第38話 「試験」と書いて「鬼ごっこ」と読む①
今日の目覚めはここ最近の中で1番良かったと思う。
それも今日の緊張感からなのかもしれないが、とりあえずはしっかりと起きれたのだからよしとしよう。
天候は晴れで、雲1つない空。そんな空模様とは逆で僕の心は駅へと一歩一歩向かうたびに不安感が募っていく。だが、それに比例して集中力が高まっている気がする。
「… あんた、1番最後じゃん。」
「皆さん早いですね。まだ集合の15分前なのにもう全員集合してたんですね。」
「そうそう、だから最後の連にはみんな分の飲み物を買ってもらおうかな。」
「……いや大丈夫。たまたま早く来ちゃっただけだし。」
「まぁそうか。正直僕も緊張しちゃって、早く起きちゃっただけだしね。」
「皆さんそうなんですね。」
やはり、これまで必死に頑張ってきたとしても、当日となると話が別である。どれだけ頑張ってきた人でも確定された結果などこの世に1つとしてないのだから、緊張はするものなのだろう。
「……まぁそれはついてから話すことにしよう。早く集まったんだったら、もう行っちゃおうか。」
「…はい。」
音無さんの声かけによってみんなも動き出す。
まずは買わなきゃ……才栄学園に。
〜〜〜
電車に揺られて1時間弱
車内では、終始、無言で、各々が各々のやり方で、今日の試験に向けて集中力を高めていた。
正直、僕は誰も話さない雰囲気に何か話したほうが良いのだろうかと、さらに緊張してしまっていたが、みんなには言わないでおこう。
そして、着いたのは才栄学園が持ついくつかの施設のうちの1つだ。
今日はここで僕らが受ける試験をやるらしい。朝早くで休日だったこともあり、電車内は人がポツポツといるだけであったが、会場近くになる日で人がどんどんと増えていった。最寄りの駅では満員近くにまでなってしまったのだから、この試験の規模の大きさが伺える。
「実際、うちの会場だと2000チームぐらい入ってるらしいからね。今年は。」
僕の考えを見透かしたように優が説明をしてくれる
「全国で5会場、どこも同規模で、1つの会場から大体1つか2つのチームぐらいしか受からないらしいよ。」
ネットの情報でおおよそのことは事前に調べてきたが、やはり人から口で言われると実感として感じるものがある。
「こちらで試験の受付をしています。代表の方は自分のチーム番号と同じところに並んで受付をしてください。」
「じゃ、私は受付の方やってくるよ。」
「はい、お願いします。」
〜〜〜
受付を済ませ、更衣室で服を着替える。安心してくれ、優の体を見ていない。音無さん達と合流してからは、係員に連れられ、大きな広場のような場所に集まっていた。
「これはすごいなぁ。」
案内された場所には、今日受験に参加する人たち。優の言葉を信じるなら、約2000チーム、合計8000人ほどがこの場所に集まっている。
正直、嘘だろうともう思っていたが、この光景を見ると、それだけの人数がいてもおかしくないと思ってしまう。あっ、あそこにいるの翼くんたちだな………うん。あっちには行かないようにしよう。
それにしても、ほんとにいろんな人たちがいるな。筋肉のムキムキのマッスル集団。美男美女の集団に、あれは外国人のみの集団か。ほんとにいろんな人が来ているのだと改めて思う。
「それにしても一体これって何なんだろうね。」
優に指刺された方向を見る。その先には大きなコンテナのようなものが2つある。
「それにこれもね。」
次は音無さんの方から声がかかる。
「一応、運営の人から渡されたからつけてるけど、これって何のためのやつ?」
僕らが渡されたのはチーム番号が書かれたビブスのようなもの、スマートウォッチみたいなものだった。スマートウォッチは、まだ電気がつかないし、ペルスみたいなものは、何かちょっと違ったような感触がある。
「多分これも説明の時に言われると思いますのでゆっくり待ちますか。」
「…まぁ、そっか。」
今は落ち着いて、その時が来るのを待とう。
横にいる金剛さんは、ガクガクと震えているし。優はビブスみたいなもの、表裏前後間逆に着ているし。音無さんはカステラを永遠と食べているし。僕はと言うと、ペットボトルの中の水を飲もうとしているが、逆さにして全部こぼれてしまっているし、
……これ、大丈夫か?
「マイクマイク、テストテスト。聞こえてるか、聞こえてるよな。」
「…よしオッケーだ。じゃ……注目!!!」
キーンと、音割れした爆音が耳の鼓膜を破壊する。
「あ〜すっきりした。」
なんだこいつはと、そこかしこからつぶやかれる。
「はいはい、うるさいぞ。帰りたいやつは帰っていいからさ、黙れ。」
その言葉で一瞬にして静まる。
「よし、じゃあ話すぞ。私の名前は闘条だ。一応、才栄学園で教師もやっている。よろしく。」
……才栄学園の先生か。そう言われて見てみると、すごい人物のように見えてくる。目視ではあまり近くないからが、女性に対して言うのもどうかと思うが、男性の中にいても目立つほどの高い身長に、闘条先生の着ている服越しからでもわかるほどに鍛え上げられた身体。
スポーツ系の何かをやっていたことがすぐ分かるほどの人物だった。
「まずは…これを見てくれ。」
そう言うと、スマートウォッチの電源がつき、映像が表示される。
「あぁ、なんと言うことだ、お婆さん...」
「あぁ、なんと言うことですか、お爺さん...」
「「…桃太郎がやられてしまった!!」」
えっ!? 急にどうしたんだ?
「お爺さん...お婆さん...すいません...負けてしまいました。」
「いいんじゃ、桃太郎。もうしゃべらないでくれ!!……これ以上は傷に響く。」
「いいんです...お爺さん。僕はもう...桃太郎を名乗れない。」
「そんなこと言わないでくれ、桃太郎!!「いや!!」」
「僕は...負けてしまったんです。桃太郎は……勝たななきゃいけないんです。鬼を倒し切らなきゃいけないんです。」
「だから...いつか...」
「鬼に...勝ってくれる...本当の...桃太郎を......そして...彼らに...これを......」
「でも、桃太郎、おい、大丈夫か、大丈夫か、桃太郎!!」
スマートウォッチから流れた映像というか、先頭の方でうっすらとやっていたのが見えた劇だと思うが、一体これは何だったんだ?
「はい、よくやったな。みんな拍手。」
わけもわからないまま、拍手をさせられる。本当にどういうことだ?
「……じゃ、そういうことであんたたち、スタートするよ。」
いや、待て待て待て待て!!
説明がないまま試験が始まりそうな雰囲気になり、そこいらからブーイングが発生する。
「お前らうるさい!! 黙らなきゃ失格にするぞ!!」
いや、横暴すぎるだろう!!
「……あ〜わかった、わかった。話すからいったん、黙れ!!」
もしかして、この人って結構適当な人なんじゃないか?
「はぁ〜マジでめんどくさいなぁ。一応、これからルール説明を行うけど、私はめんどくさがりだから1回しか言わないよ。」
「……今回するのは………………………鬼ごっこだ。」
……鬼ごっこ?
才能学園の落第者~凡人として普通を求めた僕の周りには才ある人間が多すぎる~ アルケミスト @aruchemist
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