七夕に願いたいこと

 七月七日。今日は七夕の日だけれど、私がこうして意識したのは恐らく今年が初めてかもしれない。

 今までは空庭の屋敷の中で、暇な一日を過ごしていたから行事には大変疎く、私が意識した行事はせいぜい正月と誕生日とクリスマスくらいだ。

「七夕、ねえ……」

 調べてみると、笹に願いを書いた短冊を吊るすということをするらしい。……もっといえば、織姫と彦星が一年に一度再会するというものだけれども。

 何気に学校でもらってしまった短冊が今、私の手元に2枚ある。学校にも笹があったけれど、そこで飾るには難しい願いごとを書いてしまったから、持って帰ってしまった。

「蒼さん、次、お風呂どうぞ」

「わ!ちょ、ちょっといきなり声かけないで頂戴!!」

 後ろから突然、紅也さんが声をかけてくるものだから手に持っている短冊を見られたかもしれないと思った。

「ご、ごめんね……」

 私が強気で言ってしまったせいか、紅也さんは少ししょんぼりとした顔をして謝ってきた。

「こちらこそごめんなさい……。悪気があって叫んだわけじゃないの……」

 たまに私はこういう風に悪気なく、あたってしまうこともある。それは私の昔からの悪い癖だと自覚していたというのに。

「蒼さん、その手に持っているものは――」

「わ、わわ、こ、これは!」

 しまった、と思った。紅也さんに見られてしまい、どうごまかそうかと頭の中でぐるぐると思考が駆け巡る。

「これはあれよ、七夕の短冊!」

 もう一枚あった、何も書かれていない短冊を紅也さんの前へ差し出す。

「ああ、今日って七夕だよね。病院内でも、入院している子供たちがいる病棟はそれで賑わってたなあ」

 その時の光景を思い出したのか、紅也さんはくすくすと笑っていた。

「それ、学校でもらったのよ。予備でもう一枚もらってたから、紅也さんにあげるのだわ。紅也さんも折角だから、何か願い事を書いてみたら?」

 それに、紅也さんの願い事ってとても気になるから、こっそり見てみたいものがある。あの人はどんな願いを書くのかしら?

「そうだね……。じゃあ、蒼さんは何を願ったのかな?参考に見せてよ」

「なっ!貴方って最低なのだわ!!どうして私のを見たがるの⁉」

「だって、何書いたか気になるし……」

 この男は一体どうしてそんな思考になるのかしら、と私は手に持っている短冊をぎゅっと強く握りしめた。

「じゃ、じゃあ、貴方が書いたら見せてあげるのだわ」

「えっ。うーん、わかったよ」

 そういって紅也さんはその辺りにあったペンを手に取り、机に向かって少し唸るような声を混じりながら、短冊に願い事を書いていた。

「書いたけれど……笹は?」

「……ないのだわ」

 ええー、と残念そうな声が聞こえた。学校にあった笹をちょっとだけ頂戴すれば良かったわねと少し後悔をした。

「じゃあ窓辺にでも飾る?今日だけにして」

「そ、そうね……そうしましょう」

 カーテンのレールに短冊を吊るすという異様な光景になったけれど、まあいいでしょう。

「それじゃあ、蒼さんの願い事でも見ちゃおうかな」

「! そ、そしたら私も紅也さんのを見るのだわ!」

 吊るされた短冊を見ようとしたら、高すぎて手に届かなかった。ので、紅也さんに頼んで取って見せてもらった。

 二人で各々の短冊を見ると、顔が熱くなった。気づけば紅也さんも顔が赤らめている。ああ、なんということなのだわ。同じような事、貴方も考えていたのね。



――蒼さんとずっと一緒にいられますように。


――早く大人になって、紅也さんの奥さんになりたい。ずっとそばにいたい。



END

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こうあおショートストーリィ 空鳥ひよの @hiyono_soradori

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