第81話 安西さんと花火
「安西さん、こっち、もう少しだから」
やきそばにわたあめ、金魚すくいと屋台を回り終え、俺は安西さんの手を取って、転ばないように気を遣いながら、ある場所に向かっていた。
「この辺なんだけどな」
周りを見ても数人しかいないが、掲示板で見た場所はこのあたりだったはずだ。祭り会場からは少し離れているが、ここが一番――
「綺麗に見える場所で――」
その瞬間、ドンッと大きな音を立てて、夜空に花火が開いた。
黒い影となった空を、胸に響くほどの炸裂音と共に、何色にも色づいた花火が花となって、しだれとなって、埋め尽くしていく。
花火が有名とは聞いていたけど。
想像以上の絶景に俺は無言で見入ってしまっていた。
数秒間、いや、数分だったかもしれない。花火に見上げていると、繋いでいた手がぎゅっと握られた。
「……綺麗だね」
「そうだね」
安西さんの言葉にそっと頷き、安西さんの方を向く。
花火に照らされた安西さんの横顔は、
「綺麗だ」
声に出してしまうほど、花火よりも美しかった。
「ねぇ、斉藤くん?」
「……え?」
もしかして、さっきの聞かれちゃったか? きかれてもいいんだけど、恥ずかしすぎる――
「ありがとうね」
「……?」
言葉の意味が呑み込めず、首を傾けると、安西さんは花火を見つめながら、言い直した。
「私だけだったら、お店のことも、勉強のことも、いろいろできてなかったから。斉藤くんがいてくれてなかったらきっと、全部中途半端になっちゃったと思うんだ」
「いや、そんなことないって安西さんだったら」
「ううん、そんなことないよ。君がいたから」
安西さんがそっと振り返る。
握られていた手が離れた瞬間、俺の顔に柔らかな感触が押しあてられた。
「ありがとう、芳樹くん」
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