第77話 終結

 地面に転がる玉を見て、呆然とする美空。

 勝った、と思う。勝ったのか? 勝っただろう。

 触腕の悪魔テンタクルが強すぎて、本当にこれで終わったのか判断できない。

 ムーランも同じらしく、油断のない目で玉を見つめる。



「か、勝ったのでしょうか……?」

「わ、わかんない、けど……」



 と、その時。後ろから拍手とともに、鬼さんが近付いてきた。



「おめでとうございます、お2人とも」

「え……」

「じゃ、じゃあ……!」



 にこやかに微笑み、頷く鬼さん。

 彼の表情を見て、ようやく実感できた。

 勝った、と。


 だがしかし、勝利の余韻よりも、今は疲れと脱力による虚無感の方が強い。

 へなへなと地面に座り込む2人。すると、岩さんの防御魔法が解かれ、まだ中に残っていた相当数の攻略者が、2人に向かって駆け出した。



「すげえ! すげえすげえすげえ!」

「あの悪魔を倒しやがった!」

「ありがとう! 本当にありがとう!」

「2人は英雄よ!」

「お、おで、もう生ぎでがえれないがどぉ……!」

「みみみちゃんとムーランちゃん、ばんざーい!!」



 残っていた攻略者たちが2人を囲み、賛辞を贈る。

 呆然とそれを見ていると、岩さんと鬼さんが攻略者たちを落ち着かせ、出口へと誘導していく。

 それでも興奮冷めやまない攻略者は、モチャがゲンコツをくらわせて気絶させ、無理やり出口に向けて放り投げた。



「……どうやら、終わったようですわね」

「みたいですね。……ふあぁ~……」



 さすがに力が入らず、地面に大の字に寝転ぶ。

 こうしていると、ようやく達成感や充実感が追い付いてきた。

 今まで下層のボスとされていた、触腕の悪魔テンタクルを倒せた。

 もちろん1人の力ではなく、ムーランや岩さんの力があったから成し遂げられた。1人だったら、こんなこと天地がひっくり返ってもできないだろう。



「やり切りましたわね……」

「ですね。なんだか燃え尽きた感じです」

「何をおっしゃいますやら。まだまだ、これからではありませんか」



 ムーランの言葉に、乾いた笑みしか浮かべられなかった。

 真の下層ボス。そしてその先の、最下層。

 いずれは……最下層ボス。



(いやいやいや。まだそんな先のことまで考えることないって)



 それより、今は少し休みたい。

 全身から力を抜いていると、レビウスが近付いてきた。



「あ、レビウスさん」

「15点」

「……はい?」

「動き出しが鈍い。体の操作が雑。無駄な魔力の使いすぎ」



 そこまで言わなくても……と思ったが、心当たりがありすぎて何も言い返せない。

 ムーランも呆れているのか、ジト目でレビウスを見上げた。



「だが……最後までやり切ったことは評価しよう。……及第点だ。ご苦労、よくやった」



 持っていた触腕の悪魔テンタクルの球体を美空の傍に置くと、レビウスは空気に溶け込むようにして、この場から消えていった。



「何あれ、ツンデレ?」

【ちゅんでれ?】

「殿方のツンデレ、いいですわね」



 ムーランには刺さったみたいだが、個人的には良さがわからない。もっと素直になればいいのに、と思う。

 呆れてため息をつくと、ムーランが「ところで」と口を開いた。



「この後どうします? 早速、中層ボスでも倒しに行きますか?」

「あはは……元気ですね、ムーランさん」

「アドレナリン出まくってて、スイッチ入りっぱなしですわ。今すぐにでも闘いたい気分です」



 さすが鬼さんの血筋というべきか。ぶっちゃけちょっと引いた。



「さすがに今日はやめておきましょう。これ以上、今日は過剰ですよ」

「……ま、そうですわね。急いでも仕方ないですわよね」



 と言いつつ、おもちゃを取り上げられた子供みたいにムスッとしている。戦闘狂というか、戦闘愛好家みたいだ。

 ぼーっと天井を見上げていると、遠くからふらふらと何かが飛んでくるのが見えた。

 あれは、美空のドローンカメラだ。あの戦闘の余波でも、壊されずに堪えてくれていたらしい。



(あ、そっか。配信忘れてた)



 あんな状況だったのだ。配信を意識するなという方が無理だろう。

 寝転がったまま配信画面を開く。すると……。


『視聴人数:5,056,987』


 とんでもない視聴人数に、喉の奥から空気が漏れ出るような音がなった。



「え、ちょ、えっ……!?」



 慌てて起き上がり、コメント欄に目を通す。



『【投げ銭:50000円】おめでとう!!!!』

『【投げ銭:50000円】伝説すぎる!!』

『【投げ銭:50000円】あの悪魔を倒すとかやべえええええええ』

『【投げ銭:50000円】マジでとんでもない!!』

『【投げ銭:50000円】最強! 最強! 最強!』

『【投げ銭:50000円】クレカ5枚目突破』

『【投げ銭:50000円】おめでとう!!』

『【投げ銭:50000円】2人ともかっこよかったぞー!!』

『【投げ銭:50000円】最高すぎた』

『【投げ銭:50000円】質問です。ムーランさんと鬼さんが親子というのは本当ですか?』

『【投げ銭:50000円】えぐかった、本当にえぐかった……!』



 今までにないほどの投げ銭の数に、目が点になる。

 確かに、攻略者が強敵に勝てば投げ銭をするというのは、一種のDTuber文化になっている。DTuberオタクの美空も、その文化はわかっているつもりだ。

 だが、こんな額の投げ銭は見たことがない。嬉しいというより、顔が引きつってしまう。


 それにいくつか、鬼さんとムーランがどういう関係なのかという質問もある。

 まさか聞かれているとは思っていなかった。無理に隠すのも、変に思われるだろう。

 いつか質問雑談みたいなことしなきゃな……と思いつつ、美空はどう配信を締めようか脳をフル回転させるのだった。


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ダンジョン警備員 〜ダンジョンの治安を守ってただけなのに、いつの間にか配信されて伝説になってました。〜 赤金武蔵 @Akagane_Musashi

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