残影山吹 7

 山吹が満開を迎えた頃、ヤマブキは死んだ。

 空が燃える夕方に敵機と遭った。


 冬に呉越同舟というものを体験した相手がそこにいた。

 重そうな機体を軽々操縦する。

 無線に飛び込む声。


『久しぶり。そしてさようなら』


 コバルトが一方的に言い切り、機銃を撃つ。

 回避。


『フート、援護よろしく』


 1拍間があって、真後ろに別の敵機。

 コバルトは上にいて、速度をあげる。

 フートと呼ばれた戦闘機はぴったりとヤマブキについたまま機銃を撃たない。

 不思議に思ってミラーを確認するも、機体の華は見えない。

 コバルトが放つ機銃の弾が翼端を掠めた。

 速度を上げる。

 コバルトがじりじりと距離をつめる。


 機首を左右に振る、ロール。

 フートはただ後ろにいて、ただ追ってくる。

 まるで燃料を使い果たすのを待っているようだ。

 燃料の残量はあれど、遊んでいる余裕はない。


『鬼事は終わりにしようか。フィクション、やれ』


 男の声がした。

 肚が冷える。


 ヤマブキはスロットルを押し込んで出力を上げるも、上がらない。

 速度が上がらない。

 焦ってがむしゃらに押し込んでも。


 衝撃。

 翼に穴。

 火が見える。


『じゃあ、また会おうね』


 上空へ上がる2機、コバルトセージが描かれた機体。

 それとあれは―――クレマチス。


 脱出装置で射出され、落下傘を開いて空を舞う。

 海面へ真っ逆さまの機体。

 ぐしゃっと海面で潰れた。


 ああ、私の機体が。


 眺めていると、身体に衝撃。

 身体を貫く銃弾。

 視界にはコバルトセージの機体。


 嫌にゆっくりな世界、血飛沫とコバルトの顔が見えた。

 僅かに微笑んだ顔、あの夜の顔。



 夕焼けを乱反射する海面へ突っ込むまで、そう時間はかからない。


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散華 ダイ・イン・スカイ 葉茎 蕚 @hakuki0705

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