第79話 安西さんと射的②

「安西さんって、射的やったことあるの?」

「あんまりない、かな」


 安西さんはそう言いながら、おじさんから銃と弾を受け取ると、すぐに銃を構えだした。片足立ちをして、おもちゃに銃を近づけている。その姿からてっきり経験者だと思ったけど、そうではないらしい。


 景品が決まったのか、安西さんは店主にまかせることなく、銃に弾を装着した。

 狙いは――


「クマなんだね」


 片手に収まりそうなくらいの、小さなクマのぬいぐるみだった。

 集中しているのか、俺の発言をスルーした安西さんはもう一度銃を構えていく。

 そして――

 パァンと軽い音がして、弾は後ろの布に当たり落ちていった。


「……んん」

「安西さん、まだ弾はあるから!」


 後、弾は四発もある。いくら当てるのが難しいからといって落ちないわけがないはずだ。


「じゃあ、もう一回!」


 えいっと放たれた弾は、ぬいぐるみに当たる。

 けれど、揺れただけで倒れてはくれなかった。

 惜しいと思ったのか、安西さんはすぐに弾を装着していく。

 一発、一発、と布に当たり、最後の弾は――


「おおあたり!」


 隣のスマホケースに当たって、スマホケースは台の下に倒れていった。


「おめでとう、安西さん!」

「……うん、ありがとう」


 おじさんにスマホケースを渡された安西さんが銃を置いて近づいてくる。

 その表情はどこか悔しそうだった。

 これじゃあ、ダメだよな。

 せっかくの一緒に来た夏祭りだ。こんなところで安西さんを悲しませたりなんかしたくない。


「おじさん、俺にもやらせて!」


 俺はおじさんお金を渡して、銃と弾を受け取った。

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