったが、学費無料はこの上なく有難い。優愛は何度も面接官の話に頷いて返した。





「ねえ、あなたお名前は?」


 教室でひとり名前を呼ばれるのを待っていた優斗に、後ろから女の声が掛かった。


「ん?」


 振り返る優斗。

 そこにはウェーブかかった長い金髪、赤い口紅と真っ白な肌が特徴的な女性が立っている。優斗が首を傾げながら答える。



「俺? 俺は上杉って言うけど、何か?」


 初めての女性。全く身覚えもない。女性が見下すような視線で優斗を見ながら言う。



「わたくし? わたくしのことが知りたいのでしょうか?? まあ、あなたみたいな平民無勢がこのわたくしの名前を知りたいなんて、あ~、どうしましょう!? でもどうしてもお知りになりたいと言うのであれば、特別に……」



「上杉優斗さーん」


「あ、はい!」


 女性がひとり話す間に名前を呼ばれる優斗。彼女をして教室を出る。残された金髪の女性が呆然としながら言う。



「わ、わたくしを『無視』ですって……?」


「お嬢様。彼は自分の業務に従ったまででございます。そこに他意はございませぬ」


 彼女の傍にぴたっと影のように使える初老の黒服の男がそっと声をかける。金髪の女が震えながら言う。



「面白いわ……」


「お嬢様?」


 金髪の女が不敵な笑みを浮かべて言う。



「面白いわ。この西園寺カリナをする男など生まれて初めて。あの男を私の足元へとひれ伏すにして見せるわ!!」


 カリナは優斗が出て行った教室のドアをじっと見つめ心に誓った。





「上杉優斗さんですね?」


「はい」


 面接官は手元にある書類を見てから尋ねる。



「宮前西高校で、成績トップ……、そしてこのテストの結果。お聞きしますが、大学はどこにも受からなかったのですか?」


 優斗が首を振って答える。



「いえ、事情があって受験しませんでした」


 これだけの成績を誇る学生。どんな事情が知りたくなる。


「どんな事情でしょうか?」


「ええ、実は卒業後はS大に内定していたのですが、ドタキャンしちゃいまして……」


 はにかんで答える優斗を面接官は信じられない顔で見つめる。



「あ、あの、S大ってアメリカの……?」


 誰でも知っているその有名大学。それをドタキャンしたと目の前の学生は笑って言う。


「ええ、まあ、そんなところです」


 面接官は眩暈が起こりそうな頭を支えながら、優愛と同様今後の希望、学費免除申請について説明をした。





(ふう、良かった。希望していた優愛と同じ『特進クラス』には入れそうだ……)


 面談を終え安心しきった優斗がぼうっとして廊下を歩く。



「きゃっ!!」


「わっ、ごめん!!」


 そんな彼が誰かにぶつかってふらつく。



「痛ったーい……」


 気が付くと廊下に女の子が座り込んでいる。優斗が慌てて手を差し出し謝罪する。



「ご、ごめん!! 大丈夫!?」


 手を差し出された女の子。青みがかった長い髪に同じく大きな青い目、清楚さ溢れる文句無しの美少女だ。優斗に差し出された手を取り答える。



「あ、ありがとうございます。大丈夫です……」


 立ち上がる女の子。ひたすら謝る優斗を見て思う。



(いい男……)


「怪我なかった?」


「え、ええ。大丈夫です。私も前をよく見てなくて……」


 珍しく自分が緊張していることに驚く少女。優斗が軽く手を上げて言う。



「それじゃ!」


「あ……」


 少女は何かを言おうと思ったがその前に優斗が先に小走りでその場を後にする。そこへ通りかかった別の男ふたり組が、その美少女を見て小さく話す。



「おい、あれって『S高の白井』じゃね?」

「マジかよ? あの男たらしの?? っていうか、実物めっちゃ可愛いな……」


 青髪の美少女には慣れた言葉。

 だがそんな彼女の心臓がどくどくと鼓動する。



(私を見つめたのに全く関心を寄せなかった……、どういう事なの、あの人……、面白いわ)


照準目標設定ロックオン


 青髪の美少女は小さくそう言うとそのまま優斗の背中をじっと見続けた。





「お待たせ、優愛!!」


 建物の外で待っていた優愛にドアから出て来た優斗が声をかける。


「あ、優斗君。どうだった??」


 優斗は面接の結果を話す。



「ぷぷっ、私と同じだね」


「そうなのか?」


 進学校の宮西トップ2なのだから当然の結果である。優斗が優愛の手を握り歩き出す。



「じゃあ、来年は一緒に大学生になるように頑張ろうな!!」


「うん!!」


 最高の高校生活を終えた優愛と優斗。

 大学生活をふたりで叶えるために新たな生活を始める。



 最高の大学生活になることを願って。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

これにて完結となります。

お読み頂きましてどうもありがとうございました!!

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ツンデレ生徒会長に『備品』呼ばわりされた俺、これから君に無双します。 サイトウ純蒼 @junso32

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