第4話 夕陽に照らされて。


母が家に来た日、父に電話をたした。


父は無関心で家族にほとんど興味を向けない人だったが

何か変わってるかもしれないとほんの少し期待を抱いて通話ボタンを押した。


「なんだ。急に」


「あの、さ母さんがうちに来た。俺はもう関わりたくないって言ったと思うんだけど」


「知らん」


期待は完全に裏切られた。


あぁ、やっぱりこういう人なんだ。結局歳を重ねたって何も変わらない。


母が変わらなかったように。


「知らんじゃなくて、関わりたくないんだ。もうこっちに母さんが来ないようにしてくれ」


「そうだな。何回もこういう電話をされたら時間の無駄だから言っておこう」


何が時間の無駄なんだ。いちいち腹の立つ言い方をする人だ。


「もう会うことはないね。じゃあね」


「そうか」


吐き捨てるように言った言葉さえも無関心な対応、気が狂いそうになる。


ブチっと電話を切る。叫びたい。


そんなことをしたら自分が近所迷惑になると思ったから小声で「あばよ、クソジジイ」と呟いた、するとなんだか笑えてきて、


葵葉さんのところに戻りたくなる。


「ただいま」


「おかえり!大丈夫だった...?」


「大丈夫!ちゃんと言ってきたよ!着信拒否までした!」


と笑いながらいうと、葵葉さんは悲しげな表情をしてこっちを見つめてくる。


思わず目を逸らす。


「どうしたの・・・?」


「ううん。夏生君が嘘ついてる時の顔してるなって」


「嘘?ついてないよ...」


「目を合わせていって?」


「・・・」


あぁ、わかってる。どんなにクズでも親はやっぱり親だった。少しだけでも、愛されたかったとそう思ってしまう。


「俺、自分の感情がよくわからなくなってる」


「スッキリしたはずなんだ。でもなんだかもやもやする気持ちもある」


「寂しいんだね。夏生君は」


「そうかもしれない」


少しだけ沈黙が流れる。難しい顔をした葵葉さんは夜の空を見上げて、


「私がいるからね」


となぜか少し寂しそうにそう言った。



そして少し時が経ち7月も終わりを迎えようとしている時に大学で変な噂を聞いた。


「最近さ、1人で誰もいない空間に話しかけながら歩いてる若い男の人がいるらしいよ」


「変質者?こわ〜い」


ん?1人で話しかけながら歩いてる?


「しかもたまに手をどこかに伸ばしてるんだって!」


「この大学の近く歩いてることもあったらしいから案外ここにいたりして・・・」


俺だ。完全に。


怖すぎ!と怯える女子たちを横目に、

散歩の位置を毎回少し変えることを決意した。


「ただいま。葵葉さん」


「おかえり!ご飯作っといたよ!」


作れるのか・・・幽霊なのに。

すごいんだな幽霊。


「すごいね。葵葉さんは」


「なんか家のもの自然と触ってたけど触れるみたい!」


触れるらしい。

それにしてもちゃんと美味しそうだ。

一汁三菜。しっかりある。


「いただきます」


まずは玉子焼きを口に含む。

甘いタイプの味付けだ・・・でもただ甘いだけじゃない。

しっかりとダシの風味が効いていて効果はばつぐんだ!


「すごい美味しい、ありがとう」


手料理なんて久しぶりに食べた。すぐに食べ終わってしまう。


「葵葉さんは食べなくて大丈夫だったの?」


「幽霊だもん!」


あ、そうだよな、と思いながら葵葉さんの口元を見ると味噌汁に入っていた小口ねぎがくっついていた。


それくっつく?

面白いからそのままにしよう。誰にも見えないし。


洗い物をし終わり、今日の予定を葵葉さんと話す。


「今日は隣の町に行こうか」


そういうと葵葉さんは


「どんなところ?楽しみ!」


と目を輝かせていた。


しばらくして、隣町に着いた。

少しだけいつもいるところより都会だ。


未だにねぎをつけた葵葉さんと歩いていると霊視占いの看板を掲げたおばあさんに声をかけられる。


「そこのあんたたち。ちょいと来な」


この人・・・本物なのか?見えているみたいだ。

なんの目的があるんだ・・・?


少し悩んでいると葵葉さんが向かっていく。


「見えてるんですか!?私のこと!」


「こんな看板掲げてて見えないはずがないよ」


見えないとしたらインチキだね。と言いながらおばあさんはテントのような店の中に入っていく。


俺と葵葉さんも後に続いて入るが、やけにおどろおどろしい雰囲気をした店内だった。


大丈夫かな。この人。


「嬢ちゃん、先に言っとくよ」


「はい」


神妙な顔をして話し始める。


「口にネギがついてるよ」


あっ


「あっ、ほんとだ・・・」


ごめんなさい。葵葉さん。


「それじゃ、占っていくよ。私が呼んだんだ、値段はいいよ」


「珍しい組み合わせだ。初めて見るよ」


おばあさんはなんだかワクワクしてるみたいに見える。


うーむ、おばあさんはこちらをみながら


「付き合ってるのかい?不思議な縁が見えるよ」


付き合ってるのだろうか、まだ彼女になってとは言ってない、ような。


「一緒にいたいと思ってます」


と俺が言うと


「うむむ、なるほど、お主が幽霊の嬢ちゃんを想う気持ちを忘れなければいい結果に巡り合えるだろうな」


忘れる?そんなことありえない。じゃあ絶対いい結果になるってことじゃないか。


といい気持ちで居ると

葵葉さんが一言も発していないことに気がついた。


「どうしたの?」


「・・・ううん。考え事!」


「そっか。体調悪くなったりしたらすぐ帰ろう」


そう話していると、葵葉さんの霊視が終わったようで。


「うむ、嬢ちゃんは・・・何か大切なものを置いてきてしまっているな。取り戻せるなら、そやつの隣にいれるかもしれん」


なんか霊視というか未来を見ているみたいだ。

すごいおばあさんなのか?


そうこうしている間に占い?は終わった。

おばあさんは最後に、


「外でも手を繋ぎたかったりするなら嬢ちゃんの方に家では手首に何かつけさせな」


と言ってきた。


「なんで家だと触れることを知ってるんですか?」


正直もう怖いレベルだ。


「その子がナワバリみたいにしてるところがそこだからだよ。ある意味結界みたいなもんさ」


「そこでつけていた装飾品はそのものの力が宿る。だからきっとあんたがそれを外でつければその子に触れるはずだよ」


「ありがとうございます!おばあちゃん!」


外でも葵葉さんに触れるのは嬉しい。と俺が思っていると葵葉さんも太陽のような笑顔でお礼を言っていた。


「ありがとうございます。おばあさん」


俺がそう言うと、


「おばあさんじゃないよ!おことさんと呼びな!」


おことさんっていうのか。おばあさんって呼ばれるの嫌なのかな。


「ありがとうございます。おことさん」


「また来な。見てやるよ。次はこれ取るけどな!」


と手をお金の形にさせながらワハハと笑う。


「はい。またきます。それじゃあ」


「おことさん!またね!」


そう言っておことさんの店を出て葵葉さんに手首につけるものを選びに行こう、ということでアクセサリーショップに入ることにした。


かなりおしゃれなのがあるが、値段もかなりする。

2人で使うものだからジェンダーレスのものがいいだろう。


葵葉さんもそれは思っていたのか選んだものはそういったものだった。


値段も高くなく、デザインも完璧だ。

葵葉さんは天才か?


「これ!どっちがつけても合いそうだよね!」


「そうだね。これにしよっか」


購入して外に出ると日が暮れていた。


少し歩いた先の公園で並んでベンチに座った。

2人で夕陽を見ていると葵葉さんがこっちを向いて


「ねえ、夏生君。さっき私と一緒にいたい。って堂々と言ってたね」


「・・・言った」


「へへ、顔赤いんじゃない?かっこよかったよ。もう一回言って?」


「夕陽のせいだよ。」


顔を背ける。もう一回なんて恥ずかしくて言えない。


「夏生君のそばにずっといれたら、幸せだろうな」


と、葵葉さんは明るい声でそう言った。

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ひまわりの幻に恋をする。 @Hasumi_Zui

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