第82話 斉藤くんと不安
「斉藤くん、最近元気がないみたいね。どうしたの? 相談に乗るわよ?」
「いえ、何でもないです! 仕事に戻りますね!」
カーテンを開いて、売り場に戻る。お店では安西さんがお客さんからの注文を受け、キッチンに戻ろうとしている最中だった。
あの安西さんに、キスされたんだよな。
あれが嘘だったなんて、忘れたなんて、よく読んでいたラノベの鈍感な主人公みたいなことは言えるはずはなかった。
花火のとき、頬に感じた感触は今でもちゃんと覚えている。
「……安西さんは俺のことを」
今まで安西さんがどう思ってくれているのか分からなかったけれど、あの一瞬で気づかされた。
それでも俺は――
「あ、斉藤くん、A卓さんが――」
「はい、伺います!」
夏祭りから一週間が経ったが、安西さんをちゃんと話せていなかった。それどころか、安西さんと目が合った瞬間に避けるようになっていた。
分かっている。こんなことをしちゃダメだってことは。
安西さんのことは嫌いじゃない。
何度も助けてくれて、励ましてくれた。
そんな安西さんのことを嫌いになってなれるはずはない。
ちゃんと好――
「店員さん、まだ?」
「あ、ごめんなさい! 今伺います、えっと――」
「これと、これと、これ! あとこれも頼むは!」
ダメだ今こんなことを考えたら、バイト中だ。ちゃんとやらないと。
安西さんたちに迷惑をかけられない。
安西さんは今日も隣で夢を見る。 結城瑠生 @riru
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。安西さんは今日も隣で夢を見る。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます