全知全能ステータス・オープン!

渡貫とゐち

閲覧時注意

 先天的なものだが、俺には他の人にはない特殊な能力があった……それが『ステータス・オープン』だ。

 自分のことはもちろん、他人や建造物、道具も対象になる。当然、凶暴な魔獣のステータスも見ることができる。


 ステータスとは相手の手の内である。

 魔獣なら攻撃力や防御力、物理耐性に魔法耐性を、数値として知ることができる。弱点の部位を知ることもできるし、苦手としている属性も事前に知ることができる――どんな魔獣を相手にしても、俺は優位に戦いを始めることができるのだ。


 相手の手の内が全て見えている……人間も同じく。

 対象にした人物のステータスを見れば、個人情報が筒抜けだ。スリーサイズ、出身地、住所などなど……まあ、このあたりは重視しないが、前日の行動やこれからの行動を知ることができるのが良い。

 裏でどの組織と繋がっているのか、それぞれの思惑や目的も事前に知ることができる。ステータス、様様だな。


 戦うにせよ恋愛するにせよ、あらゆる場面で優位に立ち回ることができる。

 生まれた時からこの能力を持っていた俺は、大きな失敗をすることがなかった。まだ理解し切れていなかった小さい頃は、知り過ぎていることを周りから気味悪がられたりもしたが、そのあたりの塩梅は、成長するにつれて覚えてきていた……全てを見て知っているからと言って、それを明け透けに喋る必要はないわけだ。


 好きな子がいま欲しがっているものをプレゼントして好感度を稼ぐ。気に喰わない相手の知られたくないことを知り、それをネタにして脅し、手駒にするなど、やりたい放題やってきた。

 ――悪いことか? いいや、そんなわけがない。

 これは先天的な俺の特殊な能力であり、才能だ。前世で徳を積んだ俺が、来世である今、幸せな生活ができるようにと神様が与えてくれただけのことだ。

 せっかくのアドバンテージを、使わない理由があるか? ここまでしてくれて使わないのは、神様に申し訳ない。与えてくれたのであれば、使い倒すくらいに使ってしまおう――。



「このへんのはずだけどな……もしかして地下だったりするのか……?」


 地下ダンジョンを進み、俺はダンジョンのステータスを開く。

 ダンジョンの奥に多くの宝が埋まっているらしいことが、ステータスによって分かったのだ。敵もいるが、まあ避けていけば危険も少ない。必ずしも戦う必要はないわけだ。

 敵を殲滅しなければ、宝がある部屋の扉が開かない仕様なら、それを事前に知ることができるから――装備が心許なければ戻ればいいだけだし……、いけるなら戦ってもいい。

 弱点だけを的確に突けば、最小の手数と威力で倒すことができる。

 さすがに巨大なドラゴンが出てきたら逃げるけどな……。


「やっぱり、まだ地下か……地図の左右の広がりは見やすいけど、上下となると見にくいんだよな……デフォルト表示を3Dマップにしておくか」


 これはこれで見づらいが……やっぱり平面に慣れていると立体の地図は見にくい。

 それでも、今に限ればこっちの方が見やすいし、道を間違えるタイムロスもなくなる……可能な限り、ステータス画面を開く時間は短縮したいのだ。


 町中ならまだしも、ダンジョン内となると、一瞬で五感が別のところへ引っ張られるのは避けたいところだ――


「あがッ!?」


 ステータス画面を閉じた瞬間、斜め上からぶん殴られた衝撃があった。


 踏ん張るが、耐え切れず、俺の体が地面を転がる。

 足下にあった尖った石が、転がる俺の体に突き刺さった。


「痛ッ、クソ、誰が――」


 周囲を見る。暗闇の向こうから、こちらを覗く多くの目。

 裸足で歩いてくる足音。さきほどまで俺が立っていた場所に置いてあった赤いランプが、襲撃者を照らした――太い棍棒を持つ、ゴブリンだ。


 小柄だが、数が多い。

 そしてその小柄に合わず、腕力は人間の大人よりもあるのだ。

 殴られた頭部の痛みが引かない……、脳震盪まではいかないが、体の芯が揺れている感覚だ……ダメージが蓄積している。


 まずい……っ!

 ステータスを見ても、今だけは優位性が働かない!


「ギヒ」


 飛びかかってくるゴブリンたち。

 俺はふらふらとした足取りながらも、ステータス画面で見て覚えていた地図を頼りに、ある場所へ向かう。


 その先は崖だ。明かりがないダンジョン内では、底のない大穴にしか見えないが、しかしその先は水溜まりである。


 事前にステータス画面で知っていなければ、飛び降りようとは思わなかっただろう。

 背後からゴブリン。奴らはこの先が崖だと知っているため、速度が落ちている……、自殺するように見えている俺を、追いかけてはこないようだ。


「あばよ、ゴブリンども――準備を整えて後で潰しにいってやる」


 そして、俺は崖から飛び降りた。



 冷水に全身が浸かり、頭どころか全身が冷えた俺は水溜まり――泉か? から出て、呟く。


「……ステータス・オープン」


 さて、ここはどこだ?

 出口までの最短距離と……あとあいつら、ゴブリンの巣はどこ、に――がばっ!?


 文字が化ける。

 崩れていく。


 五感が全て、ステータス画面に持っていかれているため、外側の様子がまったく分からないのが、この能力の欠点だった。


 つまり、


 ステータス画面を見ている時の俺は無防備であり、たとえ敵が迫っていても俺は気付けない――地図を見ていれば、敵の接近が分かったかもしれないが、接近せず攻撃だけがきていれば、気付いていても回避することは難しいだろう。


 だから直撃を受けた。


 矢が――俺の胸を貫いた。


「――がふ、」


 ゴブリン、か……?

 遠くから、矢を放って……俺を、射抜いたのかよ……?


「クソ、が……ッ」


 その矢には毒が塗ってあった。

 俺を示すステータス画面には、毒の表示である。


 そして、数分後に俺は【死亡する】という未来まで表示されている――



 ゴブリンに、殺されるなんて……。

 膝立ちすらできなくなり、全身の力がなくなって、俺は地面に倒れる……。


 ステータスオープン、とすら言えなくなった。

 聞こえる足音。

 裸足のそれは、ゴブリンものだ――



「ギヒッ」



 最後に見えたのは。

 棍棒を振りかぶり、卑しく笑うゴブリンである。



 ―― 完 ――

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