第50話
「あははは! プールじゃぼぼぼぼぼぼっ!」
「きゃー! とびこまないでよー!」
「……きもちい」
ドノヴァン家の娘さんたちの水着を借りてなんとかみんなを合法的な格好にすることができた。いや、ただ単に水着を着せただけなんだけどな。
しかし陽詩の奴、なんでかたくなにスクール水着を着たがったんだ。
というかなんでマイケルの家にスクール水着があったんだ。
なんか「フリーマーケットで売るのデース!」とか言ってて、いろいろと謎だがどうでもいいか。
たとえだれがなんのために買うのかわからなくとも、外国人はフリマが好き。それだけは絶対の真理なのだ。
”うっほう、幼女の柔肌に照りつけるサンシャイン”
”濡れそぼった幼い肢体を伝う水滴が眩しいな”
”幼女の笑顔と夏のひととき、最高かな”
下劣な趣向の視聴者たちには刺激が強すぎるのか、なんか詩的な表現が増えてきた。
「悪いなマイケル。おかげで助かったよ」
「オー、イエース! マイ・ドーターたちも楽しそうなのでオールライトって感じデース!」
マイケルはバーベキューキットで肉を焼きながらにっこりと笑った。
アパートの庭を占領しちゃってるけど大丈夫なのかなこれ。普通に迷惑な気がしてきた。こんどお詫びも兼ねて、他の部屋の住人に残暑見舞いでも配って回ろう。
子供の世話ってこういうところでもお金がかかるんだな。
「十七夜月さーん、お肉が焼けましたヨー」
マリリンさんが肉を乗せた皿を渡してくれた。
さっき昼飯を食べたばかりだけど、ありがたくいただくことにした。
「先日はマイケルがご迷惑をおかけしてすいませんデーシタ」
礼儀正しくお辞儀をするマリリンさん。いまはスーパーで働いているらしい。
物腰が柔らかくていい人だ。
「気にしないでください。俺たち、友達なんで」
「ハッハッハ! そうデース! わたしと十七夜月さんはマイ・ベスト・フレンドなのデース!」
「マイケル。いまはわたしが十七夜月さんと話してマース。あなたはお肉を焼くことに集中してくだサーイ」
「オー……」
どうやらマイケルは尻に敷かれているようだ。
「十七夜月さんのおかげでまた家族が一つになれマシタ。本当にありがとうございマース」
「俺のおかげなのかな」
「なぜ疑問なのデスか?」
「そりゃだって、日本に渡ってきたのはマリリンさんだろ? それにあなたをそこまでさせたのはマイケルじゃん。俺はなにもしてないよ」
これは俺の本音だ。だって俺はあの時、視聴率を稼ぐことばかり考えていたんだから。
”お、大人っぽいこというじゃんジャージ戦士”
”いやいや、ジャージ戦士はけっこう常識人だぞ”
”まともな人じゃなきゃみんな見ないよ”
視聴者たちもけっこう俺の人柄を認めてくれているみたいだ。なんか、強いとかすごいとかいわれるより嬉しい。
俺の言葉に、マリリンさんは少しだけ驚いた様な顔をして優し気に微笑んだ。
「十七夜月さんはとてもいい人デース」
「そんなんじゃないよ」
「ノー。マイケルが十七夜月さんを気に入るのもわかりマース」
なんか面と向かっていわれると恥ずかしいな。
「ところでマイケルはもう大丈夫なのか? なんか、仕事が大変って聞いたけど」
「イエース。実は親方さんが腰痛で引退して、いまは先輩方が会社を切り盛りしているそうデース。マイケルもこの間、国家資格の試験に合格してこれからモリモリ働くつもりデース」
そっか。ならよかった。
”マイケルのことも応援してるぜ!”
”こんどいっしょにダンジョン潜ろうな!”
”ぜひドノヴァン家も配信してくれ、きっと見るから”
俺は人より少しだけできることが多い。
でも、俺にだってできないことがある。支えることや励ますことはできるかもしれないけど、マイケルの人生を変えることはできないんだ。
マイケルが自分の力で人生を切り開けそうなら、それにこしたことはない。
「それもこれもぜーんぶ十七夜月さんのおかげデース! さあ、じゃんじゃんお肉を食べてくだサーイ!」
「よーし、だったら今日は遠慮なく食うぞ!」
「ハッハッハ! 焼きがいがありマース!」
夏の昼下がり。
俺たちは肉と雑談で盛り上がり、子供たちは水遊びに夢中。
賑やかな時間を過ごした。
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