第78話 安西さんと射的

「そこの――の若いお二人さん!」


 屋台を見ながらゆっくり歩いていると、屋台のおじさんに声をかけられた気がして、俺は立ち止まっていた。

 隣を歩いていた安西さんは俺が急に足を止めたのに驚きながら、なぜか顔が赤くなっている。

 って、あれ? さっきおじさんなんて――


「カップルの若いお二人さん」


 もう一度言われて、俺はようやく自分が間違っていたことに気がついた。

 今、カップルって言ったよな。

 カップルって。

 聞こえてなくて気になって立ち止まったけど、他の人から見たら完全にカップルだと言われて振り返ったように見えるはずで。

 安西さんはそれに――


「いや、俺たちはカップルじゃないですから!」


 完全に間違えた!

 立ち止まるんじゃなかった。


「そうなのかい? まぁいいや。君たち、射的やっていかんかね。ちょっとサービスするよ」

「いや、ごめんなさい!」


 もう色々と限界だった。


「安西さん、別のところへ――」


 この場から早く逃げたくて、安西さんの手を取ると、


「やろ!」

「え? ちょっと、安西さん?」

「お願いします!」


安西さんは俺の手を掴みながら、おじさんにお金を渡していた。

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