第80話 安西さんと射的③
装着方法は分からないけど、これでいいはずだよな。
悲しませたくなくて、カッコいいところを見せたくて、お金を払ってしまったけれど、射的なんてやったことがなかった。
隣では安西さんが心配そうにこっちを見つめている。
もたもたしていたら、きっともっと心配させそうだったので、俺はニコッと笑って、銃とぬいぐるみに視線を戻した。
ぬいぐるみとの位置はほんの数十センチ。真っすぐ飛んでいってくれて当たりさえすればきっと倒れてくれるはずなんだ。
「よしっ」
コルク弾は銃にとりつけた。あとはトリガーを引くだけ――
「え?」
その瞬間、ポンッと鈍い音がして、弾は真っすぐ飛んでいくこともなく、地面に落ちていった。
「お兄さん、どうしたんだい? 分からなかったら――」
「いえ、大丈夫です!」
きっと着け方が悪かったんだ。ちゃんと取り付ければいいだけ。残りは四発。試し打ちすらできていないけれど。
「いけっ」
と、引き金を引くと、弾は真っすぐ飛んでいって、軽くぬいぐるみの腹を掠った。
残りは三発。
すぐに装填しなおして、ぬいぐるみを狙う。しかし、ぬいぐるみに当たることはなく布に当たって落ちていく。
もう一発と打って、プラスチックの白い皿に置かれた小さな弾を確認したら、残り1つになっていた。
これが最後。
隣を見ると、小さな男の子達がこっちを見てきていた。
これを外したら、カッコ悪いよな。
安西さんは――
いや、今は見るのは止めよう。
きっと応援してくれているはずだ。見るのはちゃんと、ぬいぐるみを渡してからの方がいい。
今見たら取れなかったときにどう返したらいいか分からなくなる。
「やるか」
再度装填してぬいぐるみに銃口を向ける。
狙いは安西さんが狙っていた小さなクマのぬいぐるみ。
「いけっ!」
その可愛らしい丸い目をめがけて、静かに引き金を引く。
真っすぐにぬいぐるみに向かっていった弾は、ぬいぐるみの顔の部分へとあたった。
倒れろ。
弾が当たったぬいぐるみがゆらゆらと揺れる。くるっと一回転したぬいぐるみは、頭から転がり、下へ落ちていった。
「お、おおあたり!」
店主の声で、周りにいた人たちが何事かとこっちを見てくる。隣にいた小学生ぐらいの男の子が「兄ちゃんすげぇ」とキラキラした瞳を浮かべていた。
「ありがとうございます」といって、店主から景品を受け取る。
後ろで待ってくれていた安西さんの方を振り返ると、少し恥ずかしそうにしていた。
「これ、安西さんに」
「……あ、りがとう」
ぬいぐるみを手渡すと、頬を染めた安西さんは胸元でぎゅっとぬいぐるみを抱きしめた。
「斉藤くん、ありがとう!」
取れてよかった。
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