まだ生きているような気がした
あめり
まだ生きているような気がした
平日の公園で目を瞑ったら世界が耳に懐きはじめた
水面に鯉のかたちの影があり闇に喩えるにはのろすぎた
クロワッサンこぼしまくってサクサクの落ち葉の上に馴染ませている
簡単に潰れてしまうパンが好き やわらかくって不器用だから
聖域のようにしずかなベンチにはカップスープの食べ殻がある
灰皿を囲むと人は少しだけ高校生の空気をまとう
自転車に蕎麦の木箱を引っ提げたおじさんが行く初夏の近道
人間の止まり木として噴水はビル街の中心で噴き出す
ワイシャツの捲った袖を戻すように口調のかたくなっていく午後
同僚に気を配り気を配られてデスクの中の飴玉が減る
先輩が肺に煙を入れているあいだに黒い液体を飲む
記念碑の言葉がひどく正しくて回り道して帰りたくなる
霧雨に打たれつづけるこの街で草も猫背になる金曜日
公共の花壇で育つセージにもまっすぐ伸びてないやつはいる
袖口にたんぽぽの種ここよりも咲きやすそうな場所に飛ばした
誤発注されたお菓子に添えられた手書きポップに絆される夜
こんなわたしにもファミマの店員はフラッペを揉みほぐしてくれる
六月の湿度に抱きしめられながらパピコを分けることなく食べた
味噌汁のほうれん草はあざやかでまだ生きているような気がした
毎日はあした食べたいものとまたいつか食べたいものであふれる
まだ生きているような気がした あめり @devi_taro_san
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