百合の間に挟まるポッキー。『G'sこえけん ボイスドラマ部門応募作』

猫寝

第1話 気づけばポッキーになっていたので、食べられながら女の子の話を堪能する僕。

ミサト「ねぇハルナ!なんか楽しい話してよ!!」


ハルナ「アンタいつも楽しそうじゃないの……」


ミサト「今は楽しくないよ!だってテスト勉強中だもん!」


ハルナ「そうね、放課後にあなたの家までアタシが教えに来てあげてるのよね。なのにお菓子やらジュースやら用意されてて、気づけばもうノートを閉じている人が目の前に居る訳なんだけど?」


ミサト「そう、それが私!」


ハルナ「自覚あるなら勉強しなさいよ……」


ミサト「勉強はしたくない!お話がしたい!!でないと寝ちゃう!」


ハルナ「アホの子……!知ってたけどこの子はアホの子…!」


ミサト「ねえお話ししてよー。ハルナは耳年増でゴシップ大好きだからいろんな話知ってるわよ、って言ってたよ!」


ハルナ「誰が言ってたのよそれ……」


ミサト「誰もが」


ハルナ「アタシの評価どうなってんのよ……!!」


ミサト「それでそれで?最新のゴシップは?」


ハルナ「そんなにワクワクした顔と声でゴシップ聞きたがるアンタも相当だと思うわよ……。まあいいわ、どうせこのままじゃ勉強に集中できないだろうし……話聞いたらちゃんと勉強するのよ、いい?」


ミサト「――――…………………………うん、するする。うん!」


ハルナ「絶対する気無いなこいつ……? はぁ……いいわ、話すわよ。なんならアタシもちょっと勉強飽きてきたとこだし」


ミサト「いよっ!待ってました国務長官!」


ハルナ「覚えておきなさい、人をおだてる時は大統領を使うべきよ」


ミサト「国務長官も凄いのに?」


ハルナ「国務長官も凄いけど!大統領には劣るから!」


ミサト「身分で劣るとか無いと思う。役割が違うだけでどっちも大事な仕事だよ」


ハルナ「急に正論を言うな!!!なにその真面目な顔!!しばくわよ!!」


ミサト「真面目な顔をしてしばかれる世界があるの……?」


ハルナ「時にはあるのよ」


ミサト「覚えた」


ハルナ「良かったわ」


ミサト「そして忘れた」


 SE・スパーン!!ノートでぶっ叩く音。


ミサト「ハルナちゃん、数学のノートは痛いよ」


ハルナ「全部同じノートよ!アタシは几帳面な性格だからね同じノートの色違いを買いそろえてるのよ!」


ミサト「でも考えてみてよ。数学と国語は他の教科より痛い気がしない?」


ハルナ「―――――――………なんで?」


ミサト「なんでとかじゃない」


ハルナ「なんでとかじゃない……?」


ミサト「パッション」


ハルナ「情熱?」


ミサト「……じゃあそれじゃない」


ハルナ「……英語のノートもだいぶ痛そうね」


ミサト「もう!いいから!なんで話を逸らすの!?ゴシップ聞かせてよ!!」


ハルナ「わりとそっちのせいで逸れてる気がするし、そんなにもゴシップ聞きたいの……?」


ミサト「聴きたい!なぜなら私は耳年増だから!」


ハルナ「アンタも耳年増なのかい。ってか言い回しが古いわね耳年増」


ミサト「私おばあちゃん子だから! ハルナもそうでしょ?おばあちゃん子はみんな耳年増だしゴシップが大好き!」


ハルナ「全国のおばあちゃん子に謝りなさい」


ミサト「ご  め  ん  な  さ  い !」


ハルナ「よし、謝れて偉い。じゃあご褒美に何か話をしてあげよう。どんな話が良い?」


ミサト「恋バナ!!」


ハルナ「恋バナねぇ……あ、アレ知ってる? 隣のクラスのみーちゃん彼氏できたって」


ミサト「なんと!!そういう話が聞きたかった!」


ハルナ「相手は大学生で、3股かけられてて、しかも3番目の女だったんだって」


ミサト「なんと……そういう話は聞きたくなかった…」


ハルナ「なんでよ、耳年増が好きそうな話じゃないの」


ミサト「女子高生が聞きたいのはキラキラ恋愛話なのよ!「えー、いいないいなー!」とか言いたいの!恋に恋したいの!」


ハルナ「わかったわかった、落ち着きなさい。ほら、ポッキーでも食べる?」


ミサト「食べる」


食べる音 ポッキーはチョコの付いた方が右耳で、持つ方が左耳なので、食べられると音が右から左へと移動していく。


食べられたら死と思いきや、たくさんあるポッキーの1本とかではなく、ポッキーという概念そのものになっているので、一度食べられてもまた次のポッキーも次のポッキーもあなたなのである。


ハルナ「ほーら美味しいかい?」


ミサト「うんうん美味しい。食べさせてー」


ハルナ「はいはい、そーれエサだよー。おいで女子校生ー」


ミサト「じぇけー!じぇけー!」


ハルナ「なにそれ」


ミサト「JKの鳴き声」


ハルナ「その理屈で言うとアタシもじぇけーって鳴くことになるけど?」


ミサト「よし、じゃあ……はーい、お食べ女子校生ー」


ハルナ「……じぇ、じぇけー」


ミサト「恥ずかしそうなの可愛いねっ!」


食べる音。右耳から左耳へ移動していく。


ハルナ「って、なんでアタシも鳴かなきゃならないのよ!」


ミサト「おおー、ノリツッコミ!ノリツッコミだ!将来は芸人さんかなぁ?」


ハルナ「芸人さんナメんじゃないわよ!」


ミサト「ごめん。わりとガチなお笑い好きに対して禁句だったごめん」


ハルナ「悪いと思うならあんたアタシのおすすめ深夜ラジオ聞きなさいよね」


ミサト「うわーん、深夜ラジオをお勧めしてくるタイプのお笑いファンだよー、厄介なタイプだよー」


ハルナ「そんなことな……くもないけど!わりとそうだけど!深夜ラジオに重きを置くタイプのお笑いファンは大体面倒くさいけど!自覚あるけど!」


ミサト「大丈夫、面倒くさくても私はハルナが好きだよーっ」


ハルナ「……そ、それは、その、どうも」


ミサト「ふひひっ、赤くなってるの可愛いねー!はいポッキーあーん」


ハルナ「……じぇけー……」


食べる音。


ミサト「よーし、良い子良い子」


ハルナ「くっ、なんかわかんないけど屈辱だわ……」


ミサト「じゃあ、ポッキーのお礼にまた恋バナちょうだい?」


ハルナ「屈辱だったのに!?そもそもアタシが買ってきたポッキーなのに!?」


ミサト「細かいことは良いんだよ」


ハルナ「細かいどころかむしろ一番大事なところじゃない?アタシが買ってきたのって、一番大事なとこじゃない?」


ミサト「お前のモノは俺のモノ、俺のモノはお前のモノ」


ハルナ「ジャイアニズムかと思いきや熱い友情!二人は一心同体!………じゃあそっちのお菓子も貰うけど良いわよね?」


ミサト「……い   い    よ……!」


ハルナ「葛藤が声と顔に出過ぎなのよアンタは……。まあ、そういう素直さ好きだけどさ」


ミサト「私もハルナが好きだよー!」


ハルナ「そっ……そういう言い方をするな恥ずかしい!」


ミサト「なんで?そっちが先に言ったのに?」


ハルナ「それはそうだけどもさ!」


ミサト「わからん、なんで怒ってるのさ。好きなのに好きって言ったらだめなん?怒られるの?」


ハルナ「照れるでしょうが!! そんなに真っ直ぐ好意をぶつけられたら照れるでしょうが!!あんたの好意は160キロのストレートなのよ!」


ミサト「私の好意がオオタニサンのストレートですって?」


ハルナ「……まあ、間違ってもいない!」


ミサト「やったー正解だ!」


ハルナ「正解でも無いけどね!!間違ってはいないだけで正解でもないけどね!」


ミサト「……言ってることが難しいよ……」


ハルナ「ごめん、アホの子だった……アンタ アホの子だった!難しいこと言ってごめんね!ほら、ポッキー食べるかい?」


ミサト「じぇけー!じぇけー!」


食べる音。


ハルナ「よーしよし、良い子良い子。良い子だねー」


ミサト「うん!私良い子!」


ハルナ「アホの子……!でもそれもまた可愛いね!」


ミサト「うん!私かわいい! ……で、そんな可愛い私にいつ新しいゴシップをくれるのかねハルナくんは」


ハルナ「急に真顔!そんなにゴシップ好きだったとは……まあいいわ。そうねぇ……あ、中学の時に同級生だったタカシ君覚えてる?」


ミサト「ああ、居たね。あんまり目立たないタイプの子だったけど……」


ハルナ「そのタカシくん、彼氏が出来たんだって」


ミサト「へぇー、彼氏が……ん?彼氏?彼女じゃなくて?」


ハルナ「彼氏」


ミサト「そうなの?仲のいい男友達とかじゃなくて!?」


ハルナ「違う違う、自分で周りに公言してるんだから。彼氏が出来たーって。なんだかすごく幸せそうだって話だよ」


ミサト「じゃあ良かった!これは良い恋愛話だね!」


ハルナ「あと、さおり先輩は彼女が出来たって」


ミサト「凄い!みんなもう、そういうの言っちゃうんだ!」


ハルナ「いい、ミサト……これが令和よ!」


ミサト「令和!!凄いね令和!!」


ハルナ「まあ、みんながみんなそれを素直に受け入れるかって言うと難しいとこだけど、最近はわりと気にしないみたいよ」


ミサト「ふーん……ねえねえ、私昔から気になってたことがあるんだけどさ」


ハルナ「なによ」


ミサト「男同士でも女同士でも、付き合ったらやっぱキスとかするんでしょ?」


ハルナ「そりゃまあ……するんじゃない?」


ミサト「どんな感じなのかな?」


ハルナ「知らないわよ。アタシだってその………したことないし……」


ミサト「男の子とも?」


ハルナ「………ないわよ」


ミサト「そうなんだ……へー……そうなんだ……」


ハルナ「な、なによ!おかしい!?おかしいっての!?ゴシップ情報たくさん持ってるのに自分は経験無いんだーとか言いたいの!?そうよそうよアタシこそ本物の耳年増なのようえーーん!!」


ミサト「誰もそんなこと言ってないよ!?落ち着いてハルナ!?」


ハルナ「うえーん」


ミサト「ほーらポッキーだよー、美味しいよー」


ハルナ「……ふえーん…じぇけー」


ミサト「あ、じぇけーのノリはやってくれるのね」


食べる音。


ハルナ「おいしい、おいしい」


ミサト「そうだねー、よかったねー。よしよし、泣かないでね」


ハルナ「なんでアタシが慰められなきゃなんないのよ……」


ミサト「泣くからぁ……」


ハルナ「そうだね、ごめん……アタシほら……結構その、恋愛経験あるように見られるっていうか……でも実際は全然じゃない? それがちょっと、コンプレックスっていうか……」


ミサト「よしわかった、じゃあ私とキスしよう!」


ハルナ「なんでそうなる!?」


ミサト「したことないことはしてみたらいいじゃない!」


ハルナ「一見正論のような気もするけどなんか違う!」


ミサト「何が違うの?」


ハルナ「何ってその……あれでしょ?キスとかはその、好きな人とするものでしょ?」


ミサト「私はハルナのこと好きだけど?」


ハルナ「それは嬉しいけどそう言う事じゃなくて!」


ミサト「ハルナも私のこと好きってさっき言ってたじゃん」


ハルナ「言ったけど!!!それがそういう好きかって言われるとちょっとまだ迷いがあるっていうかその」


ミサト「じゃあ確かめるためにもキスしよう!」


ハルナ「そういうものなの!?それで確かめられるの!?」


ミサト「わかんないけどやってみればたぶんなんとかなる気がするよ!」


ハルナ「凄く不確定な情報でアタシのファーストキスが奪われようとしている!!」


ミサト「初キッスなの!?はじめてのチュウなの!?」


ハルナ「なんで違う言い方した!?ファーストキスでいいでしょ!ってか、ファーストキスで悪いの!?」


ミサト「悪くは無いよ!なぜなら私も初めてだから!」


ハルナ「初めてを使うなこんなことに!」


ミサト「初めてだからこそ、やってみないとわからないことがあるでしょ!」


ハルナ「……説得力があるような気がしてしまった!でも無いよ!?」


ミサト「そんなに私とキスしたくないの……?」


ハルナ「あああ、ちょっ……そんなにしょんぼりしないでよ……。ほーら、ポッキーだよー」


ミサト「……じぇけー……」


食べる音 右耳から左耳へ


ミサト「……あっ! そうだ、これだ!これだよ!」


ハルナ「何よ急に元気になって。どれよ?」


ミサト「ハルナ……私とポッキーゲームしよう!」


ハルナ「………………――――――――は?」


ミサト「ポッキーゲームだよポッキーゲーム!知らない?」


ハルナ「いや、知らなくはないけど……」


ミサト「やったことある!?」


ハルナ「あるわけないでしょ!漫画とかドラマとかで見たことあるだけよ。あれでしょ?あの……一本のポッキーを二人で両側から咥えて、食べ進んでいくやつでしょ?」


ミサト「そう!あの感染対策とか欠片も存在しない頃に流行った衛生という概念の存在しない遊び!」


ハルナ「身も蓋も無い事言うんじゃないわよ。こういう時だけ難しい言葉使うわねアンタ」


ミサト「それをやろう!」


ハルナ「感染対策とか衛生の話はどうなったの……?」


ミサト「私たちはマスクもせずにもう1時間以上この部屋の中で喋ったり食べたり飲んだりしてるのに今更だとは思わないかね!?」


ハルナ「それはめっちゃそう!」


ミサト「じゃあポッキーゲームやっても良いよね!」


ハルナ「……ん? そう……なのかな? いや、やっても……んん?」


ミサト「じゃあやろう!両端から食べてって、最後にうっかりキスしちゃうとこまでね!」


ハルナ「待て待て、最後のうっかりがもう最初から決まってるのおかしいよね?」


ミサト「うっかりなら仕方ないよね!」


ハルナ「いやだから……決定事項のうっかりはもううっかりではないよ?」


ミサト「いいかいハルナちゃん……うっかりなら、ファーストキッスにはならない!!」


ハルナ「いやなるだろ」


ミサト「ならないの!!ならないったらならないの!!だからいいの!!」


ハルナ「アンタ力押しが過ぎるわよ」


ミサト「ポッキーゲームでのチューが初キッスにカウントされるなら、ほとんどの人類の初キッスは両親かペットという答えになるよ」


ハルナ「……ごめんわかんない」


ミサト「だから!恋人と両想いでしようと思ってしたキスだけが本当のキッスだってこと!それ以外はカウントされないの!」


ハルナ「それはまあ、言いたいことはわかるわ。わかるけど……」


ミサト「じゃあポッキーゲームしても良いよね!」


ハルナ「いや、それなら良いよとはならないよ?」


ミサト「なんでよ!?」


ハルナ「だってキスするんでしょ!?」


ミサト「絶対する!」


ハルナ「うっかりはどうした」


ミサト「……絶対にうっかりキスする!」


ハルナ「なんでそんなにアタシとキスしたいのよ」


ミサト「好きだから!」


ハルナ「……それはその、どういう好きなの?」


ミサト「好きは好きだよ」


ハルナ「だからその……ラブなのかライクなのか、とかあるでしょ?」


ミサト「ないよ!好きは好き!一種類しかないの!私はハルナが好き!めっちゃ好き!すっごく好き!人類で一番好き!!」


ハルナ「だっ……だから、アンタはもうそういう……あーもう!わかった、わかったわよ」


ミサト「良いの!?本当に!?」


ハルナ「い、一回だけよ!それでまあ、アンタもアタシもわかるでしょ。自分の気持ちがラブなのかライクなのか。それを判断する機会を作りましょ。だから一回だけね」


ミサト「やったー!やろうすぐやろう!気持ちが変わらないうちに!」


ハルナ「ムードもなにもあったもんじゃないわね……」


ミサト「じゃあ、私がチョコの方をくわえるから、ハルナは持つ方ね」


ハルナ「……いやまあ良いけど、アンタがチョコついてる美味しい方なのね?」


ミサト「それはそうだよ!」


ハルナ「なんでよ!?」


ミサト「私がやりたいって言って実現したんだから!」


ハルナ「……そう……なの…? いやそうだけど、そっちのやりたいをこっちが受けて叶えてあげてるんだから、せめてこっちに美味しいチョコのところを、みたいな流れは無いの?」


ミサト「その発想は無かった」


ハルナ「……無かったならしょうがない!」


ミサト「はーいじゃあやりまーす。んっ」


ハルナ「いや、勝手に準備完了して口にくわえたポッキーを突き出してくるのやめて?こっちの心の準備あるから」


ミサト「ふーふふふふほふほほほううほほほポリポリポリ」


ハルナ「食べてる食べてる!聞き取れない言葉を喋りながら食べちゃってるから!」


ミサト「ごくん。しょーがないじゃん心の準備はいつだって覚悟完了してるんだから」


ハルナ「なんかちょっと格好良い事言ってるけどこれからやるのポッキーゲームだし結局一本食べちゃったじゃないのよ」


ミサト「大丈夫、まだあるから!」


ハルナ「うん、アタシのお金で買ったポッキーがね?」


ミサト「成功するまでどんどん行こう!ポリポリポリ」


ハルナ「おい普通に食うな」


ミサト「お菓子は食べるもんでしょ!」


ハルナ「情緒不安定なのかアンタは?」


ミサト「私も実は緊張してるの!ドキドキなの!ドキドキしちゃうドッキドキなの!」


ハルナ「……そうなの?」


ミサト「当たり前じゃん!私だって、その……好きな人とのファーストキスだし……」


ハルナ「……急に照れるんじゃないわよバカ……本当に、いいの?アタシで」


ミサト「いい。絶対に良い。ハルナが良い」


ハルナ「―――――っ! ……そ、そこまで言われちゃ仕方ないわね……ほらもう、早く準備しなさいよ!」


ミサト「……うんっ!!はい!はーい!んっ!」


ハルナ「………っ……ふー……じゃあ――――――――……い、いくわよ!」


少しずつ食べ進める音が、左右の耳から近づいてくる。


そして――――最後に、ポキッと折れる音と同時に、わずかに唇が触れ合った「ちゅっ……」という音。


ミサト「……」


ハルナ「……」


ミサト「……ちゅーしちゃった」


ハルナ「………うん……しちゃった……じゃなくて!う、うっかりだから!今のはあくまでも、ポッキーゲームの結果としてのうっかりだから!」


ミサト「そうだけど……」


ハルナ「ノーカウント!ポッキーゲームはノーカウント!そもそも最初にあんたがそう言ったんでしょ!」


ミサト「そういえばそうだった……はっ!!天才的ひらめき!!」


ハルナ「何よ急に……嫌な予感しかしないわね?」


ミサト「もっかいやろう!」


ハルナ「なんでそうなる!?」


ミサト「だってノーカウントなんでしょ?ってことは、何回してもノーカウントってことじゃない!?だったら何回もした方が良くない!?」


ハルナ「……理屈としてはそうだけど何かが決定的に間違っている感じが凄くする!!」


ミサト「ということで、もう一回しよっ♪」


ハルナ「いやでもそれは……その……」


ミサト「わかった、今度はチョコの方をハルナにあげる!」


ハルナ「そういう問題でも無いんだけど………まあ、まあその……ちょうど、チョコの方食べたい気持ちではあった……かな?」


ミサト「ふひひー」


ハルナ「何よその笑い方」


ミサト「嬉しいな、って思っただけだよっ」


ハルナ「くっ、あまりにも天真爛漫な笑顔。あんた嘘が無さすぎるのよ」


ミサト「そういうとこが好きでしょ?」


ハルナ「……好き」


ミサト「じゃあ、んーっ……」


ハルナ「……んっ……」


食べる音 両耳からポリポリカリカリ。

そして最後に、さっきよりも長く、はっきりとしたキスの音。


ミサト「――――……もう一回、しようよ」


ハルナ「……ダメよ、もう。お互いにチョコの方も食べたし、これでおしまい」


ミサト「でも私、もうちょっと食べたいから……そうだ、縦にしようよ」


ハルナ「縦……?」


ミサト「うん、ポッキーを縦にして、両側からチョコを食べるの。そうすれば二人ともチョコ食べられるでしょ?」


ハルナ「えっ?それはその……静かにして欲しい時に、しーって口元に指をあてる感じの縦?」


ミサト「その縦だね」


ハルナ「そんなのだって……すぐに……」


ミサト「すぐ、うっかりしちゃうね……んっ」


ハルナ「ちょっ、待って……にじり寄って来ないで……それはさすがに心の準備が……んっ……」


チョコの右耳に二人が何度もキスをする音が響く。


ミサト「んっ……んー……ふあっ」


ハルナ「はっ……んあっ……ふー……ふー……」


ミサト「うふふ、ハルナ鼻息荒いよ」


ハルナ「……うっさいバカ…」


何度も耳に届くキスの音。


ミサト「……キスって甘いね」


ハルナ「チョコの味でしょ……」


ミサト「もう、だいぶ溶けてるもんね」


ハルナ「……全部溶かそうよ、どうせなら……さ」


ミサト「……そういうの好きぃー」


さっきより激しいキスの音と、チョコを舐めとる音も少しだけ混じる。


ハルナ「……ふぁ……ふあー……綺麗になったね」


ミサト「プリッツみたいになった」


ハルナ「なんか……アレよね。凄い変なこと言うけど、謎の達成感あるわね」


ミサト「ある!」


ハルナ「やったったぞ!みたいなね」


ミサト「そう、そういうやつ」


ハルナ「……ぷっ……ふふ、ふふふ……あはははは!」


ミサト「ふひひひひひー。あははっ!」


ハルナ「あーあ、なんていうか……アタシたちらしいわね。キスってしたらもっとこう……色っぽい雰囲気になるかと思ったのに」


ミサト「私はちょっとエロい気持ちになったよ!でもそれ以上に嬉しいのと楽しい!」


ハルナ「ははっ、エロい気持ちにはなったんだ」


ミサト「ちょっとね!ハルナはどう?」


ハルナ「アタシは……ちょっとなった」


ミサト「いえーい!」


ハルナ「いえーい……ってなんでハイタッチよ。キスしてエロい気持ちになったらハイタッチするの意味不明過ぎない?」


ミサト「だってそれって、お互いに相手が好きって気持ちが確認できたってことじゃない? なので凄くめでたいのです!」


ハルナ「そうかな……好きだからエロくなるの?」


ミサト「はあっ!?この子好きでもない相手とのキスでもエロい気持ちになるんだ!!この……あれだ、あの……なんだっけ、漢字二文字のなんかエロイやつ!すけべ!」


ハルナ「漢字二文字の……? 淫乱とかそういうやつ?」


ミサト「そう、それ!なんかエロい作品のタイトルにはだいたいついてるやつ!」


ハルナ「だいたいは付いてないと思うわよ……」


ミサト「エロくないヤツよりは確率高いでしょ!」


ハルナ「それはそうだけど……って何の話よこれ!雰囲気もなにもあったもんじゃないわね!ファーストキスの直後に淫乱について話す二人の女子高生何!?いる!?そんなやつら!」


ミサト「ここに居る!それが私たち二人だ!」


ハルナ「例外過ぎるでしょアタシたち………で、どうだったの?」


ミサト「え?だからエロくて楽しくて……」


ハルナ「じゃなくて、ラブなのかライクなのか、判断出来た?」


ミサト「ああ、その話かぁ………うーーーん……わかんない!」


ハルナ「何のためにキスしたのよ……ってか、あそこまで積極的に迫って来たのにラブじゃないとすればそれはシンプル性欲なんだけど?」


ミサト「んーーーーー……それってなんか違う物なの?ラブとかライクはどっちも好きだし、エロい気持ちも好きだからなるんじゃない?全部まとめて好きじゃダメなの?」


ハルナ「ラブとライクはともかく、性欲は好きじゃくても湧くことあるんじゃない?」


ミサト「えっ、やっぱりいん……いんなんとかなの!?」


ハルナ「忘れるの早すぎるでしょ。アンタの辞書に淫乱の文字無いのか。いやまあ、なくても良いというか、あったらそれはそれでちょっと嫌だけど。っていうか誰が淫乱よ」


ミサト「だって……」


ハルナ「いやほら、一般論としてさ、男の人とかエッチな写真とか見て興奮してるけど、だからってその写真の女の子を好きかって言うと違うと思うのよね」


ミサト「男の人はそうだけど、女子もそうなのかなぁ?私は好きじゃない人相手にエッチな気持ちにはならないよ」


ハルナ「まあ……なられても困るみたいなとこはあるけど……どうなのかしらね。アタシもよくわかんないわよ」


ミサト「じゃあもう好きって事で良いじゃん!私はハルナが好き!ラブとかライクとかよく知らないけど好きは好き!それだけでいい!」


ハルナ「……わかった、わかったわよ。……そうね、それで良いわね。好きは好き、だもんね」


ミサト「そう!それで良いのです!それがあれば、オールオッケー!」


ハルナ「ふふっ、そうかもね。まあ……アタシたちがこれからどうなるかわかんないし、なーんか面倒なことになるかもしれないけど、そうなったらそうなった時に考えればいいわね。一番大事な「好き」だけ信じてればなんとかなるわよ、きっと」


ミサト「えー、面倒なこときらーい。なんか最近そういうの多い!もっとシンプルが良い!」


ハルナ「アンタらしいわねぇ……ちょっと、こっちきなさい」


ミサト「えっ、なんか怒られるんですか?私なんか怒られるんですか?」


ハルナ「いいから、ほら来て。ここ座って」


ミサト「ここって……そんな目の前に?殴る?殴る距離?」


ハルナ「……座らない方が殴るかもね」


ミサト「座ります。すぐに。それはもうすぐに」


ハルナ「よし。……そうね、いろいろ言いたいことはあるんだけど――――」


ミサト「ああっ、やっぱり怒られるのかな。何かわかんないけどとりあえず謝ろうかな。ごめんなさ―――んっ…」


遠くに聞こえるキスの音。


ミサト「……ふえっ?なに?なんで?急にその……どしたの?」


ハルナ「……アンタが言ったんでしょ。……ポッキーゲームのキスなんて、ファーストキスにならないって」


ミサト「う、うん。言ったけど……」


ハルナ「だから、その……したかったのよ……今日を、ちゃんと……ファーストキスの記念日に…」


ミサト「……ズルい」


ハルナ「えっ?」


ミサト「そんなのズルい!ハルナは良いかもしれないけど、私のファーストキスが不意打ちで奪われたみたいになった!」


ハルナ「いや、だって……もうポッキーゲームで何回もしたから良いじゃない心の準備とかは」


ミサト「よくない!今のは不意打ちだからノーカン!……私も、ちゃんと心の準備する。んで、ハルナ好きって気持ちでキスする。二人が好き同士で、やっとファーストキスだよ」


ハルナ「……そっか、わかった。じゃあ……もっかいファーストキスする?」


ミサト「する。何回でもする!」


ハルナ「ファーストキスは一回だけでしょ?」


ミサト「いいの!する!……ハルナ、好きだよ!」


ハルナ「……私も、ミサトのこと好きよ。だから……しましょう、何度目かのファーストキスを」


遠くから何度も聞こえるキスの音を聞きながら、その熱気に当てられてすっかりチョコが溶けてしまったポッキーなのでした。


                       おしまい。

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