第76話 炸裂

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッッ!!!!」



 触腕の悪魔テンタクルも死を予感しているのか、2人を近付けさせないよう触手や極太の腕を暴れさせた。

 この場から逃れようとしているが、鋼鉄の楔がそれを許さない。

 少なくなった触手と、ダメージによるパワーダウンのおかげで、攻撃の軌道が読める。たまにくる魔法攻撃も、さっきまでの怖さがない。


 それに……今の自分たちには、自信が満ち溢れている。

 もちろん、自分たちの力だけとは微塵も考えていない。

 後ろにいる最強の大人たちがいるから、安心して攻められる。これが、自信に繋がっている。

 自分が強いという自信ではなく、勝てるという自信が。



「シッ──!」



 迫る触手に向かい、レーヴァテインを振るう。

 だが、自信がそのまま力になるなんて、アニメや漫画のような世界ではない。途端に力が覚醒するなんて、都合のいいことはない。

 触手と激突し、互いに弾かれる。



「妖姫流──波浸掌・極み!!」



 合わせるように、ムーランが触手に向かい掌底を繰り出す。

 掌底から力の波が伝わり、触手を伝って触腕の悪魔テンタクル本体の内側を攻撃した。



「■■■■■■■■■■ッ!?」



 思わぬ攻撃に吐血する触腕の悪魔テンタクル

 今のはわかっていても避けられない、必中の攻撃だ。

 と、その時。岩さんから放たれた鋼の巨鎗が奴の右腕を穿ち、壁に貼り付けた。

 ここに来てこの威力。回復薬を飲んだに違いない。

 ということは、ここが攻め時……!



「ムーランさん!」

「はい!」



 ムーランも察したのか、懐にしまっていた回復薬を一気に呷る。

 枯渇気味だった体力、魔力、気力が、体の内側から漲ってくる感覚がある。



(行くよ、ひまちゃん……!)

【うい!】



 向日葵の援護のおかげで、内に秘めている魔力が燃え盛る太陽の力に変換される。

 傍から見ると、まるで黄金に輝く巨星のように見えるだろう。

 ムーランも全身から迸る魔力を制御している。巨大すぎる魔力を体の内側に留めることで、空間が歪むほどの圧力を彼女から感じた。


 ムーランと目配せし、同時に触腕の悪魔テンタクルへ駆ける。

 触手の残りは3本。1人1本でも、まだ足りない。

 なら……。



(ウチがもう1本を斬る……!)



 イメージしろ。太陽の力を内包する……もう1つの剣を。



「────ッ!」



 その時。脳裏をよぎったのは、まったく知らない魔法名と詠唱。

 この感覚は……初めて向日葵と融合したときの感覚に、似ている。

 美空は一瞬の躊躇もせず、詠唱を口にした。



「闇を呑むは白日の輝煌──

 彼の者は過去を、今を、未来を、世界を照らす──

 持つ者にもたらすはただひとつの勝利のみ──

 其れは誉れ高き空の王者──

 其れは天高く鎮座する全なる支配者──

 今、光りさす道となりて、現出せよ──《黎明に輝く太陽の剣クラウ・ソラス》!!」



 詠唱が完了すると同時に、美空の左手から一際巨大な黄金の光が迸った。

 光が渦を巻き、圧縮されるように美空の手の中に納まっていく。

 金属同士を擦り合わせる、不協和音のような甲高い音が響き……光が霧散した。


 美空の左手に輝くのは、黄金の炎で作られた歪な炎剣。油断すると、一瞬で崩壊しかねない危うさがある。時間との勝負になりそうだ。

 右手にレーヴァテイン。左手に《黎明に輝く太陽の剣クラウ・ソラス》を握り、触腕の悪魔テンタクルに向かって跳躍する。



「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッッ!!!!」



 奴もこの剣の異質さに気付いたのか、残りの触手から魔法の光線を放ってくる。

 光線を紙一重で回避すると、ムーランが触手の1本を脇に抱えるように掴んだ。

 身体強化した力に加えて、ドレスの上からでもわかるほど隆起した筋肉により、触手が今にも引きちぎれそうなほど張っている。

 力は拮抗……いや、僅かにムーランが勝っていた。

 いくら奴が弱体化し、瀕死のダメージを負っていると言っても、この体格差で力負けしていないのは、さすが鬼さんの遺伝子と言っていいだろう。


 触腕の悪魔テンタクルもまずいと感じたのか、別の触手を使いムーランへ攻撃を仕掛けた……が。



「こんの……いい加減しつこいですわよ、あなたはァッ!!!!」

「■■■ッ!?」



 次の瞬間。触手が根元から引きちぎられ、どす黒い血が噴き出した。

 まさか力負けしないどころか、こんなやり方で触手をちぎるとは思ってもいなかった。とんでもないパワーだ。


 と、見惚れている場合ではない。

 触手が更に減った。奴の動きもダメージで鈍い。

 美空は腕をクロスさせてレーヴァテインと《黎明に輝く太陽の剣クラウ・ソラス》を構えると、落下のスピードに合わせて触手の根本へ降り立ち……同時に、残りの触手も斬り裂いた。



「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッッ!?!?」



 すべての触手が胴体から離れ、触腕の悪魔テンタクルは咆哮を上げて目から血の涙を流す。

 直後、奴の背中の中央に線が入り、剥かれるようにして赤く巨大な宝石のような結晶が姿を現した。

 モチャの配信で見たことがある。あれが、触腕の悪魔テンタクルの急所だ。



「ミソラ様!」

「行くよ、ムーランさん!」



 2人で同時に、天井に向かって跳躍。

 天井を足場にして、眼下の触腕の悪魔テンタクルの急所に狙いを定める。

 脚に力を溜め、魔力を練り……天井を蹴る。

 ヒビが入るほどの爆発的な力で、真っ逆さまに落ちるようにして向かう。

 美空は剣を構え、ムーランは体を何回も前転させると──



「《天落の双光フォール・オブ・サジタリウス》!!」

「《暴嵐の円環シュトルム・ヴォーテクス》」



 ──同時に、結晶を穿った。



「────ッッッ!!!!」



 女性の悲鳴のような断末魔を上げる触腕の悪魔テンタクル

 貫かれた体が一瞬膨張すると、渦を巻くように急激に圧縮していき……次の瞬間には、手の平大の球体となって地面を転がった。


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