12話 決着

 俺は剣を逆手に持ち、腰を低くする。


 そして――、


 一直線。ノエルへ向かって疾走する。


 再び20メートル走だ。


 加速していく俺の体には風が纏わりつく。


 試合開始のときの全力疾走なんて比べ物にならない。その速度は人間の限界を超えた超スピード。


 疾風切り――戦士ならだれもが所有している、そして誰もが使わなくなるスキル。


「そんな単純な攻撃――!」


 これは、素早く相手に迫り斬撃をお見舞いできる技だが、途中で停止することができずそのまま相手の反撃を受けることが多い。


 ノエルから反撃の矢が放たれる。


 このままなら脳天に突き刺さるだろう。


 そう、このままなら。


「――解除」


 俺の体に纏わりついていた風は消え去り、俺はみるみるうちに減速する。


「っ!」


 減速した俺は胴体をまるでフィギュアスケートのように後ろへ反らし、矢を回避する。


 そして再び剣を逆手に、腰を低く、疾風切りのスキルを発動。


「くっ、避けきれな――」


 ノエルの腹部を斬り裂く強烈な一撃。


 一瞬にして辻斬りのように通り過ぎる。


「まだまだぁ!」


 攻撃の手は止まらない。反転し、今度は逆手に持った剣で下から上へ、アッパーのように斬り裂く。


 これは【剣技・登り龍】のモーションだ。


 天へと昇る龍のように、ノエルは空中へ打ち上げられる。


 居合切りのように左腰で剣を構え、空中の標的を観察する。


 ……よし、今だ。


 横一線、素早く空気を斬る。


「……紫電一閃」


 刃から巨大な光の刃が放たれ、落下するノエルに直撃。


 ノエルが闘技場の端まで吹き飛ぶ。


「どうだ!」


 疾風切り、登り龍、紫電一閃。スキル三連続による波状攻撃に観客は歓声を上げる。


「驚いた。いきなりこんなことができるなんて」


「正直、俺も想像していなかった」


「ずるいなあ。本当に。簡単に追い越してくるんだから」


「悪いな。運で装備が強いだけじゃなくて、PVPも天才だったみたいだ」


「うわ、イキリだ。きもーい」


 戦闘中だというのに二人で軽口をたたき、笑いあう。


 観客は困惑している。


「「さて」」


 空気が一変。両者武器を構え直し、戦闘を再開する。


――――――――


 そこから先、俺は複数のスキルを格闘ゲームのコンボのように組み合わせ、着実に追い詰めていった。


 しかし、さすがノエルと言ったところか。拳闘士スキルによるカウンターや弓矢による牽制で機敏に対処され、なかなか決定打とはならなかった。

 

 観客はこの一歩も譲らぬ戦いに時折息をのみ、熱狂し、拍手と歓声を送る。


 お互いのHPは二割を切っている。


「っ――!」


 段々とこちらの動きを読んだノエルが俺の剣技を躱し、俺は発破拳をくらう。


 残り体力は……もう一割程度。


 『次に大技を当てた方が勝つ』


「いくよ。名残惜しいけどこれで終わり!」


「ああ、受けて立つ!」


「「スキル発動!」」


「雷帝の鉄槌!」「弩弓・劫火!」


 その剣はまるで神の裁きの一振り。その矢はまるで全てを燃やさんとする炎。


 二つの大技がぶつかり合う。


 始めに轟音。次に爆風と熱気。


 辺りは包み込まれる。


 炎が俺の体を包む。

 

 熱い。熱い。アツイ。アツ、イ。


 身体が溶けるようだ。


 だが――!


――――


 闘技場を覆っていた爆炎がはれて、勝者が姿を現す。


 そこに立っているのはただ一人。


「俺の……勝ちだ!」


 中心で剣を天に掲げる。


 勝者の誕生に観客は歓声をあげる。


 ――間一髪だった。


 あの瞬間。盾を構えてスキルを発動していなければ俺はノエルに負けていただろう。


「あーあ、負けちゃったな」

 

 ダウンして突っ伏していたノエルが立ち上がる。


「どうだ! 実力で勝ってみせたぞ!」


「うん。凄かった。まさかいきなりスキルトレースをやってのけるなんて」


 スキルトレース? 知らない単語に俺は思わず首をかしげる。


「え、名前も知らないでやっていたの? スキルトレース。スキルの発動モーションと攻撃モーションをプレイヤー自身が再現することで細かい調整が可能になる。疾風切りの中断もそう」


「名前も知らなかったし、詳しいことも知らなかった」


「もっと詳しく理解した方がいいと思うよ。敗者からのアドバイス。次の試合もあるんだから」


「ああ、ありがとう。ノエル」


 握手を交わす。


「絶対優勝してよね」


「当然!」


――――――――


 次の戦い。周りにいる七人の中に俺の知り合いはいない。


 がおちゃんさんも負けたようだ。


「それでは、さっそく準々決勝の組み合わせを発表します!」


 りりぃがボードの布を引っぺがす。


 八人と観客が一斉にボードに注目する。


 すぐに俺の名前を見つける。対戦相手は……!


 ”エリス”。 一回戦でアオイを、二回戦でがおちゃんさんを倒した槍使いだ。


 彼女(?)を傍で見つけ、ついじっと見る。


 全身は鎧に包まれ、頭も兜で覆われておりどんな表情かもわからない。


 そして、その右手に握られているのは禍々しい赤色の槍。


 あれに二人はやられたのか。


 上級プレイヤーのがおちゃんさんに勝つほどのプレイヤーだ。


 きっと、次の戦いも激しい一戦になるだろう。



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