第31話 アンデッドマーチ2
戻ってきて数分。
バリケードが完成し、スケルトンの群れを迎え撃つ準備が整った。
「解除するよ」
「ああ。構わない」
一応確認を取ってから魔法を解除すると、岩の棘が崩れ落ちて、奥からスケルトン達が雪崩込んできた。
「全員武器を構えろ!バリケード越しに近付いてきたスケルトン共をぶっ叩けばいい!!」
大男の言葉に、従って冒険者達が一斉に武器を構える。
そして、バリケードの目の前まで迫ってきたスケルトンに各々武器を振り下ろし、次々と倒していく。
「臆するなよ野郎共!!たかが骨の群れ、粉砕して墓穴に叩き返してやれ!!」
大男はバリケードを飛び出し、外で大量のスケルトンを粉砕している。
私も参加したいところだけど、もう少しだけ魔力を回復させてから参加しろと言われている。
それに、私は大男がある程度戦ったあと、体力回復のための時間に交代で戦うという役割を持っているからね。
今は様子見だ。
「…意外と順調」
私は、奮戦する冒険者達を見てそう呟く。
いくら大群とは言っても、所詮はスケルトンだ。
ちょっと殴ったくらいでは倒せないのは難点だけど、子供くらいの力しかないという、あまりにも大き過ぎる弱点を持っている。
だから、囲まれて攻撃されないようにだけ気を付けておけば、負けることは無いはずだけど……だとしても順調過ぎる。
「暗殺者も死霊使いも居ない…何をしてるんだろう?」
ゲイルさんの予想では、暗殺者や死霊使いが邪魔をしてくるはずなんだけど…今のところ、そんな気配は微塵もない。
……だとしたら何処に?
死霊使いはまだいい。
召喚した大量のスケルトンを操るのに精一杯で、身を隠しているのなら納得だ。
暗殺者は…そんな死霊使いの護衛をしているのかもしれないけれど…一人か二人居れば問題ないはず。
最低でも三人は居るはずなんだけど…一体何処に……っ!?
「まさか…?」
とある考えが頭をよぎった私は、急いで走り出す。
そして、バリケードから少し離れた、全体を見渡せる位置にいるゲイルさんの元へやって来た。
「どうしたアリーナ?何か不味いことでもあったか?」
「暗殺者の姿が見当たらない。もしかしたら、街の中で何かしようとしてるのかも」
真剣な表情でそう伝えるが、ゲイルさんは腕を組んでうなるばかり。
その態度が理解できず、私は苛立ちを覚えた。
しかし、その感情が誤りであることを知るのは、すぐのこと。
「確かにアリーナの言うことは一考に値するが…戦闘は始まったばかりだ。暗殺者はあちらの切り札なのだから、最初は温存しておくものだろう?」
「それは…」
「それに、相手の目的は分からないが、ここで仮に街で騒動を起こしたとして、何の意味がある?」
「意味…?」
私は、その『意味』というものが理解できず、その場で固まる。
するとゲイルさんは優しく教えてくれた。
「アリーナはまだ子供な上に、誰かに指示を出す立場になった経験がないだろうからから分からないかもしれないが…そういう立場になると、必ず『意味』を求められるのさ」
「…?」
「例えば冒険者を雇うとき。当然お金を支払って雇っているのだから、何もさせないわけにはいかない。人を使うということはそれだけでコストが掛かるんだ。そのコストに見合うだけの働き…すなわち、『意味』を求められるということだな」
「なるほど…」
つまり…相手が暗殺者を使わずに温存しているのは、『意味』が無い。
すなわち、暗殺者という切り札を使うような状況じゃない。そうなっていないという事か。
…それはつまり、今の状態は相手にとって想定内。
私達は相手の掌の上で踊っている状態かもしれないって事だ。
「この街を滅ぼす気なら、確かに狙ってくるかもしれないが…にしては音沙汰なさすぎる。それに、スケルトン討伐も順調。このままだと、ただ撤退する前に嫌がらせをしてきた、と考えざるを得ないんだが…」
「本当にそうだったり?」
「それはないだろうな。わざわざ術者にも危険が及ぶ可能性のある呪いの品を奪い、もう一つの切り札である宝玉の力まで使っているんだ。何か目理由がないと、嫌がらせにしては大掛かりすぎるし、何より意味がない」
…確かに。
相当なリスクを冒してまで何かをしてきたのに、それを放り捨てて嫌がらせだけして帰るなんて考えられない。
何か、目的を達成できるだけの理由があるからこそ、こんなことをしてるんだろうけど…その目的と理由が分からない。
「まあともかく、街の中の事は街の中に任せよう。俺たちはここを離れる訳にはいかないのだからな」
「まあ、そうだね」
「ところでアリーナ。お前、神聖魔法を攻撃利用できるか?」
「多分…できなくはないよ」
お母さん曰く、神聖魔法にも攻撃魔法があり、アンデッドや悪魔によく効くらしい。
でも、私は攻撃魔法は使えない。
理由は単純で、それを教えてくれる人間がいないって事と、独学で習得するにはあまりにも難易度が高い事だ。
…でも、攻撃利用なら話は別。
「武器に《浄化》を掛ければ何とかなるよ」
「なら、それを使おう。悪いが前線に行ってもらうことになるが…いいか?」
そう言って、ゲイルさんは私に作戦を伝え、前線へと送り出す。
走ってバリケードまで戻ってきた私は、スケルトン撃破に手間取っている冒険者を探し、そこまで走るとその人物の武器に《浄化》を付与する。
「これで倒しやすくなったはず。がんばって」
「お、おう…」
《浄化》は本来攻撃用の魔法ではないとはいえ…武器に付与すればアンデット相手に効果を発揮してくれる。
腐っても神聖魔法というわけだ。
それをスケルトンをなかなか倒せない冒険者…つまるところ、火力不足の弱い冒険者に付与することで、全体の攻撃能力を上げようというゲイルさんの作戦。
なかなか悪くないと思う。
こういうことが、人を使う上での意味。
無駄のない、コストに対して十分な結果を得るための作戦。
正しい人の使い方なんだろう。
天才少女アリーナは、また一つ賢くなり、英雄への道を一歩前進したように思える。
「…でも、この神聖魔法の付与。魔力がじわじわ削られるから、長くは使えないんだよね」
この問題は既にゲイルさんに話している。
私が戦闘に参加しないのは魔力を温存するためなのに、こんなに使ってしまっていいのかと聞いたけど、ゲイルさんの答えは『いいんだ』だった。
私にはここで魔力を使ってしまう事の意味が理解できないけれど…ゲイルさんの事だし、何か理由があっての事。
それが何なのかは、分からないけどね。
私はゲイルさんが魔力を使ってもいいといった理由を考えながら、多くの苦戦している冒険者の武器に魔法を付与して回った。
最強の女傑の異世界旅 カイン・フォーター @kurooaa
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。最強の女傑の異世界旅の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます