第10話 その後のツトム

「バカな! あの巨体で地下を移動してきただと⁉」


 神官が村の中心に向き直り、攻撃隊も村の外周から急いで中心に走って来る。

 だが巨大な亀の甲羅が地面に飲み込まれたかと思うと、次の瞬間には空高くに弾き飛ばされた。

 その落下地点は駆け寄って来る攻撃隊の進路だ。


「いかん! 止まれ! 止まるのじゃ!」


 だが時すでに遅し、計ったようなタイミングで攻撃隊の上に落下し、十名以上が押しつぶされてしまった。


「あの恐竜、地面の中にいるのにどうやって正確な距離を……振動か!」


 首長の恐竜は土属性の魔法を使うので、ソナーの様に音や振動で速度や人数を把握したのだろう。

 ただの恐竜であればただ驚くだけで済むが、どうやらコイツはタダの恐竜ではない様だ。


「おかしいです! ただの恐竜はあんなに頭が働きません! アレは見た目こそ他の恐竜と同じですが龍に属するのかもしれません!」


 少女が潰された仲間を見ながら穴の開いた地面を似た見つける。

 どうやら恐竜と龍の違いは見た目ではなく能力、特に頭の良さで判断している様だ。


 ツトムとしては初めてこの事だらけで驚いているが、やはり最終的には手を出さない方向でいる様だ。

 いくら同じ人間だからといって、最初に決めた誓いは守るつもりだ。

 だが。


「おとう……さん?」


 少女が潰された村人を見てつぶやく。

 潰されなかった村人が甲羅をどかして救助をしているが、潰されて動かなくなった村人の一人は少女の父親だったのだ。

 先ほどまでとは打って変わり涙を流す少女。

 そんな少女を見てツトムは一気に体中の血液が沸騰したように怒りをあらわにする。


 ツトムのステータスが一気に書き換わりT-REXより強い程度だった数値が無限大になる。

 村中央の穴に飛び込むと穴の中から恐竜のうめき声と何かが折れる音、そして閃光が走り爆発音が響き渡る。


 少しして穴からツトムが出てきた。

 全身が真っ赤に染まり右手には恐竜の頭と思しき物体をぶら下げている。

 少女を見つけると嬉しそうに頭らしき物体を高く掲げて左右に振り回す。


 その姿を見た村人たちは恐怖におびえて声を上げることが出来ない。

 神官や村長すら立ちすくむだけの中で、少女だけがツトムに駆け寄ってきた。


「ツトム様! ああ神の御使い様! 憎き恐竜を倒して下さり感謝いたします!」


 随分と大げさにひざまずき何度も頭を下げる。

 それに触発されたのか他の村人たちもツトムを崇めるように膝を付く。

 少女の機転により事なきを得たが、その事にツトムが気が付くのは随分と後になってからだ。


 この恐竜の襲撃から四十年が過ぎた。

 広い茅葺き屋根の屋敷の中で一人の老婆が眠っていた。


「カヤ、体調はどうだい?」


 ツトムが部屋に入ると老婆はゆっくりと目を開け、ツトムの方に顔を向けると体を起こそうとする。


「ツトム様……わざわざこのような場所にゴホッ! ゴホッ!」


「ほら無理に起きなくてもいいよ。はい、薬湯が出来たよ」


 老婆の背中に軽く手を当てて上半身を起こし、老婆の口にゆっくりを薬を流し込む。

 時間をかけて飲み干すと、老婆はコップを持つツトムの手を両手でつかむ。


「ツトム様はお若いままじゃ……それに比べて私は……」


「なにを言ってるのさ。カヤは昔から変わらないカワイイままだよ」


「ふぉふぉふぉ、ありがとうございます。思えばあなた様にお会いしてから、私は毎日が幸せでした」


「僕もだよ。この村に案内してもらって、僕はようやく落ち着いて生活する事が出来たんだから」


「子供や孫にも恵まれましたしのぅ」


 ツトムには四人の妻と二十人の子供、八十人の孫がいる。

 村の場所を変えて更に大きくなり、今では四百人近い村人が住んでいる。

 恐竜や獣などはいくつもの種類に分類され、それぞれの習性や戦い方を明文化し、かなり強固な村へと変貌していた。


「沢山生まれたね。カヤと僕の最初の子供は村長になってるし、長女は神官だね」


「もっと……一緒にいとうございました」


「なに言ってるの、まだまだ一緒だよカヤ」


 ツトムの手を持つ老婆の手から力が抜けベッドに落ちる。

 老婆をベッドに寝かせ、口元に顔を近づけ、そして胸のあたりに耳を当てる。

 ツトムは静かに嗚咽を漏らすと老婆に覆いかぶさった。


 それから数年が過ぎると、ツトムの他の三人の妻も息を引き取る。

 それを機にツトムは村を出る事を決意した。


「父上! 村を出て行かれるというのは本当ですか!?」


「ああ、その通りだよ」


「なぜですか! この村には父上のお力が必要なのですよ!」


 長男の村長と長女の神官に詰め寄られるが、ツトムの意思は変わらない。


「この村はもう俺がいなくても大丈夫だ。他種族の人型とも生活が安定し、外敵からも守れる力がある」


「そういう事ではありません! この村は父上が作られたのですよ!? それを捨てるとは無責任ではありませんか!」


「だから出て行くのだよ」


「え?」


「今のお前達なら十分村を支えて行ける。なのにいつまでも俺が居たらどうしても俺を頼ってしまうだろう」


「それは、そうかもしれませんが」


「だから出るのだよ。俺は一つの場所に長くいてはいけない存在なんだ」


 その言葉を使われては反論する言葉が出てこない。

 なにせ今のツトムは息子よりも、いや孫よりも若く見えるのだから。

 この村の最も近くにある他の村までは百キロメートルほど離れている。

 この距離ならば問題は無いが、更に人口が増えていけばツトムの事が問題になる事は間違いない。


「気が向けば遊びに来る。その場合は一人の村人として迎え入れてくれ」


 その後ツトムは二十年ほど後に村に戻り子供達を見送り、更に二十年後に戻ると孫を見送った。

 その後は村に戻る事はなく、ツトムの消息は掴めなくなる。

 次にツトムが姿を見せたのは数千年後。


「ファイヤーブリッツ!」


 杖を持つ少女が大型の四本足の獣に向けて魔法を放つと、獣は一瞬で燃え上がり動かなくなる。


「やったよツトム! やっぱりツトムの言う通りだったね!」


「ふっふ~ん、凄いでしょ」


「うんうん、凄い凄い! じゃあ次にいこっか!」


 魔法使いのような姿をしたツトムは少女に言われて更に森の中を進んでいく。

 たった数千年で文明は随分と進み、レンガや石壁が当たり前に存在するようになった。

 多種多様な種族が同じ街で暮らし、いくつもの国が存在している。


 ツトムは自分が作った世界を旅し、今はこの街で暮らしている。

 余計な干渉はしないまま、ありのままの世界を楽しんでいるのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

女神に頼まれ星づくり! 無意識に無双してる 内海 @utumi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ