第51話
夜。俺たちは部屋の中でトランプをしていた。ババ抜きだ。
「これじゃああああ!」
「……はずれ」
「ああああああああ! なんでじゃああああああ!」
いまは陽詩がアゲハからジョーカーをとってしまったところだ。
もう十回以上やっているが、アゲハが異常に強い。常に無表情だからどれがジョーカーなのかまったくわからない。
それに引き換え陽詩は弱い。すぐに顔に出るからジョーカーをとろうとすると表情に出る。
俺と雫は同じくらいの勝率だ。
「んああああ! もう一回! もう一回じゃあああ!」
「……いいよ」
昼のプールで洗髪などもすませたのでもう風呂に入らせる必要もない。
あとはこのままみんなが眠って、明日の朝になったら魔法をかけなおすだけだ。
”マオマオたんは負けず嫌いかわいい”
”いやもうみんなかわいいよ”
”あーあ、一日が終わっちゃうのか”
”なんか切ない気分になってきた”
”子供の頃を思い出して泣けてきた”
”夜通し遊んだりしたよな”
午後九時を回ったところでアゲハがこてん、と倒れた。
それから十分もしないうちに雫が横たわり、三十分後には陽詩もうたらうつらとし始めた。
「もう寝たらどうだ?」
「う……む……わらわ……まだ、遊びたいんじゃ……」
そういって彼女はかっくんと眠りについた。
俺はなんだか微笑ましい気分になりながら彼女たちを三人並べてタオルケットをかける。
「おやすみ」
ちょっと早いけど俺も眠ることにして電気を消した。
満月が顔を覗かせるカーテンのない窓から入ってくる爽やかな夜風を部屋に受け入れつつ、俺はみんなを少しだけ団扇で仰いでいつしか眠りについた。
翌朝。
ちょうど日が昇り始めたころ、俺は目を覚ました。
「魔力は……回復してるな」
よし、やるか。
俺は眠っている三人娘に両手を構えた。
「リライフ!」
時間操作魔法を発動。
部屋の中に時計が出現した。
いままでこの魔法は時間を逆行させることにつかってきた。でもきっとこの時計が鍵なんだ。
針を逆回転させるのではなく、正回転させれば時間が進むはずだ。
俺が念じると、時計の針が回りだした。
みるみる陽詩たちの体が成長していく。
手足が伸びて、タオルケットが大きく膨らんできた。
魔法をかけ終わるころには、安全ピンが外れて彼女たちの体を包んでいたカーテンとシーツがはだけていく。
あ、危ねぇ。タオルケットがなかったら大変なことになってた。配信を切っといて正解だったな。
それから俺は部屋を出て朝の散歩にでかけた。彼女たちが目を覚ましたら気まずいからな。
「そろそろいいかな」
午前十時をまわったあたりで部屋にもどると、陽詩たちはすっかり元通りになっており三人でお茶を啜っていた。
「お、どこいっとたんじゃ幹也!」
「朝の散歩だよ」
「なんでボクらはアニキの部屋で眠っていたんでしょうか?」
「さあ、よくわからんがなんか楽しかったことは覚えとる」
昨日の記憶がないのかな。
「あ、あの、幹也くん……ちょっとお話があるんだけど」
雫が顔を赤らめて俺の耳に顔を近づけてきた。
「どうした?」
「あ、あのね。わたしたち、朝起きたら……なぜか服を着てなくて……わたしが一番に目を覚ましたから、二人にも服を着せたんだけど……みんな昨日の記憶がなくて……あの、もしかしてだけど……」
「うん」
「幹也くん……えっちな魔法をかけたの?」
雫からその質問をされたとき、俺は大人になるって悲しいことなんだなと思った。
「……あとで動画をみせてやるよ」
「えっ!? う、うそ! 本当に!?」
「すごいかわいかったぞ。昨日のお前ら」
「や、やだやだ……嘘……そんな……」
しゅぼっ、と顔を真っ赤にする雫。
面白いから本当のことはしばらく秘密にしておこう。
「茶、もらっていいか? もう暑くてさ」
「う、うん……どうぞ」
雫が氷が入った緑茶をもらい、一気に飲み干した。
暑い夏に冷えたお茶は最高だな。
「ありがとう雫」
つい子供に接するように彼女の頭を撫でると、雫は「へ?」と素っ頓狂な声を出した。
「え、え、な、なんで撫でるの……?」
「あ、悪い。つい」
「や、や、やっぱり昨日の夜、わたしはかわいがられたのね……! ど、どうしよう……。み、幹也くん……ちゃんと責任を……」
「まてまてまて、ちょっとこれ見ろって」
「なんじゃなんじゃ。なんか面白い動画でもあったのかの?」
「ボクにも見せてくださいアニキ!」
こうして、ちょっと変わった夏の思い出がまたひとつできたのだった。
今回のことで学んだことはただひとつ。
子育てって、大変だ。
百年後の日本に帰還した勇者。金も住所も戸籍もないのでダンジョン攻略配信で食っていきます。 超新星 小石 @koishi10987784
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