EP.3 世界の入り口Ⅱ
暗がりの中、音だけを頼りに歩く。ただひたすら前に。
単独行動は危険なんてことはわかってる。でも私は知りたい。その先になにがあるのか。
東京都の中心部。深夜1時にもかかわらず車も人もなにも通ってない。
3年前から首都圏を中心に取り組みが始まった、大型定期停電計画。午前0時から深夜4時までの間は、照明などの電気類を一切使わないように取り組まなければならない義務がある。
なぜこんなことになったのか。それは、大幅な電気消費による電気の供給不足があったからだ。
ここ数年間で電気の消費が異常な数値を叩き出していた。それも原因不明。政府はこれを受けて、定期的な大型停電を策として発表。そしてそれはすぐに行われることになった。当然国民からは不満が絶えなかったが、将来の電気供給のため引き下がることはできなかった。
そんな理由にプラスして、NAZYの発表から1ヵ月もしないうちに深夜帯の謎の死亡事故が多くなり、出歩く人間も減ってからまるで廃都市のような状況になったのだ。
しかしこれを好機とみたNAZYが、調査や現場検証のタイミングをなるべく極秘で行える深夜帯に設定した。おかげでいくらか調査はしやすくなったかもしれないが、調査員やFDにかかる負担は大きくなった。
そして今私は、そんな暗がりの中を一人歩いている。
柏木レナ。それが私の名前だ。
「たしかここだったんだけど……」
エリア1からそれほど遠くない場所に、あるものを見つけた私は、佐倉に「一旦離れる」とだけ言い残して目的の場所までやってきた。しかし、
「ない……この場所で間違いないはずなのに」
調査対象である【ゲート】が見当たらない。ちなみに今回の調査対象は現場検証とは違って危険と隣り合わせだ。なにせ世界各地で相次いでいる謎の遺体にかかわる調査だからだ。そのゲートを見た者、触れようとした者は翌日には不自然な死体となって発見されているのだ。
もしかしたら自分がそうなるかもしれない。そんなことを考えながら調査を行う。
不覚にも気のせいだったか、と肩を落としながらも、佐倉と合流しようと来た道を引き返そうとしたその時だった。
バリバリ、という何かが破れるような不快な音が耳に刺さる。それは後方から聞こえた。
振り返ると、それはあった。
「……っ!?」
私は声にならない声を必死に抑えた。だめだ。落ち着け。
次第に大きくなっていくその不快な音とともに、その空間に浮かぶ亀裂も大きくなっていく。
まずい。そう思って駆け出した時。
「きゃっ」
足元を掴まれる感覚とともに、顔を強く地面に打ち付けられる。激痛が顔を襲う。
血で赤く染まる視界でわずかに見える足元には、黒い物体があった。
「う、うぅ」
声にならない声が口から洩れる。もう終わりだ。ここで死んでしまうんだ。
直感的にそう思った。
そして私は意識はそこで完全に切れた。
体感的には数分だったろうか。いや、数秒。
私は目を覚ました。しかし何かがおかしい。身体を起こして、顔を触る。血で染まっていたはずの頬はなんともない。足首から噛み千切られたような感覚がした右足首も、特に異常はなかった。
しかし一つだけおかしなことがある。場所が移動していた。見たことのある建物があるため、調査を行っていた東京都の中心部であることは間違いないが、おそらくそこから離れた場所だろうと予測する。
頭が追い付かない。一体なにが起きたのか。
我にかえった私は、本部に連絡しようとスマホを取り出そうとするがポケットに入れていたはずのスマホがない。
「さっきの場所に……」
落とした。私は先ほどの場所まで戻ろうと再度歩き出した。
*
「おそらく、調査対象の【ゲート】で間違いありません」
本部に戻った佐倉は、司令席に座る日南をまっすぐ見て言った。
「やはりそうだったみたいね。……にしても、無事でよかったわ」
そう言って日南は、司令部に運ばれたストレッチャーで横になっている木神と柏木に目を向ける。
その視線に誘われるように、佐倉も二人を見つめる。
「ええ。救護班がもう少し遅れていれば、危なかったかもしれません」
「そうね。とにかく無事でなによりよ」
そして日南は眉間にしわを寄せて苦しそうな表情を浮かべる。
「……覚醒は、できなかったみたいね」
「残念ですが、木神が意識を失ったあとも特変なく経過しています」
「そう」
しかし日南はイマイチ納得できなかった。たしかにこの目で目の当たりにした木神の力は本物だった。その彼女が、あの【ゲート】を目の当たりにして何もできなかったとは、到底思えない。
「……佐倉くん。調査報告書についてだけど、木神さんのことについては触れずに【ゲート】を見つけたことと、柏木の件についてのみ報告してほしい」
「え、それって」
日南の発言に佐倉は戸惑いの表情を浮かべる。
「もちろん事実の
「しかし、万が一隠蔽が発覚すれば日南さんもタダでは済まなくなります」
「わかってるわ。でも、彼女をNAZYに推薦したのは私なの。このまま黙って引き下がるわけにはいかない」
佐倉はしばらく目を瞑った後に、再び目を開けて日南をまっすぐ見る。
「……わかりました。ただ、それなりの覚悟はしておいてください。とりあえず
報告は上手くやってみせます」
「ありがとう、佐倉くん」
そして12月15日の調査から一週間後。
日南のもとに一本の電話が鳴る。電話を終えた日南はただ茫然とするしかなかった。
電話の内容は、木神礼霞の身柄をNAZY日本支部へ引き渡せ。というものだった。
Gate in Girl. 才木 蒼 @miz81
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