第9話 長生きした恐竜の魔法

 ツトムがベッドで少女に襲われそうになっている頃、村長と神官は二人だけで話をしていた。


「伝説の通りだ。『ある日突然かの者はやって来る。体に見合わぬ力と知識を持ち、新たな世界にするだろう』と」


「しかし本当にあの者がそうなのか? 普通の少年にしか見えんのじゃが」


「ここら周辺に村らしい村はここしかない。それに他の村から逃げてきたにしてはきれいすぎる」


「それはそうじゃが」


「なに、門の右に住む狩人の下の娘が相手をしているはずだ。単純に神託を聞けるのならば良いし、違っていても村に人が増えるだけだ」


「どちらにしても悪い事ではない、か。それならば構わんのじゃが」


 翌朝にはツトムと少女が仲良く部屋から出て来た事で、神官の目的は達成された様だ。

 それに本人達もまんざらではなさそうだ。

 

 さらに数日後にはツトムは未来予知という名の神託を伝える。


「なにか巨大な生き物が近づいて来ています。村を捨てるか迎え撃つか、その判断はお任せします」


 宴会が行われた集会場に村人が集まり、ツトムは神託を伝える。

 どうやら神託を聞ける人物は過去にも居たようで、ツトムの信託はすんなりと受け入れられた。


「ツトム様、巨大な生き物とはどの程度の大きさなのでしょうか」


「村の中心に飾られている甲羅を持つ生き物よりも巨大です。それに……地面から大量の土を噴き上げています」


 ツトムが見た未来に現れる巨大生物はこの世界では地龍と呼ばれる部類の物で、亀やトカゲ、恐竜が進化した生き物だ。

 今回現れるのは四足恐竜が進化し魔法も使えるタイプのようだ。

 ちなみに村の中央に飾られている亀の甲羅、高さは五メートルで横幅は十メートル以上もある大物だ。


 それよりも大きいというので村人は大変な騒動だ。


「逃げましょう! あの龍を倒す時でも犠牲が出たんです。それよりも大きい物なんて無理だ!」

「そうだ! 村は別の所に作ればいい!」


 という逃げる派。


「いやあの龍の時よりも狩人の数は増えている。勝てるはずだ」

「それに龍と戦う訓練をしてきたんだ。逃げたら訓練の意味がない!」


 という抗戦派に分かれた。

 その意見を聞いた村長と神官は顔を見合って頷く。


「皆の者、今回は神託のお陰で準備が出来るのだ。あの龍の時よりも有利に進めるのだ」


「うむ。ここで逃げてもいつかは龍に襲われるのじゃ。ならば逃げずに戦うのが良かろう」


 二人にそう言われては逃げる派は従うしかない。

 そしてすぐに戦いの準備が始められた。


 数日後の早朝。

 地響きが村に響いて来る。

 だが村は静かで物音ひとつしない。

 村の周囲の木は切られて見晴らしがよくなっており、森から出てきたらすぐにわかるようになっている。


 森から出てきた大きな生き物は首とシッポが長い四本足の恐竜で、その全長は五十メートル以上、胴体だけでも高さは十メートルを超えていた。

 恐竜が餌場を見つけたのか、村へ向かって移動を開始する。


 そして長い首と顔が村の敷地に入ろうとした時だった、バチバチと放電現象が起きて村への侵入を阻止するようにバリアのようなものが発生した。

 悲鳴のような唸り声をあげると恐竜は村周辺の土砂を爆発したように大量に噴き上げ、村を埋める勢いで叩きつける。


 だがバリアのようなものは上もガードしているようで、土砂が村に降りかかる事は無かった。


「今だ! 集中攻撃!」


 静かだった村の家から人が飛び出し、一斉に魔法を撃ち始める。

 狩人のみならず普通の村人まで魔法を使っている。

 炎、水、風、土、四種類の魔法があちこちから恐竜目がけて飛んでいき、長い首が見えなくなるほどに煙が上がる。


「全員魔法を使えるんだ」


「それは使えますよ。私だって、ほら」


 少女は恐竜に手をかざすとファイヤーボールを撃ちだした。

 獣人などの人型は種族ごとの住んでいる場所や特性により使える魔法が制限されていたが、人間は個々の属性により使える魔法が決まる様だ。

 それにしても少女、意外と魔法を連射していて戦い慣れている。


「私、将来はお父さんの跡をついて狩人になりたいんです。へへ、これだけ強ければなれますよね?」


 少し得意げにツトムを見るが、あどけない顔に似合わずしっかりと将来の目標がある事に驚くツトム。

 魔法を撃ちこまれてかなり怯む恐竜。

 しかし魔法戦になれているのか次の手を打ってきた。


 恐竜は村からの攻撃を遮るように巨大な土の壁を作り出し、村からは恐竜が見えなくなってしまった。

 村からの魔法攻撃が一旦やみ、次の動きを待っている。

 しばらく沈黙が流れたが、次の瞬間には村の真ん中に大きな穴が開いた。


「なんじゃとぉ!? まさか地下から現れたのか!」


「バカな! 地下にもバリアを張ってあるはずだ!」


 村長と神官が驚いているが、どうやら敵が正面から現れた事で地下への警戒が薄くなってしまったようだ。

 大きな土の壁が崩れるとそこには恐竜の姿はなく、そこにも大きな穴が開いていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る