夢と踊る

 カクン、という衝撃で、私は目を覚ました。

 耳にはイヤホンがつけっぱなしになっていて、少しだけ痛い。手元のスマホをツイッと操作して、曲を再生する。


 そしてまた、私は空想の世界へと船を漕ぐ。


 筆に色を乗せる。線で世界を描く。大袈裟かもしれないけど、そう思えるから、私は絵を描くのが好きなのだ。


 高一から使い始めたスケッチブック。中学で貰った水彩絵の具を使い始めたのは、夏頃だった。色塗り嫌いを直してくれた絵の具達に、どれだけ感謝すればいいんだろう。


 初めて描いたのは、一人の少女の絵だった。鉛筆で縁取られた空間に、自分が考えた色を塗っていく。そうして出来上がった絵は、私の宝物になった。

 次に描いたのは、高校の池から思いついたもの。スマホで鯉やら着物やら源義経やらを調べて描いた。透けた感じや水の色を表現するのが大変で、何度も色を拭ってはやり直したのが懐かしい。

 その次は高架橋下の女の子。その後も、私は私だけの世界を、スケッチブックに写し取ってきた。


 そして、今日は土曜日。休日のたっぷり余った時間を使って、私はまた絵を描く。


 今度描くのは、一人の少女だ。窓辺に座る少女の姿はシルエット。そしてそこに宇宙が重なっている。彼女の目の前には、夢の様に美しい青いバラが置かれ、窓の外の月が青白く輝いている。


 この絵は、彼女の姿は、私だけのものだ。

 私の“美しい”は、私だけの“美しい”なのだから。


 クラスメイトに言ったところで笑われるだけの、私だけの物語。

 周りから見れば、何もせず自己満足で終わっているだけの怠け者かもしれない。変なやつかもしれない。だけど、そんなことどうでもいい。私は、私が大切にしているものを評価して欲しいなんて思ってないから。


 最後にさらに星を散らして、絵を仕上げる。

「うん、綺麗」

 一人で呟いてから、後ろのベッドへと倒れ込む。



 一人だろうが構わない。

 誰も分かってくれなくとも構わない。

 美しいは、いつも私の頭の中にあるのだから。


 殻に閉じこもる様にマットレスに身を丸めながら——今日も私は、夢と踊る。



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夢と踊る こたこゆ @KoTaKoYu

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