反重力キャンプに舞い降りた天使

地崎守 晶 

「反重力キャンプに舞い降りた天使」

 雑誌コラムの取材という名目で、宙に浮かぶテントから朱色に染まる氷原を肴に傾ける酒は格別だった。

 飲み干しても、ホロ・ウィンドウからオーダーすればオレンジの制服の売り子がすぐに飛んできて、よく冷えたビールを届けてくれる。

 お手本のような笑顔を浮かべた、女学生のアルバイトはホバー・バイクで別のテントに飛んでいく。

 ほろ酔い気分で、テントのジッパーを閉じようとしたとき。


「ああ、男の子が!」


 見れば、テントの一つから転げ落ちた子供が氷原に吸い込まれるように落ちていく。

 その、次の瞬間。私は天使を見た。

 ためらいなく宙に身を踊らせた彼女は、見事に少年を抱き留めた。

 緊急用装備を使い、重力を裏切ってふわりと浮かび上がる。

 降り注ぐ粉雪と、風になびく黒髪と、差し込む陽光と、なにより酒精の悪戯だろうか。

 彼女は翼を広げた天使のように見えたのだ。氷の惑星に舞う天使。

 安堵したように、安心させるように浮かべた微笑。

 私は思わず手を叩いていた。人類が故郷である星の外へ進出する前、宗教画の奇跡。

そう見間違う光景に、賛歌を贈りたくなったのだ。

――コラム、この美談で上書きされちゃうかもな。


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反重力キャンプに舞い降りた天使 地崎守 晶  @kararu11

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