第30話 アンデッドマーチ1

日が落ち、真っ暗になった街に、なんだも鐘が鳴り響く。

魔物の襲撃を告げる、警鐘だ。


「バリケードの構築を急げ!時間は残されていないぞ!!」

「魔法が使えるものは、後方から援護しろ!奴らの数は多い!お前らの火力にすべてが掛かっている!!」


市壁の付近では、この街を守る兵の責任者やギルドの偉い人が、焦燥を感じる声で命令を飛ばしている。


既に肉眼で見える距離まで、アンデッドの軍勢は近付いて来ているのだ。

その焦りは、よく分かる。


「よう、またあったな」

「そうだね。あなたの戦いは、見てて面白かったよ」

「へっ!これでも、この街で最強の冒険者だからな。だが、お前のも中々だったぞ?まだ子供のくせにやるじゃねぇか」

「私は、天才だからね」


ゴブリンの巣討伐作戦以来の、大男との再開。

いつ見てもこの大男はデカいし、特に威圧しているわけでもないのに、圧が凄い。


この巨漢なら、きっと沢山のアンデッドを屠ってくれるだろう。

頼もしい限りだね。


「さて、今回の敵はアンデッドの大群って訳だが…どのくらい居るんだ?」

「ゲールさんから聞いた話だと、少なくとも千はいるらしい。種類はほぼ全てスケルトン。簡単に蹴散らせる相手だ」

「なるほどな。問題は、その数だな…勝てるか?」


大男は、確認取るように、私の顔を覗き込む。

私はそれを笑って返し、強気な発言をしてみせる。


「勝算がなきゃ、こんな所に来てないよ。私は、勝てる戦にしか参加しないから」

「ほう?そりゃあ、心強いな!」


大男は豪快に笑い、周囲の人間を驚かせる。

そこへ、ギルドの偉い人が走ってくる。


「悪いが前線に出てくれ。あと少しで、奴等が到着する」

「ほう?もうそんなに来てるのか」

「…バリケードの方は?」

「まだだ。だから、君達には足止めをしてもらいたい」


バリケードが完成するまでの足止め…

普通なら、『死んできてくれ』って言ってるようなものだけど…私達は、そういう事にはならない。


「任せとけ!オレとコイツで、千のアンデッドを蹴散らしてやる!」

「所詮雑魚の集まり。バリケードが完成するまでの時間を稼ぐなんて、容易なことよ」


私達は余裕を見せつけ、偉い人を置いて街の外へ出る。


見ると、本当にすぐそこまでアンデッドの群れは近付いてきていて、それを迎撃すべく、既に冒険者と兵士が待機していた。

その後ろには、作りかけのバリケードがあり、あれが完成するまでの時間稼ぎを任されているんだろう。


私達と同じ、足止めのための人達だ。


「おうおう、ありゃ本当に千のアンデッドか?」

「もっといそうね。これは骨が折れそうだ」

「スケルトンだけに、か?普段なら笑えるんだが…今だけは、冗談キツイぜ!」


そんな事を言いながら、大男は一番前に出て自慢の大剣を構える。


私も空間収納から槍を取り出し、全身に魔力をまとって最前線に出た。


「行くぞ?簡単にやられるなよ!」

「それは、こっちのセリフ!」


私達は、全力で地を蹴り、アンデッドの軍勢と肉薄する。

そして、助走のスピードを乗せた初撃を、密集している箇所めがけて放った。


「はあっ!!」

「オラァ!!」


その一撃で、一気に十数体のスケルトンが粉砕され、その偽りの生命を散らす。

しかし、それでもたった十数体だ。

次のスケルトンを倒さなければ、私達は飲み込まれてしまう。


「オラオラオラァ!!何千体でもかかってきやがれ!骨坊主共が!!!」

「雑魚が群れても、竜は殺せない!」


そうならないよう、私達は怒涛の連撃を叩きつけ、次々と迫りくるスケルトンを粉砕する。

ゴウゴウと、大男の振るう大剣が音を鳴らし、その度に数体のスケルトンが砕け散る。


大男が一回大剣を振る間に、私は3回槍を振って、少ないながらも連続してスケルトンを粉砕していく。

更に、槍だけで倒すのではなく―――


「まとめて吹き飛べ―――『岩石棘ロックニードル』!!」


扇状の『岩石棘ロックニードル』で、一気に数十体を粉砕する。

魔力は、ある程度計画的に使わなければならないが、バリケードが完成すれば、いくらか持久戦が出来るようになる。

そうなれば、出来るだけ魔力消費を抑え、魔力の回復を待つ事ができる。


その為に、今は数回までなら派手に魔法を使って良いはずだ。


「魔法は便利だな!羨ましいぜ!!」

「私のなんて、まだまだよ。お母さんや先生なら、今ので100は倒せてる」

「そりゃあすげーや!是非あってみたいものだな!!」


ダンスでも踊っているかのように、何度も回転し、前に進み続ける大男。

コイツの進んだあとには、沢山の骨が散らばっていて、とても足場は悪そうだ。


しかし、それなら骨を踏み砕いて、平らにしてしまえば良い。

私や大男は、散らばった骨を踏んで砕き、どんどん前へ前へと進んでいく。


ものの数分で、100を有に超える数のスケルトンを粉砕し、そこら中に骨が散らばっていて邪魔だ。


「『岩石棘ロックニードル』!!」

「へぇ!?それ、縦にも撃てるんだな!」

「まあね!」



岩石棘ロックニードル』を縦一直線に飛ばし、直線上の全てのスケルトンを粉砕する。

まだまだ数の多い今なら、より遠くまで狙える、縦撃ちのほうが沢山倒せるかも知れない。


一撃で、五十はいるスケルトンを打ち砕き、扇状よりも一直線に飛ばしたほうが良いと考える。


「あと何回撃てそうだ?その数次第で、いつ撤退するか決める!!」

「後のことも考えると、2回だけ」

「2回か…なら、もう少し密度が上がったら、もう一回縦に撃て!そして、そこから本気でコイツラを潰しに行ったあと…横に撃って一旦退くぞ!」

「分かった!」


もうすぐでバリケードが完成するはずだ。

それまで耐えればこちらのもの。


私は大男の作戦に従い、スケルトンが集まるのを待ち、物理で粉砕し続ける。

そして、一気に殲滅するのに丁度いいくらいに固まったのを確認すると―――


「『岩石棘ロックニードル』!!」


縦に魔法を撃ち、先程よりも多くのスケルトンを倒した。


「よし!行くぞお前ら!!押せ押せぇぇぇえええ!!!」

『うおぉぉぉぉぉおおおおお!!!!』


一緒になって、最前線で戦い続けた仲間を鼓舞し、共に突撃する大男と冒険者達。

私も一緒に突撃し、勢いでスケルトンの群れを蹴散らしていく。


雄叫びを上げ、前に進み続ける。

何メートルか前線を押し上げることに成功し、その後ろには大量の骨の絨毯が出来た頃―――


「アリーナ!!最大出力で、コイツラを吹っ飛ばせ!!!」


大男が、わたしの名前を呼びながら指示を出す。


少し下がって魔法の準備を始めると、大男が前に立ち塞がって、守ってくれた。

スケルトンの警戒をしなくて良くなった私は、集中力を全て魔法の構築に注ぎ込み、全力の『岩石棘ロックニードル』を準備する。


十数秒で構築が終わると、私は大男に一言声をかける。


「どいて」


その一言で、全てを理解した大男は、私の前から離れると、声を荒げる。


「お前ら下がれ!!巻き込まれるなよ!!!」


その声に、つい今まで押せ押せだった皆が、すぐに後ろに下がった。

その事を確認した私は、槍に魂を込め、全力で振るう。


「吹っ飛べ!!―――『岩石棘ロックニードル』!!!」


扇状の『岩石棘ロックニードル』が、縦撃ちと同じくらいまで広がり、百以上のスケルトンが粉砕されていく。


その様子を一瞥し、私達は敵に背を向けて走る。


既にバリケードはほぼ完成しきっていて、今からでも十分使えそうだ。

バリケードの内側に逃げ込むと、少し奥まで下がって、少し休む。


すると、大男がその場に残り続ける『岩石棘ロックニードル』を見ながら、話しかけてきた。


「…やっぱり、あの岩を維持できるんだな?」

「……よくわかったね。それを見越して、あの指示を言ったの?」

「まあな。俺達冒険者には、咄嗟の判断力ってのが求められる。あの岩を撃った後、崩れ落ちるまで少し時間があるのを見て、いけるんじゃないかって思ったんだよ」


……パワータイプな見た目をしておきながら、中々に頭が回るようだ。

周囲がしっかり見えているし、場の掌握能力もある。

黄級冒険者は伊達じゃないってるわけだ。


その事に感心し、息を整えながら岩の維持に集中する。

あの岩は、しばらくは優秀なバリケードとして機能するだろう。

でも私が維持を止めたら、すぐに崩れてしまう。


こっちのバリケード完成まで、なんとか維持して見せる。

そう決意し、私は休憩を取りながら、岩の維持に精神を注いだ。

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