11話 PVP大会・二回戦 親友ノエル
「お待たせしました。二回戦、【ユキ選手VSノエル選手】の試合を開始いたします!」
俺は熱狂に包まれる闘技場の中央に姿を現す。
観客の鋭い視線が俺に注がれる中、自信と決意を胸に満たす。
向こう側からノエルが姿を現した。彼の冷静な眼差しは、いつもの親友のそれとは違う。手には弓がしっかりと握られている。
その風貌まさに獲物を狩る狩人だ。
「それでは、10,9,8――」
「手加減無し、だからね」
真剣な表情。どうやら本気のようだ。
「もちろん。本気で行く」
俺だって手加減する気はない。親友だからこそ真剣勝負で応える。
俺は身を低くし、剣の柄を握りしめる。
「――2、1、試合開始いいい!」
闘技場の雰囲気が緊迫感に包まれる中、戦闘が始まる。
俺は剣と盾を、ノエルは弓を構える。
俺は砂を蹴り立て、ノエルの元へ跳ぶ。
およそ20メートル。短距離走選手のように素早くゴールへ疾走する。
――10メートル。
ノエルが弦に矢をかける。
――5メートル。
目の前で放たれた矢を盾ではじき落とす。
「スキル、紫電一閃!」
速攻。右腰から左肩までを斬り裂かんとする迅速な雷の一撃。
刀身は光り輝き、その一振りは二つの斬撃を生む。
「くっ――!」
しかし、彼の機敏さは俺の予測を超える。
一瞬にして俺の右側へ回り込む。
斬撃は空を斬り裂く。
そのことを目で理解した瞬間。
ドォン!
右脇腹に深い一撃を受ける。
ノエルが段々と離れていく。
壁に強く叩きつけられ、自身がぶっ飛ばされたのだと理解する。
ノエルの右手からは硝煙が上がっている。
この威力、あの硝煙。
今のは闘拳士のレベルスキル【発破拳】に違いない。
――まずい、すぐに近づかなければ!
弓を持つ相手から距離を持つこと。それが意味することを理解するのはそう難しくはなかった。
盾が落ちている場所は遠い。拾っている暇はなさそうだ。
手元に落ちている剣を急いで拾い、再びまっすぐに走る。
「スキル、アローレイン!」
ノエルが上空に矢を放つと、俺の頭上でその矢は光り輝く玉となり、留まる。
すると、それは無数の光矢と変形し無数の矢になり降り注ぐ。
「くっ、王の雷檻!」
剣を地に突き刺し、ドーム状に雷を展開。
檻に触れた矢は届く前に焦げて消滅する。
檻から放たれる光刃はノエルの元へ走る。
しかし、彼の正確な狙撃で相殺される。
スキルの応酬に観客は熱狂する。
「驚いたな。まさか拳闘士のスキルを使ってくるなんて。そこまでレベルを上げているなんて知らなかった」
「アップデート日からずっと必死にレベルを上げていたんだよ。ユキよりも多く、一人で毎日ね」
「どうして一人で」
「追い越したかったんだ。ずっと並んでいたはずなのに、いきなり大きな差をつけられたんだ」
「悔しかった。運で差をつけられるなんて、納得ができなかった」
普段のノエルなら聞かせてくれない言葉。
「その通りだ。俺は宝くじで一等が当たったから強いに過ぎない。この全身の+3装備は全て運で手に入れたものに過ぎない」
「お、おい。宝くじで一等って……」「本当か?」「あの装備、嘘じゃないかも……」
観客席が騒がしい。だが、どうでもいい。
ゴウガとの戦いを思い出す。あの勝利は俺のグランドブレイカーが+3だったからだ。ビッググリズリーにも苦戦し、グランドールにも勝てなかった。
俺は実力で勝ってきただろうか。
俺は強いのだろうか。
「ならば、俺も努力で応える。装備の力だけではなく、運の力ではなく、俺の力で勝ってみせる」
とは言ってもこのままでは勝つのは困難だ。
近づけば俊敏性を生かしたカウンター。距離を取れば正確な狙撃と広範囲攻撃。さらにレベリングにより得ただろう多数のスキル。
対する俺は紫電一閃と王の雷檻のワンパターンな戦い方。
視界右下のスキル一覧を展開する。
勝つには二つのスキルだけでは足りない。
思い出せ。レベルが上がり使わなくなったスキル。使うケースの限られるスキル。
きっと、普通の攻撃では勝てない。
予想外の攻撃。スキルの枠にとらわれない攻撃をしなければ。
……そうだ。
一つ。全てのプレイヤーが知っているけれど忘れ去られてしまう仕様を思い出す。
【発動後のモーションはシステムがプレイヤーの体を勝手に動かして行う。だが、その間にプレイヤーの意思で体を動かせばスキルをキャンセル出来る。】
「……そうか。これなら!」
「システムオープン! オートシステム、スキルモーションサポートを解除!」
「なっ!? 何をする気!?」
【サポートをオフにすると、スキル発動が困難になる場合がございます。それでもよろしいですか?』
親切なシステムを無視。
「ああ、かまわない!」
「承認。プレイヤー【ユキ】のスキルモーションサポートをオフにしました」
観客席がうるさい。
「お、サポートをオフって……正気か!?」「勝負を捨てたのか?」
そう思うのも無理はないだろう。だが、これなら想定を超えた動きができるはずだ。
「いくぞノエル。ここからが本当の勝負だ!」
「――うん、見せてよ。ユキの強さを!」
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