第33話 中庭の桜を見上げて

 先輩と話したあの日から一ヶ月が過ぎた。

 

 あれから先輩が家庭科準備室に現れることはなかった。俺は変わらず放課後は家庭科準備室で一人、ミステリを読みふけっている。

 変わったことといえば、時々、自分のためにココアを淹れるくらい。次に先輩に会った時に腕が落ちたと言われたら困るからね。


 今日は卒業式。

 俺たち高等部二年生は、在校生として卒業式に出席した。式の途中、俺は目を凝らして先輩を探したけど、やっぱり見つけることはできなかった。


 卒業式が終わり、旧校舎の中庭。満開の桜を俺は一人で見上げていた。と、二階の教室の窓が開く。


「おい! 近藤、早く戻ってこい!」


 見慣れた銀縁メガネ、緑川みどりかわジュンジが窓から俺を呼ぶ。


「折角みつけた依頼人なんだからね! 早くしてよ!」

「おい! やめろ! 落ちるだろ!」

 

 ジュンジの後ろから、紫村しむらヒサヨシが身を乗り出す。危ない、と、ジュンジが本気で怒っている。って、そうじゃくて。


「依頼人? どういうこと?」

「どういうこと? じゃないよ! 家庭科準備室の名探偵、引き継いだんでしょ! ほら、出番だよ!」


 早く早く、と、ヒサヨシが二階から手招きする。


「おい! 本当に落ちる! 近藤! 早く戻れ!」

「あっ! ジュンジ! メガネ!」


 ヒサヨシに押されたジュンジの顔からメガネがずり落ちる。

 落ちる! そう思った瞬間。


「ヒサヨシ、いい加減にしろ!」


 日焼けした長い腕がジュンジのメガネを後ろから抑える。


「サトシ!」

「近藤、早く戻れよ。みんな、お前を待っているんだ」


 そう言って、サトシはジュンジからヒサヨシを引き剥がす。ジュンジがヒサヨシに何か小言をいっている。

 そんな三人を見上げて、俺は大きく息を吸い込む。そして。


「わかった! 今、行く!」


 俺は大きく返事をして歩きだした。

 見上げた空には、桜と煉瓦造りの旧校舎ごしに、うっすらと虹が見えていた。


 *****

 最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

 読んでくれた方がいたから、最後まで書くことができました。

 拙い部分もあったかと思いますが、少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです!


 


 


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妄想探偵。二人ぼっちの放課後に、お茶と推理と時々恋愛 蜜蜂 @beecia

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